階段で異性とぶつかって恋に落ちるなんて少女漫画だけの話と思ってました

まひる

文字の大きさ
上 下
75 / 92
交際編──第九章『熱く』──

その75。互いに言いながら照れる状況もある

しおりを挟む
 ※ ※ ※ ※ ※

 脩一しゅういちとの待ち合わせは休憩室で、美鈴みすずは走らないように気を付けながらも、精一杯のスピードで内勤者用の制服に着替えた。
 既に社員の誰一人として更衣室に残っている者はいなかった為、ある意味心置きなく済ませる事が出来たのである。

「脩一さん、お待たせっ」
「あぁ、大丈夫。何本か仕事の電話をしていたし、それ程待っていないから。さぁ、四階の第二会議室だ。行こうか」
「おぉ……、相変わらず手際の良いエスコート」

 美鈴が顔を出した時にちょうど通話を終えたらしい脩一だったが、即座に彼女へ歩み寄って腰に手を当てた。
 現実としてそのような光景を見たり聞いたりしないのだが、何故か脩一は美鈴が思う物語の王子様的な行動をしてくる。

「ん?あ~……、またこれ・・の事?ってか美鈴、もう諦めて。手放す気なんか更々ないって言ったよな?俺の行動ってば、独占欲の現れでしかないから。『俺のだ』って周囲へ知らしめてるの。……逆に、言われるたびに恥ずかしくなる。俺もこういう感情、初めてなんだよっ」

 そう言いながら、隣で不貞腐れたように視線をそむけた脩一だ。
 それを見て美鈴は、心臓がきゅん・・・と絞られたような感覚がする。──そして思わず口に出していた言葉。

「……かっ、わぃ……」
「っ、美鈴?」
「あ……、ごめんなさい。男の人は可愛いって言われても嬉しくないよね」
「いや、美鈴からなら良いや。……ふっ、俺も大概美鈴にはまってる・・・・・からな。お前からもらえるものなら、何だって良い」
「な、何それ……もっ、恥ずかし……」

 互いに言いながら照れているのだが、周囲に誰もいないからと美鈴は開き直る事にした。
 脩一は話しながらも美鈴を誘導している為、二階の休憩室から階段を上り、時を待たずして四階の会議室前に到着である。

 第一から第四までの小会議室は、十人程度の打ち合わせが出来るように準備された部屋だ。社屋しゃおく内は他に第五と第六の大会議室、階が違うが大ホールもある。

 そしてすぐに目当ての第二会議室前に立ち、静かにノックをして入室の確認を取るのだった。──これら一連の行動が流れるようである。

「牧田くんと柊木ひいらぎさんだね。どうぞ、入って」
「はい、失礼します。お待たせ致しました」
「失礼します。すみません、遅くなりました」
「良いよ、気にしてないから大丈夫。少し寂しかっただけ」

 宮城野みやぎの課長の声が返ってきて、脩一と美鈴は入室する。
 入室早々、随分と待たせてしまった宮城野課長に謝罪をするが、にこやかに冗談とも取れる返しをしてきた。
 美鈴としては宮城野課長の人柄を知らない為、今の発言の意図が分からない。そうして改めて目の前の宮城野課長へ視線を向けた。
 一言で彼を言い表すならば、筋肉質マッチョである。一課の冨沢とみさわ課長とは違う方面ではあるが、物凄く格闘技をやってそうだった。

「どうしたの、柊木さん。そんなに熱烈な視線で私に見惚みとれてると、牧田くんが妬いちゃうよ?」
「ほぇっ?や……ち、違いますっ」
「宮城野課長。奥さんに言い付けますよ」

 小首をかしげて笑顔で告げられた内容に、美鈴は慌てて顔の前で両手を振って否定する。机を挟んで対面に座っている脩一は、宮城野課長に冷めた瞳を向けていた。
 宮城野課長が愛妻家である事は二課の営業担当の中で有名で、いまだに『付き合い始め記念日』を祝うのだとまことしやかにささかれている。

「嫌だなぁ、冗談だよ牧田くん」
「早く用件を済ませてください。彼女は内勤の業務がある事を忘れていませんか?」
「んもう、牧田くんのいけずぅ。………………コホン。では、簡単な事情聴取をさせてもらうよ。あ、難しいものではないからね」
「はい……」

 脩一と軽くじゃれ合いのようなやり取りをした宮城野課長は、急に取り繕って美鈴に向き直った。

 そうして聞かれたのは、被害の有無や程度。加害行為の具体的な内容として、いつ、どこで、どのような行為があったか。加害者との関係、目撃者の情報など。現在の心情としては処罰意思、一緒に仕事を続けていけるかなどまで聞かれた。
 そもあまり──というか、ほとんど相手を覚えていない美鈴である。同一人物がいたかすら記憶していないのだ。それなのであまり参考にはならないかもしれないが、故意に隠し立てをする事は逆効果と言われ、印象に残っていた『局所的大雨』は告げる。
 あれは戻ってきた際に課内の神田かんだ女史や楳木うめきチーフにも目撃されている為、少し周囲へ話を聞かれれば分かってしまうからだ。──当然ながら、脩一につらそうな表情をさせてしまったが。

 他には、宮城野課長と脩一が現場に居合わせた突飛ばし。その件だけは宮城野課長のお陰で全ての人員が把握されている為、はっきりいって現時点で処罰対象者が確定しているのはそれだけだった。
 調査次第ではあるが実行犯もバカではないので、人目ひとめの少ない時間帯を狙っての犯行が多いのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

処理中です...