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交際編──第八章『認められたい』──
その61。親子関係
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※ ※ ※ ※ ※
そして個室に移動してから、既に三十分程が経過していた。
美鈴の隣に脩一、その目の前に脩一母といった構図である。
──この状況、どうするの?
しかしながら穏やかな雰囲気とはならず、先程から掘りごたつ式の和室で、テーブルを挟んでの睨み合いが続いていた。
当初、話をしようと個室に入ってきたまでは良かったのだが、開口一番に脩一母が言った言葉の衝撃は計り知れないもので。
「ところで美鈴さん、貴女は処女かしら」
「なっ?!」
美鈴は目が点になった。そして言葉の内容を理解した後、赤面して俯く。
勿論『処女』の意味が分からない訳ではなく、そんな事を他者から問われた事実が驚愕だった。しかも数回しか会った事のない、交際相手の実母からである。
それにはさすがに脩一も驚いたようで、当然脩一母へ食って掛かった。
「何を言っているんだ、母さん。正気かっ?」
「当たり前じゃない。いくら性に奔放な時代と言っても、自分の息子に嫁ぐ相手は純潔であってほしいものだわっ。だいたい、貴方だってそうでしょ?男は皆、『ショジョチュウ』だって言うじゃない」
「っ、…………………………はあぁぁぁぁぁ。何処からの情報だかは聞かないけど、仮にそうであっても本人には聞かないものでしょ」
「えっ?だって、聞かないと分からないじゃないの。見た目は悪くないんだし、御家柄が一般でもこの際妥協するわよ、貴方が選んだのだし。でもこれだけは譲れないわ。もしも他の男を知っているだなんて事だったら……。私だってあの人しか知らないのに、そんなの女として何だか悔しいじゃないっ」
「……ったく変なところで素直と言うか、理由がそんな事かとか突っ込み所はたくさんあるけど。ってか、それ以上に息子としてあまり聞きたくない情報も練り込まれていたんだけど……。そんな事よりも、それが何処ぞの御令嬢であっても、正直に答えるかは分からないよね」
「あら、それもそうね。それならどうするのかしら。お医者様?」
「母さん。もう良いから、そこから離れようよ」
脩一母の言い分に応対していた脩一は、酷く疲れたように溜め息を吐く。
続けられていた二人の言い合いが一旦落ち着いたところで、漸く美鈴も衝撃から復帰した。
脩一母の言動は予想外過ぎて面食らってしまったが、発想が突飛ではあるものの、美鈴に対して悪感情を抱いているかといえば違うようである。
「あ、あの……。私は交際させていただく、のは、脩一さんが初めてでして……。その、お気に召すかは分かりかねますが、き、き……」
「口付けもまだなの、脩一?」
「したよっ。ってか、だから聞かないでって」
「……っ、キス……まで、しか……」
「だからもう、答えなくて良いって。美鈴……顔、真っ赤だよ?」
「は、恥ずかしい……」
「あ~、もう可愛い俺が隠してあげちゃう」
問われたのだからと、可能な限りは応じようと思った美鈴だった。
しかしながら羞恥心はどうする事も出来ず、結果的に赤面しながら途切れ途切れで応じるのが精一杯である。
そして、そんな美鈴に対する脩一の反応もおかしく、抱き締めるようにして己の胸に彼女の頭部を包み込んだ。
「何よ、脩一。美鈴さんが見えないじゃない」
「だから隠してるの。ってか、嫌われちまえ」
「えっ?!何でっ」
「自覚なしかよ、姑」
「あら、やだ。私、しゅうとめになるのね」
「嫁いびりとか、最低だぞ」
「そうよねぇ、私もあの頃は……って、嫁?!」
「ん?」
「っ、ヨメ?」
「あ……、まだ早い?ってか、言ったよね、俺」
三回目に出会った脩一母に対して、脩一は既に嫁宣言である。
何だか常に一足飛びで進行しているように感じてしまう美鈴は、確かにプロポーズは受けたのだがと未だ流れについていけていなかった。
「まぁ、そんな感じだから。これ以上母さんの我が儘に付き合ってられないし、美鈴を逃すつもりもない。当然、他の女なんて要らない。影でこそこそされるのが鬱陶しいから、こうして美鈴を会わせたんだ。クダラナイ事で彼女を泣かせたら、今度こそ本気で縁を切る」
「ちょ、ちょっと待ってよ、脩一」
「別に良いでしょ、兄さんがいるし」
「明一は明一でしょ。私は脩一も大切なんだから」
「残念だけど、俺の一番は美鈴なんだ。彼女を蔑ろにする人は要らない」
「い、意地悪してごめんなさいっ。ショジョでもビッチでも、どちらでも良いからっ」
「誰がビッチだよ」
「あ~ん、脩一がイジメル~」
「っふ、ふふふっ」
何だか、親子コントを観ているようである。
互いに言いたい事を口にしているみたいなので、これは一般的にいう喧嘩とは違うのだろうと美鈴は結論付けた。
そうすると自然と笑いが込み上げてきて、脩一の胸に抱き締められている状態でも笑ってしまう。
とにもかくにも、脩一母は脩一の事が大切なようだ。
──私とは違う……。
そんな暗い感情が僅かに浮かび上がるものの、愛されているのだと分かった事は素直に嬉しい。
同時に美鈴としても、他の何よりも脩一の事を大切にしたいという思いがあった。
そして個室に移動してから、既に三十分程が経過していた。
美鈴の隣に脩一、その目の前に脩一母といった構図である。
──この状況、どうするの?
