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ストーカー編──第五章『互いの心が向かう方向』──
その41。近付く心 2
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しかしながら相手に意識がない為か、美鈴に必要以上の羞恥は見られない。
そしてそれを良い事に、これでもかという程脩一の顔を観察していた。
──眉も綺麗に整えてあって、男の人なのに脂ぎってもないよ。え、肌の手入れとかどうしてるんだろ。……あ、ちょっとだけ髭。
「……いつになったらキスしてくれるの?」
「ぅきゃ……っ!」
あまりにも美鈴が間近で見ていた為、眠っていると思っていた脩一から声を掛けられて酷く驚く。けれども大きな声を上げるのはマズイと察した美鈴は、勢い良く己の口に手を当てて声を圧し殺した。
けれどもその瞳は驚きを隠せない。大きく見開いたまま、美鈴の動きは完全に停止してしまった。
「フッ、大きな目。……ごめんね、驚かせた?」
脩一の問い掛けに、美鈴は──横たわったままであるものの──可能な限り大きく何度も頷く。
今の緩められた脩一の眼差しからは、先程までの悪戯っぽい光が消えていた。
「大丈夫?気分が悪いとかはない?」
「あ、はい……じゃなくて……えっと、うん。大丈夫、たぶん。あの……」
「あ~……、ここが病院なのは覚えてるよな?今は……二十二時過ぎみたいだ。……良かった、二十三時までだったから……」
確認してくれる脩一の声に小さく答えながらも、現状を把握する美鈴である。──残念だが、既に土曜日も終わろうとしていた。
一度意識を取り戻した時刻は記憶していないが、明るかったので日中だったと美鈴は推測する。そして再び、意識消失──もう、殆ど一日寝ていたようなものだ。
脩一の告げた時間制限が多少気になったものの、ここは病院なのである。帰宅せざるを得ない時間があってもおかしくはない、と美鈴は今更ながらに思い至った。
「えっと……ずっと傍にいてくれて、ありがとう」
「ん?当たり前だろ。あ、返事ももらってないし?」
「ぅきゅ……っ」
改めて感謝を口にすれば、僅かに意地悪そうな笑みを浮かべる脩一に美鈴の心臓が跳ねる。
『夢オチ』ではなく現実で──更には、美鈴の返す答えを待ってくれているというのだ。
一気に熱くなった顔を隠せず、『消灯後の室内で良かった』と辛うじて残っている冷静な思考が横滑りする。
「夢じゃないからな、マジで。美鈴。俺と結婚を前提に付き合って欲しい。……ってか、嫌でももう放せないけど」
「……ふふ……それじゃあ、脩一さんもストーカーになっちゃう」
「あ、そうか。……ふむ、こういう心境なのか?いや、俺はまだまともな思考の筈で……。でもここで拒絶されたら?うわ……、有り得ない。『付きまとい』になる可能性がゼロだと言いきれ、ない?……」
はっきりと再度告白してきた脩一だが、美鈴の軽口にいやに真剣に考え始めたようだ。そして己が嫌悪している筈の『ストーカー』心理に対し、妙に理解が出来てしまう現状の思考に愕然としている様子でもある。
ストーカーの切っ掛けが『恋情』である事は頭で理解されていても、心情的に納得が行くものではない筈だ。そしてその矛先が自分に向けられた事もあり、脩一にとっては『憎悪』の対象になっていてもおかしくはないのである。
「え……脩一さん、深く考えすぎ……」
「いやしかし……。俺は……何故これ程の感情を美鈴に向けている?吊り橋効果か?これは一時的な感情なのか?……そもそも過去に、これ程の想いを誰かに向けた事はあったのか?」
美鈴を目の前にしているにも関わらず、脩一は己の思考に沈んでいるようだった。
月明かりと僅かな常夜灯の灯火しかない、闇に沈んだ病室である。
美鈴は脩一の邪魔をしないように放置する事にしたが、ブツブツと呟く彼の話の内容には自然と聞き耳を立ててしまっていた。
