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交際編──第七章『ブザーは押さないと意味がない』──
その56。業務終了後の嵐
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※ ※ ※ ※ ※
──何、この雰囲気。
美鈴は内心で溜め息を吐きつつ、周囲を見回した。
業務を定時で終了させて着替えた後、脩一を待つ為に二階の休憩室へ来ていたのである。
しかしながら美鈴が休憩室へ来て間もなく、何故か彼女の周囲を見知らぬ女性が取り囲み始めたのだ。それも一人や二人ではない。
何も言わず周囲を固める女性陣に嫌気が差し、美鈴は大きく溜め息を吐いて席を移動する為に立ち上がった。
「…………………………」
けれども取り囲む面々は誰一人としてその場を動こうとせず、美鈴は静かに周囲を見下ろす形になる。
揃えたように美鈴よりも身長が低い女性達ばかりで、どうしても頭一つ分飛び抜けた形になってしまったのだ。──こういう時美鈴は、自分の身長を恨めしく思ってしまう。
それとは別に、現時点では十五時休憩の際に濡れた髪はすっかり乾いていた。しかしながら水を掛けられた不快な記憶はある為、美鈴の知人でもない者達に取り囲まれている嫌悪感は拭えない。
「邪魔なんですけど」
とりあえず一言だけ告げる。
けれども互いに視線を合わせるだけで、相変わらず動く気配はなかった。
──これ、無理矢理に通っちゃダメかな。
さすがに突き飛ばす気はないが、理由も分からずこの場で拘束される事は腑に落ちない。
しかしながらこのような現状でも、休憩室にいる他の観客は観察するだけのようだ。
事実美鈴は無言で取り囲まれているだけで、実際に口撃も攻撃も加えられていない。何をしたいのかすら理解出来ない為、誰も行動に移せないようだった。
──はぁ、疲れる。モエちゃん、これが聞いていた物理的攻撃なのね。
美鈴は萌枝を通して耳にした、昼休憩時の情報を思い出す。
犯罪行為となっては困る為だろうが、殴る蹴る等物理的な行動として仕掛けてくる訳ではないようだ。──今のところは、だが。
──これ……彼女達へ手を伸ばしたら、逆に私が加害者側になるのかな。
障害物の強制排除を試みようとする時、どうしても眼前の人物の合間を縫って通らざるを得ない。
その際仮に故意ではないにしろ、彼女達の誰かが苦痛を訴えれば、美鈴に非がある事実が発生するだろう推測はついた。
「道を開けてくれませんか。通りたいんですけど」
再度美鈴が告げるが、変わらず壁となった女性達は動かない。
その時、美鈴の携帯が着信を伝えた。画面を確認すれば、それは脩一からである。
「お疲れ様、脩一さん」
『あぁ、美鈴。お疲れ様、今帰社したところ』
壁に対して現状何も出来ない状態の美鈴は、掛かってきた電話を普通に応答した。
通話相手は脩一で、外回りから帰ってきたとの事。恐らくこれから、営業日報などの事務処理を行うのだろう。
「お帰りなさ……っ?」
無事の帰社を労おうとした美鈴だったが、そんな彼女の言葉は横から出てきた手によって遮られた。
正確には、何者かに携帯を奪われたのである。
『みす……』
途切れた美鈴からの音声に、困惑したような脩一の声が聞こえた。
だがそれはすぐに通話を切られ、ついでのように電源まで落とされる。
──え……、そこまでする?
目を丸くして、自分の携帯を持つ女性を見る美鈴。
当然相手の名前などが思い浮かぶ筈もないのだが、目の前に立つ女性は美鈴よりも頭半分程も背が高かった。
「貴女。自分の立ち位置を理解しているのかしら」
静かに口を開く、スラリと細いモデルみたいな容姿の綺麗系お姉さん。
けれども眼光が鋭いその女性に、美鈴は特別反応せずに視線を向けるだけである。
──立ち位置……って、何の事?