しかしながら穏やかな雰囲気とはならず、先程から掘りごたつ式の和室で、テーブルを挟んでの睨み合いが続いていた。
当初、話をしようと個室に入ってきたまでは良かったのだが、開口一番に脩一母が言った言葉の衝撃は計り知れないもので。
「ところで美鈴さん、貴女は処女かしら」
「なっ?!」
美鈴は目が点になった。そして言葉の内容を理解した後、赤面して俯く。
勿論『処女』の意味が分からない訳ではなく、そんな事を他者から問われた事実が驚愕だった。しかも数回しか会った事のない、交際相手の実母からである。
それにはさすがに脩一も驚いたようで、当然脩一母へ食って掛かった。
「何を言っているんだ、母さん。正気かっ?」
「当たり前じゃない。いくら性に奔放な時代と言っても、自分の息子に嫁ぐ相手は純潔であってほしいものだわっ。だいたい、貴方だってそうでしょ?男は皆、『ショジョチュウ』だって言うじゃない」
「っ、…………………………はあぁぁぁぁぁ。何処からの情報だかは聞かないけど、仮にそうであっても本人には聞かないものでしょ」
「えっ?だって、聞かないと分からないじゃないの。見た目は悪くないんだし、御家柄が一般でもこの際妥協するわよ、貴方が選んだのだし。でもこれだけは譲れないわ。もしも他の男を知っているだなんて事だったら……。私だってあの人しか知らないのに、そんなの女として何だか悔しいじゃないっ」
「……ったく変なところで素直と言うか、理由がそんな事かとか突っ込み所はたくさんあるけど。ってか、それ以上に息子としてあまり聞きたくない情報も練り込まれていたんだけど……。そんな事よりも、それが何処ぞの御令嬢であっても、正直に答えるかは分からないよね」
「あら、それもそうね。それならどうするのかしら。お医者様?」
「母さん。もう良いから、そこから離れようよ」
脩一母の言い分に応対していた脩一は、酷く疲れたように溜め息を吐く。
続けられていた二人の言い合いが一旦落ち着いたところで、漸く美鈴も衝撃から復帰した。
脩一母の言動は予想外過ぎて面食らってしまったが、発想が突飛ではあるものの、美鈴に対して悪感情を抱いているかといえば違うようである。
「あ、あの……。私は交際させていただく、のは、脩一さんが初めてでして……。その、お気に召すかは分かりかねますが、き、き……」
「口付けもまだなの、脩一?」
「したよっ。ってか、だから聞かないでって」
「……っ、キス……まで、しか……」
「だからもう、答えなくて良いって。美鈴……顔、真っ赤だよ?」
「は、恥ずかしい……」
「あ~、もう可愛い俺が隠してあげちゃう」
問われたのだからと、可能な限りは応じようと思った美鈴だった。
しかしながら羞恥心はどうする事も出来ず、結果的に赤面しながら途切れ途切れで応じるのが精一杯である。
そして、そんな美鈴に対する脩一の反応もおかしく、抱き締めるようにして己の胸に彼女の頭部を包み込んだ。
「何よ、脩一。美鈴さんが見えないじゃない」
「だから隠してるの。ってか、嫌われちまえ」
「えっ?!何でっ」
「自覚なしかよ、姑」
「あら、やだ。私、しゅうとめになるのね」
「嫁いびりとか、最低だぞ」
「そうよねぇ、私もあの頃は……って、嫁?!」
「ん?」
「っ、ヨメ?」
「あ……、まだ早い?ってか、言ったよね、俺」
三回目に出会った脩一母に対して、脩一は既に嫁宣言である。
何だか常に一足飛びで進行しているように感じてしまう美鈴は、確かにプロポーズは受けたのだがと未だ流れについていけていなかった。
「まぁ、そんな感じだから。これ以上母さんの我が儘に付き合ってられないし、美鈴を逃すつもりもない。当然、他の女なんて要らない。影でこそこそされるのが鬱陶しいから、こうして美鈴を会わせたんだ。クダラナイ事で彼女を泣かせたら、今度こそ本気で縁を切る」
「ちょ、ちょっと待ってよ、脩一」
「別に良いでしょ、兄さんがいるし」
「明一は明一でしょ。私は脩一も大切なんだから」
「残念だけど、俺の一番は美鈴なんだ。彼女を蔑ろにする人は要らない」
「い、意地悪してごめんなさいっ。ショジョでもビッチでも、どちらでも良いからっ」
「誰がビッチだよ」
「あ~ん、脩一がイジメル~」
「っふ、ふふふっ」
何だか、親子コントを観ているようである。
互いに言いたい事を口にしているみたいなので、これは一般的にいう喧嘩とは違うのだろうと美鈴は結論付けた。
そうすると自然と笑いが込み上げてきて、脩一の胸に抱き締められている状態でも笑ってしまう。
とにもかくにも、脩一母は脩一の事が大切なようだ。
──私とは違う……。
そんな暗い感情が僅かに浮かび上がるものの、愛されているのだと分かった事は素直に嬉しい。
同時に美鈴としても、他の何よりも脩一の事を大切にしたいという思いがあった。
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