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交際編──第九章『熱く』──
その75。互いに言いながら照れる状況もある
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※ ※ ※ ※ ※
脩一との待ち合わせは休憩室で、美鈴は走らないように気を付けながらも、精一杯のスピードで内勤者用の制服に着替えた。
既に社員の誰一人として更衣室に残っている者はいなかった為、ある意味心置きなく済ませる事が出来たのである。
「脩一さん、お待たせっ」
「あぁ、大丈夫。何本か仕事の電話をしていたし、それ程待っていないから。さぁ、四階の第二会議室だ。行こうか」
「おぉ……、相変わらず手際の良いエスコート」
美鈴が顔を出した時にちょうど通話を終えたらしい脩一だったが、即座に彼女へ歩み寄って腰に手を当てた。
現実としてそのような光景を見たり聞いたりしないのだが、何故か脩一は美鈴が思う物語の王子様的な行動をしてくる。
「ん?あ~……、またこれの事?ってか美鈴、もう諦めて。手放す気なんか更々ないって言ったよな?俺の行動ってば、独占欲の現れでしかないから。『俺のだ』って周囲へ知らしめてるの。……逆に、言われる度に恥ずかしくなる。俺もこういう感情、初めてなんだよっ」
そう言いながら、隣で不貞腐れたように視線を背けた脩一だ。
それを見て美鈴は、心臓がきゅんと絞られたような感覚がする。──そして思わず口に出していた言葉。
「……かっ、わぃ……」
「っ、美鈴?」
「あ……、ごめんなさい。男の人は可愛いって言われても嬉しくないよね」
「いや、美鈴からなら良いや。……ふっ、俺も大概美鈴にはまってるからな。お前からもらえるものなら、何だって良い」
「な、何それ……もっ、恥ずかし……」
互いに言いながら照れているのだが、周囲に誰もいないからと美鈴は開き直る事にした。
脩一は話しながらも美鈴を誘導している為、二階の休憩室から階段を上り、時を待たずして四階の会議室前に到着である。
第一から第四までの小会議室は、十人程度の打ち合わせが出来るように準備された部屋だ。社屋内は他に第五と第六の大会議室、階が違うが大ホールもある。
そしてすぐに目当ての第二会議室前に立ち、静かにノックをして入室の確認を取るのだった。──これら一連の行動が流れるようである。
「牧田くんと柊木さんだね。どうぞ、入って」
「はい、失礼します。お待たせ致しました」
「失礼します。すみません、遅くなりました」
「良いよ、気にしてないから大丈夫。少し寂しかっただけ」
宮城野課長の声が返ってきて、脩一と美鈴は入室する。
入室早々、随分と待たせてしまった宮城野課長に謝罪をするが、にこやかに冗談とも取れる返しをしてきた。
美鈴としては宮城野課長の人柄を知らない為、今の発言の意図が分からない。そうして改めて目の前の宮城野課長へ視線を向けた。
一言で彼を言い表すならば、筋肉質である。一課の冨沢課長とは違う方面ではあるが、物凄く格闘技をやってそうだった。
「どうしたの、柊木さん。そんなに熱烈な視線で私に見惚れてると、牧田くんが妬いちゃうよ?」
「ほぇっ?や……ち、違いますっ」
「宮城野課長。奥さんに言い付けますよ」
小首を傾げて笑顔で告げられた内容に、美鈴は慌てて顔の前で両手を振って否定する。机を挟んで対面に座っている脩一は、宮城野課長に冷めた瞳を向けていた。
宮城野課長が愛妻家である事は二課の営業担当の中で有名で、未だに『付き合い始め記念日』を祝うのだと真しやかに囁かれている。
「嫌だなぁ、冗談だよ牧田くん」
「早く用件を済ませてください。彼女は内勤の業務がある事を忘れていませんか?」
「んもう、牧田くんのいけずぅ。………………コホン。では、簡単な事情聴取をさせてもらうよ。あ、難しいものではないからね」
「はい……」
脩一と軽くじゃれ合いのようなやり取りをした宮城野課長は、急に取り繕って美鈴に向き直った。
そうして聞かれたのは、被害の有無や程度。加害行為の具体的な内容として、いつ、どこで、どのような行為があったか。加害者との関係、目撃者の情報など。現在の心情としては処罰意思、一緒に仕事を続けていけるかなどまで聞かれた。
そもあまり──というか、殆ど相手を覚えていない美鈴である。同一人物がいたかすら記憶していないのだ。それなのであまり参考にはならないかもしれないが、故意に隠し立てをする事は逆効果と言われ、印象に残っていた『局所的大雨』は告げる。
あれは戻ってきた際に課内の神田女史や楳木チーフにも目撃されている為、少し周囲へ話を聞かれれば分かってしまうからだ。──当然ながら、脩一に辛そうな表情をさせてしまったが。
他には、宮城野課長と脩一が現場に居合わせた突飛ばし。その件だけは宮城野課長のお陰で全ての人員が把握されている為、はっきりいって現時点で処罰対象者が確定しているのはそれだけだった。
