階段で異性とぶつかって恋に落ちるなんて少女漫画だけの話と思ってました

まひる

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ストーカー編──第六章『光輝く』──

その48。出来る男 1

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「ご、ごめんなさい……」
「くくっ、大丈夫だ。それに、昼時に何も食べてないからな」
「うぅ、あの時はお腹が空いてなかったから……」
「良いさ。人間、空腹を感じた時に食べた方が良いらしい」
「そうなの?」
「あぁ。規定時間での三食は、人によっては食べ過ぎって説もあるからな」

 幸い店内には他に客がいなかった事もあり、美鈴みすずは赤面した顔を店員に向けてペコペコと頭を下げる。
 脩一しゅういちはそんな彼女の腹部の訴えには慣れたもので、美鈴の頭部を撫でつつも手早く会計を済ませていた。
 早々に購入を済ませ、二人して車に戻る。当然のように脩一に助手席のドアを開けてもらった美鈴だが、その時は羞恥のあまり気にする余裕がなかった。

「ほら」
「あ、うん。ありが……とう、ごめんなさい。煩くて……」
「ふっ、良いって可愛いし。あむっ、んぐんぐ……旨いな。食べ終わってから、もう少しお腹にたまりそうなものを食べにいこうか」
「えっと、でも時間が半端だから……はむっ。ん~~~っ、美味しいっ」

 シートベルトをした所で、脩一から先程購入した大きなみたらし団子を差し出される。美鈴が手にした途端、再度彼女のお腹が空腹を訴えて来た。
 エンジンを起動させる事なく、みたらし団子を頬張る脩一。それにつられるように美鈴も団子を口にして、その甘美さに一人でバタバタと暴れる。
 空腹もあるだろうが、非常に美鈴好みの甘さともっちり具合だったのだ。

「確かにこれからの季節、冷やして食べたら最高だな」
「うんっ、このままでも美味しいもんっ。これ、普通のみたらし団子と全然種類が違うっ」
「多めに買ってあるから、家で冷やして食べてみたら良いさ」

 満面の笑みで団子を頬張る美鈴の頭部を撫でながら、脩一は柔らかく瞳を細める。
 それを見た美鈴は先程の疑問を思い出し、急に恥ずかしくなって彼の顔を真っ直ぐ見れなくなってしまった。

「ん?どうした、美鈴」
「あ、いや……その……。ど、どうして開けてくれるの?」
「え?」
「あ、えと……車の、ドア」
「ドア……………………………………っ?」

 突然俯いた美鈴へ不思議そうに問い掛けてきた脩一だが、逆に彼女から問われた内容を時間を掛けてインストールし──赤面する。
 すぐに片手で覆って顔を背けてしまったが、その耳はいまだに赤いままだ。

 ──えっ?!脩一さんが照れたっ?

 あまり見慣れないその反応に、美鈴の方が驚いてしまう。
 そして頭の片隅の冷静な自分が、男の人って髪が短いから、こういった時に耳が隠せないのは大変よねと突っ込んでいた。

「あ、あの……嫌ではなくて、ね?その、他の人達は自分で開け閉めしてるなって、えと……思って……」
「悪い、俺も無意識だった……。いや、本能的なのか?」

 居たたまれなくなり、美鈴がしどろもどろに問い掛けた理由を告げる。
 けれども返ってきた脩一の答えは、思いがけないものだった。

 ──『無意識』ってどういう意味なの?え、『本能的』?……良く分からないんだけど、これって聞いて良い内容?

 男性心理を読み解く事は、美鈴にとってはかなりの難問である。
 けれども脩一の反応から推測するに、怒りとか嫌悪とかいった負の感情はみえなかった。つまりは、何かの思惑があっての行動ではないという事になる。

「あ~……、何て説明すれば良いか。今はっきりと俺が断言出来る事は、絶対に美鈴以外にはしない。そもそもこれまでも、他者に対してそんな行動をしてやろうと思った事すらないが」
「え……?」

 わずかに困ったように頭をきながら、けれども真っ直ぐ美鈴を見つめて告げた脩一だった。
 『美鈴以外には』という事は、彼女が『特別』であるような意味にも取れる。

「言葉のまま受け取ってもらって良い」
「はぁ……」
「いや、その反応だと分かってないよな。美鈴だけだからな、マジで。ってか、俺自身も驚いているくらいだ」
「……うん」

 そこまで言われて、ようやく美鈴は少しだけ好かれているという実感が持てた。──勿論、完全に理解した訳ではない。
 頷きつつ運転席に座る脩一に視線を向ければ、いまだに頬が赤く染まっていた。それを見て、つられて美鈴の頬も熱を持つ。
 自分も相手も同じ感情を向け合っているという事実に、慣れないが決して不快ではない感情のざわめきを感じた。
 通常こうして言葉にして告げ合う事ではないのかもしれないが、脩一も美鈴も肝心な対人関係スキルが不足している為であろう。

「何か……、二人して車内で照れてるってどうなんだ。はぁ、もっと出来る男の対応をしたいんだが」
「出来る男の人?」
「……まぁ、美鈴にはきちんと言葉や態度で現さないと伝わらないだろうけどな」
「む。何だかバカにされた感じがする」
「ふっ、してないって。そんな口を尖らせてると、キスして欲しいのかと思われても否定出来ないからな」

 小さく笑いながら、指先で美鈴の唇にれる脩一だ。
 それに対し、彼女は慌てて両手で口元を覆う。

「にゃ……、そんな事思ってないもん」
「まぁ、美鈴はそうなんだろうけど。俺も今までは実感した事がなかったが、今なら分かる。男って生き物は、基本的に下半身でものを考える本能的動物だ」

 反論されても事実だとばかりに、脩一が熱のこもった視線を美鈴へ向けた。
 そして内容を理解出来ない彼女も、何となく言われている事は分かる。──本音を言えば、このような屋外で他者の視線があるような場所で聞きたくはなかったのだが。
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