実際にはただ言葉の意味を汲み取れず、脳内で思考しているだけなのだ。
けれども周囲はそう思ってはくれない。
壁役の女性達からザワリと嫌な気配が漂ってくると同時に、美鈴の眼前の女性の表情が僅かに険しくなった。
──あれ……。何か、空気が悪くなったような気がする。
「聞こえてるのかしら。貴女、どういうつもりよ」
美鈴が内心で首を傾げると、再び前方の女性が問い掛けてきたのである。
けれども彼女達が何を求めているのか、美鈴には分からなかった。
取り囲まれてまで向けられた始めての質問は、『立ち位置』を理解しているのかどうかである。
そもそも相手が何者かすら分からない為、どのような答えを求められているのかも推測出来ないのだ。
「……誰?」
ここで漸く、美鈴が誰何する。
名前を聞いたところで人物が分からない可能性は高いけれど、相手が当然のように自分を知っていると思っている態度に若干苛立ちもしたのだ。
「あ、貴女ねっ」
「……そう、私を知らないのね。私は人事部、升川真由子」
声を荒らげた壁役の誰かを制し、美鈴の誰何に答える。
真っ直ぐ立つその姿は堂々としていて、こんな風に大勢でよってたかって一人を苛めるような性格には見えなかった。
──何、この雰囲気。
美鈴は内心で溜め息を吐きつつ、周囲を見回した。
業務を定時で終了させて着替えた後、脩一を待つ為に二階の休憩室へ来ていたのである。
しかしながら美鈴が休憩室へ来て間もなく、何故か彼女の周囲を見知らぬ女性が取り囲み始めたのだ。それも一人や二人ではない。
何も言わず周囲を固める女性陣に嫌気が差し、美鈴は大きく溜め息を吐いて席を移動する為に立ち上がった。
「…………………………」
けれども取り囲む面々は誰一人としてその場を動こうとせず、美鈴は静かに周囲を見下ろす形になる。
揃えたように美鈴よりも身長が低い女性達ばかりで、どうしても頭一つ分飛び抜けた形になってしまったのだ。──こういう時美鈴は、自分の身長を恨めしく思ってしまう。
それとは別に、現時点では十五時休憩の際に濡れた髪はすっかり乾いていた。しかしながら水を掛けられた不快な記憶はある為、美鈴の知人でもない者達に取り囲まれている嫌悪感は拭えない。
「邪魔なんですけど」
とりあえず一言だけ告げる。
けれども互いに視線を合わせるだけで、相変わらず動く気配はなかった。
──これ、無理矢理に通っちゃダメかな。
さすがに突き飛ばす気はないが、理由も分からずこの場で拘束される事は腑に落ちない。
しかしながらこのような現状でも、休憩室にいる他の観客は観察するだけのようだ。
事実美鈴は無言で取り囲まれているだけで、実際に口撃も攻撃も加えられていない。何をしたいのかすら理解出来ない為、誰も行動に移せないようだった。
──はぁ、疲れる。モエちゃん、これが聞いていた物理的攻撃なのね。
美鈴は萌枝を通して耳にした、昼休憩時の情報を思い出す。
犯罪行為となっては困る為だろうが、殴る蹴る等物理的な行動として仕掛けてくる訳ではないようだ。──今のところは、だが。
──これ……彼女達へ手を伸ばしたら、逆に私が加害者側になるのかな。
障害物の強制排除を試みようとする時、どうしても眼前の人物の合間を縫って通らざるを得ない。
その際仮に故意ではないにしろ、彼女達の誰かが苦痛を訴えれば、美鈴に非がある事実が発生するだろう推測はついた。
「道を開けてくれませんか。通りたいんですけど」
再度美鈴が告げるが、変わらず壁となった女性達は動かない。
その時、美鈴の携帯が着信を伝えた。画面を確認すれば、それは脩一からである。
「お疲れ様、脩一さん」
『あぁ、美鈴。お疲れ様、今帰社したところ』
壁に対して現状何も出来ない状態の美鈴は、掛かってきた電話を普通に応答した。
通話相手は脩一で、外回りから帰ってきたとの事。恐らくこれから、営業日報などの事務処理を行うのだろう。
「お帰りなさ……っ?」
無事の帰社を労おうとした美鈴だったが、そんな彼女の言葉は横から出てきた手によって遮られた。
正確には、何者かに携帯を奪われたのである。
『みす……』
途切れた美鈴からの音声に、困惑したような脩一の声が聞こえた。
だがそれはすぐに通話を切られ、ついでのように電源まで落とされる。
──え……、そこまでする?
目を丸くして、自分の携帯を持つ女性を見る美鈴。
当然相手の名前などが思い浮かぶ筈もないのだが、目の前に立つ女性は美鈴よりも頭半分程も背が高かった。
「貴女。自分の立ち位置を理解しているのかしら」
静かに口を開く、スラリと細いモデルみたいな容姿の綺麗系お姉さん。
けれども眼光が鋭いその女性に、美鈴は特別反応せずに視線を向けるだけである。
──立ち位置……って、何の事?
実際にはただ言葉の意味を汲み取れず、脳内で思考しているだけなのだ。
けれども周囲はそう思ってはくれない。
壁役の女性達からザワリと嫌な気配が漂ってくると同時に、美鈴の眼前の女性の表情が僅かに険しくなった。
──あれ……。何か、空気が悪くなったような気がする。
「聞こえてるのかしら。貴女、どういうつもりよ」
美鈴が内心で首を傾げると、再び前方の女性が問い掛けてきたのである。
けれども彼女達が何を求めているのか、美鈴には分からなかった。
取り囲まれてまで向けられた始めての質問は、『立ち位置』を理解しているのかどうかである。
そもそも相手が何者かすら分からない為、どのような答えを求められているのかも推測出来ないのだ。
「……誰?」
ここで漸く、美鈴が誰何する。
名前を聞いたところで人物が分からない可能性は高いけれど、相手が当然のように自分を知っていると思っている態度に若干苛立ちもしたのだ。
「あ、貴女ねっ」
「……そう、私を知らないのね。私は人事部、升川真由子」
声を荒らげた壁役の誰かを制し、美鈴の誰何に答える。
真っ直ぐ立つその姿は堂々としていて、こんな風に大勢でよってたかって一人を苛めるような性格には見えなかった。
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