調査次第ではあるが実行犯もバカではないので、人目の少ない時間帯を狙っての犯行が多いのである。
脩一との待ち合わせは休憩室で、美鈴は走らないように気を付けながらも、精一杯のスピードで内勤者用の制服に着替えた。
既に社員の誰一人として更衣室に残っている者はいなかった為、ある意味心置きなく済ませる事が出来たのである。
「脩一さん、お待たせっ」
「あぁ、大丈夫。何本か仕事の電話をしていたし、それ程待っていないから。さぁ、四階の第二会議室だ。行こうか」
「おぉ……、相変わらず手際の良いエスコート」
美鈴が顔を出した時にちょうど通話を終えたらしい脩一だったが、即座に彼女へ歩み寄って腰に手を当てた。
現実としてそのような光景を見たり聞いたりしないのだが、何故か脩一は美鈴が思う物語の王子様的な行動をしてくる。
「ん?あ~……、またこれの事?ってか美鈴、もう諦めて。手放す気なんか更々ないって言ったよな?俺の行動ってば、独占欲の現れでしかないから。『俺のだ』って周囲へ知らしめてるの。……逆に、言われる度に恥ずかしくなる。俺もこういう感情、初めてなんだよっ」
そう言いながら、隣で不貞腐れたように視線を背けた脩一だ。
それを見て美鈴は、心臓がきゅんと絞られたような感覚がする。──そして思わず口に出していた言葉。
「……かっ、わぃ……」
「っ、美鈴?」
「あ……、ごめんなさい。男の人は可愛いって言われても嬉しくないよね」
「いや、美鈴からなら良いや。……ふっ、俺も大概美鈴にはまってるからな。お前からもらえるものなら、何だって良い」
「な、何それ……もっ、恥ずかし……」
互いに言いながら照れているのだが、周囲に誰もいないからと美鈴は開き直る事にした。
脩一は話しながらも美鈴を誘導している為、二階の休憩室から階段を上り、時を待たずして四階の会議室前に到着である。
第一から第四までの小会議室は、十人程度の打ち合わせが出来るように準備された部屋だ。社屋内は他に第五と第六の大会議室、階が違うが大ホールもある。
そしてすぐに目当ての第二会議室前に立ち、静かにノックをして入室の確認を取るのだった。──これら一連の行動が流れるようである。
「牧田くんと柊木さんだね。どうぞ、入って」
「はい、失礼します。お待たせ致しました」
「失礼します。すみません、遅くなりました」
「良いよ、気にしてないから大丈夫。少し寂しかっただけ」
宮城野課長の声が返ってきて、脩一と美鈴は入室する。
入室早々、随分と待たせてしまった宮城野課長に謝罪をするが、にこやかに冗談とも取れる返しをしてきた。
美鈴としては宮城野課長の人柄を知らない為、今の発言の意図が分からない。そうして改めて目の前の宮城野課長へ視線を向けた。
一言で彼を言い表すならば、筋肉質である。一課の冨沢課長とは違う方面ではあるが、物凄く格闘技をやってそうだった。
「どうしたの、柊木さん。そんなに熱烈な視線で私に見惚れてると、牧田くんが妬いちゃうよ?」
「ほぇっ?や……ち、違いますっ」
「宮城野課長。奥さんに言い付けますよ」
小首を傾げて笑顔で告げられた内容に、美鈴は慌てて顔の前で両手を振って否定する。机を挟んで対面に座っている脩一は、宮城野課長に冷めた瞳を向けていた。
宮城野課長が愛妻家である事は二課の営業担当の中で有名で、未だに『付き合い始め記念日』を祝うのだと真しやかに囁かれている。
「嫌だなぁ、冗談だよ牧田くん」
「早く用件を済ませてください。彼女は内勤の業務がある事を忘れていませんか?」
「んもう、牧田くんのいけずぅ。………………コホン。では、簡単な事情聴取をさせてもらうよ。あ、難しいものではないからね」
「はい……」
脩一と軽くじゃれ合いのようなやり取りをした宮城野課長は、急に取り繕って美鈴に向き直った。
そうして聞かれたのは、被害の有無や程度。加害行為の具体的な内容として、いつ、どこで、どのような行為があったか。加害者との関係、目撃者の情報など。現在の心情としては処罰意思、一緒に仕事を続けていけるかなどまで聞かれた。
そもあまり──というか、殆ど相手を覚えていない美鈴である。同一人物がいたかすら記憶していないのだ。それなのであまり参考にはならないかもしれないが、故意に隠し立てをする事は逆効果と言われ、印象に残っていた『局所的大雨』は告げる。
あれは戻ってきた際に課内の神田女史や楳木チーフにも目撃されている為、少し周囲へ話を聞かれれば分かってしまうからだ。──当然ながら、脩一に辛そうな表情をさせてしまったが。
他には、宮城野課長と脩一が現場に居合わせた突飛ばし。その件だけは宮城野課長のお陰で全ての人員が把握されている為、はっきりいって現時点で処罰対象者が確定しているのはそれだけだった。
調査次第ではあるが実行犯もバカではないので、人目の少ない時間帯を狙っての犯行が多いのである。
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