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交際編──第九章『熱く』──
その73。手際が良すぎるのかな
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※ ※ ※ ※ ※
昨日は脩一が浴室から出るのを待ってから、美鈴は車で家まで送ってもらった。
さすがに改めて服を着た脩一と顔を合わせるのは恥ずかしかったが、嫌だった訳ではない。男女間で愛を交わす方法を知らない程に子供ではないのだから、足を突っ込んだ程度であっても美鈴は脩一とならばそういった関係になっても良いと思っていた。
日付が変わる前には帰宅出来たが、残り二日も出勤がある事を思い出して僅かに憂鬱になったくらい。
そして翌日──いつものように出勤準備をして、美鈴はいつもの地下鉄に乗った。──いつもと違うのは、何故か楳木チーフが護衛のように周囲へ警戒の視線を向けているくらい。
「あの……楳木さん、何かありました?何だかピリピリ、してません?」
「そ、そう?全然、俺は大丈夫だよっ」
「そう、ですか……」
誤魔化すにしてももう少しマシな言い方がありようだが──と美鈴は遠い目をしてしまったが、本人が大丈夫というならば気にするだけ無駄だ。
他者への関心が薄い美鈴は、そういった切り替えはとても早い。すぐに楳木チーフに意識を向ける事をやめた。
結局地下鉄の出口を出るまで様子がおかしかったが、出口を出たら相変わらず一人で先に競歩の勢いで歩いて行ってしまう。そも何がしたかったのか分からない。
──挙動不審な人が近くにいると、何だか私も変な人みたいに感じちゃうって、初めて知ったかも……。
「どうした?」
「ひゃっ?!」
楳木チーフの後ろ姿を見送って立ち尽くしていた美鈴の耳元へ、突然声が掛けられた。
あまりの驚きにその耳を押さえて飛び退こうとしたのだが、離さないとばかりに腰へ腕を回されて固定される。
声からして分かってはいたが──何故地下鉄の出口にいるのかは理解出来ないものの、相手は脩一であった。
「そんなに驚かせた?」
「だ、だって……。脩一さん、地下鉄に用事がないじゃない」
「ん?あるよ。美鈴が出てくるのを待ってた」
「え?……えぇっ?」
「くくくっ、そんなに驚く事?」
脩一の促すような動きで会社へ足を向けた美鈴だったが、わざわざ自分を迎えに来たのだと聞くと更に理解不能になる。
そも営業担当は、内勤始業時刻よりも早く会社を出る事が多いのだ。
「まぁ……実際には俺も合わせてだけど、昨日の事を美鈴に聞きたいって……宮城野課長がね」
「あ~……、なるほど。時間が早いのは、脩一さんに合わせてなのね?」
「うん、ごめん」
脩一の話を聞けば、確かに昨日は宮城野課長に何の説明もしていない事を思い出す。
途中から状況を知ったとはいえども、当事者である美鈴に説明義務がない筈はなかった。
「良いよ、そんな事。それに脩一さんが謝る事ないし、一人の時に色々聞かれても分からないし?でもそれなら、LINEくれればもっと早く来たのに」
「良いんだ、この時間で。必要以上の負担は美鈴に掛けたくない」
「もう、またそういって。私、弱々じゃないからね?脩一さんの負担になるの、私だって嫌なんだからね?」
「……そう、だね。うん、ありがとう美鈴」
美鈴としては、脩一と対等でありたい。男女で負荷が違うのは分かるが、ただ守られるだけでは一緒にいる意味がないと思っていた。
そう告げられた脩一は僅かに目を見開いたが、すぐにふわりと表情を和らげる。言い返された事を不快には思っていないようで、逆に美鈴はホッとした。
そうして二人で会社への道を歩いていく最中にも、当然ながら同僚とも向かう目的地が同じな訳で。
チラチラと視線を感じるような気がして、美鈴は普段なら気にならない周囲にソワソワし始めた。
「どうした?……あ、何か一緒に通勤してるみたいだな」
「っ!」
それに気付いた脩一は、わざと顔を近付けて美鈴の耳元へ囁く。
脩一の声に弱い事もあるが、自分でも考えていた事を言い当てられて美鈴は思い切り赤面した。
「くくくっ、可愛ぃ。でも、そんな顔を他のやつに見せんのは嫌だな……」
「だ、誰のせいよっ。脩一さんってば、会社での雰囲気と違いすぎ」
「嫌か?」
「……違う。そんな脩一さんを他のたくさんの人が知るの、嫌かなって」
「………………美鈴、煽ってる?」
「へ?何を言って……ちょ、こんな公共の場で盛らないでよ……って、え?何で公園?」
「真っ赤になってそんな事言われても、『待て』されてる気がしないけど?」
ここで美鈴は、いつの間にか脩一に公園へ連れ込まれている事に気付く。
真っ直ぐ会社へ向かっていれば、公園の横を通り過ぎるだけなのだ。脩一の手際が良すぎるのか、美鈴が鈍すぎるのか。
そしてそのまま、軽く唇を重ねられた。
「…………会社へ行きたくなくなるよなぁ」
「そ……れは、ダメ……から」
脩一の腕の中に囲われてしまった美鈴は、愚痴るように呟く彼に、消え入りそうな声音で返答をする。
行かなくて良いのならば美鈴だって行きたくはないが、今日は宮城野課長に話を聞いてもらう事になっているのではないだろうかと脳裏を過ったのだ。
約束を違えては、ダメでなのではないだろうか。
昨日は脩一が浴室から出るのを待ってから、美鈴は車で家まで送ってもらった。
さすがに改めて服を着た脩一と顔を合わせるのは恥ずかしかったが、嫌だった訳ではない。男女間で愛を交わす方法を知らない程に子供ではないのだから、足を突っ込んだ程度であっても美鈴は脩一とならばそういった関係になっても良いと思っていた。
日付が変わる前には帰宅出来たが、残り二日も出勤がある事を思い出して僅かに憂鬱になったくらい。
そして翌日──いつものように出勤準備をして、美鈴はいつもの地下鉄に乗った。──いつもと違うのは、何故か楳木チーフが護衛のように周囲へ警戒の視線を向けているくらい。
「あの……楳木さん、何かありました?何だかピリピリ、してません?」
「そ、そう?全然、俺は大丈夫だよっ」
「そう、ですか……」
誤魔化すにしてももう少しマシな言い方がありようだが──と美鈴は遠い目をしてしまったが、本人が大丈夫というならば気にするだけ無駄だ。
他者への関心が薄い美鈴は、そういった切り替えはとても早い。すぐに楳木チーフに意識を向ける事をやめた。
結局地下鉄の出口を出るまで様子がおかしかったが、出口を出たら相変わらず一人で先に競歩の勢いで歩いて行ってしまう。そも何がしたかったのか分からない。
──挙動不審な人が近くにいると、何だか私も変な人みたいに感じちゃうって、初めて知ったかも……。
「どうした?」
「ひゃっ?!」
楳木チーフの後ろ姿を見送って立ち尽くしていた美鈴の耳元へ、突然声が掛けられた。
あまりの驚きにその耳を押さえて飛び退こうとしたのだが、離さないとばかりに腰へ腕を回されて固定される。
声からして分かってはいたが──何故地下鉄の出口にいるのかは理解出来ないものの、相手は脩一であった。
「そんなに驚かせた?」
「だ、だって……。脩一さん、地下鉄に用事がないじゃない」
「ん?あるよ。美鈴が出てくるのを待ってた」
「え?……えぇっ?」
「くくくっ、そんなに驚く事?」
脩一の促すような動きで会社へ足を向けた美鈴だったが、わざわざ自分を迎えに来たのだと聞くと更に理解不能になる。
そも営業担当は、内勤始業時刻よりも早く会社を出る事が多いのだ。
「まぁ……実際には俺も合わせてだけど、昨日の事を美鈴に聞きたいって……宮城野課長がね」
「あ~……、なるほど。時間が早いのは、脩一さんに合わせてなのね?」
「うん、ごめん」
脩一の話を聞けば、確かに昨日は宮城野課長に何の説明もしていない事を思い出す。
途中から状況を知ったとはいえども、当事者である美鈴に説明義務がない筈はなかった。
「良いよ、そんな事。それに脩一さんが謝る事ないし、一人の時に色々聞かれても分からないし?でもそれなら、LINEくれればもっと早く来たのに」
「良いんだ、この時間で。必要以上の負担は美鈴に掛けたくない」
「もう、またそういって。私、弱々じゃないからね?脩一さんの負担になるの、私だって嫌なんだからね?」
「……そう、だね。うん、ありがとう美鈴」
美鈴としては、脩一と対等でありたい。男女で負荷が違うのは分かるが、ただ守られるだけでは一緒にいる意味がないと思っていた。
そう告げられた脩一は僅かに目を見開いたが、すぐにふわりと表情を和らげる。言い返された事を不快には思っていないようで、逆に美鈴はホッとした。
そうして二人で会社への道を歩いていく最中にも、当然ながら同僚とも向かう目的地が同じな訳で。
チラチラと視線を感じるような気がして、美鈴は普段なら気にならない周囲にソワソワし始めた。
「どうした?……あ、何か一緒に通勤してるみたいだな」
「っ!」
それに気付いた脩一は、わざと顔を近付けて美鈴の耳元へ囁く。
脩一の声に弱い事もあるが、自分でも考えていた事を言い当てられて美鈴は思い切り赤面した。
「くくくっ、可愛ぃ。でも、そんな顔を他のやつに見せんのは嫌だな……」
「だ、誰のせいよっ。脩一さんってば、会社での雰囲気と違いすぎ」
「嫌か?」
「……違う。そんな脩一さんを他のたくさんの人が知るの、嫌かなって」
「………………美鈴、煽ってる?」
「へ?何を言って……ちょ、こんな公共の場で盛らないでよ……って、え?何で公園?」
「真っ赤になってそんな事言われても、『待て』されてる気がしないけど?」
ここで美鈴は、いつの間にか脩一に公園へ連れ込まれている事に気付く。
真っ直ぐ会社へ向かっていれば、公園の横を通り過ぎるだけなのだ。脩一の手際が良すぎるのか、美鈴が鈍すぎるのか。
そしてそのまま、軽く唇を重ねられた。
「…………会社へ行きたくなくなるよなぁ」
「そ……れは、ダメ……から」
脩一の腕の中に囲われてしまった美鈴は、愚痴るように呟く彼に、消え入りそうな声音で返答をする。
行かなくて良いのならば美鈴だって行きたくはないが、今日は宮城野課長に話を聞いてもらう事になっているのではないだろうかと脳裏を過ったのだ。
約束を違えては、ダメでなのではないだろうか。
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