──何だか不思議……。脩一さんの言ってる事って、私にも当てはまる気がするし。人を好きになるって、『猫が好き』『海が好き』っていうのとは違うって分かってたけど……。実際に『恋愛』を理解しているかって聞かれると、分からなかったんだよねぇ。でも今は……。
美鈴も『恋』をした事はある筈だが、実際に『交際』まで繋がった過去はない。──つまりは『乙女』なのだ。
そうして、脩一の独り言がいつの間にか聞こえなくなっている事に気付かず、美鈴は己の思考に入っていたのである。
「美鈴……」
「っ!」
突然頬に触れられ、息を詰めた美鈴。けれども相手が脩一であると認識すると、自然と心の緊張が緩む自分の反応を知った。
触れられると嬉しい。傍にいたい。心臓が暴れるけれど、それは決して嫌な感覚ではないのだ。
「私も脩一さんが好き」
「っ……ありがとう、美鈴。……何だ……こう……嬉しいもんだな、気持ちが通じ合うって」
「わ、私も初めて……。ドキドキして心臓が痛いけど……身体の真ん中が、フワッと温かい……」
美鈴は横たわった状態だったが、常より早い鼓動を刻む胸に手を当てる。それはまるで短距離を走った後のようで、けれども呼吸はそれと比べると比較的穏やかだった。
脩一も同じ状態なのか不意に疑問に思い、視線を彼に向ける。
「「あ……」」
全く同じタイミングで目が合ったのだ。そして、共に驚きの声をあげる。
美鈴は脩一の目を見つめていて気付かなかったのだが、彼の右手も自身の胸に当てられていた。互いが同じ事を感じ、同じ行動をしていたのである。
そしてそれを良い事に、これでもかという程脩一の顔を観察していた。
──眉も綺麗に整えてあって、男の人なのに脂ぎってもないよ。え、肌の手入れとかどうしてるんだろ。……あ、ちょっとだけ髭。
「……いつになったらキスしてくれるの?」
「ぅきゃ……っ!」
あまりにも美鈴が間近で見ていた為、眠っていると思っていた脩一から声を掛けられて酷く驚く。けれども大きな声を上げるのはマズイと察した美鈴は、勢い良く己の口に手を当てて声を圧し殺した。
けれどもその瞳は驚きを隠せない。大きく見開いたまま、美鈴の動きは完全に停止してしまった。
「フッ、大きな目。……ごめんね、驚かせた?」
脩一の問い掛けに、美鈴は──横たわったままであるものの──可能な限り大きく何度も頷く。
今の緩められた脩一の眼差しからは、先程までの悪戯っぽい光が消えていた。
「大丈夫?気分が悪いとかはない?」
「あ、はい……じゃなくて……えっと、うん。大丈夫、たぶん。あの……」
「あ~……、ここが病院なのは覚えてるよな?今は……二十二時過ぎみたいだ。……良かった、二十三時までだったから……」
確認してくれる脩一の声に小さく答えながらも、現状を把握する美鈴である。──残念だが、既に土曜日も終わろうとしていた。
一度意識を取り戻した時刻は記憶していないが、明るかったので日中だったと美鈴は推測する。そして再び、意識消失──もう、殆ど一日寝ていたようなものだ。
脩一の告げた時間制限が多少気になったものの、ここは病院なのである。帰宅せざるを得ない時間があってもおかしくはない、と美鈴は今更ながらに思い至った。
「えっと……ずっと傍にいてくれて、ありがとう」
「ん?当たり前だろ。あ、返事ももらってないし?」
「ぅきゅ……っ」
改めて感謝を口にすれば、僅かに意地悪そうな笑みを浮かべる脩一に美鈴の心臓が跳ねる。
『夢オチ』ではなく現実で──更には、美鈴の返す答えを待ってくれているというのだ。
一気に熱くなった顔を隠せず、『消灯後の室内で良かった』と辛うじて残っている冷静な思考が横滑りする。
「夢じゃないからな、マジで。美鈴。俺と結婚を前提に付き合って欲しい。……ってか、嫌でももう放せないけど」
「……ふふ……それじゃあ、脩一さんもストーカーになっちゃう」
「あ、そうか。……ふむ、こういう心境なのか?いや、俺はまだまともな思考の筈で……。でもここで拒絶されたら?うわ……、有り得ない。『付きまとい』になる可能性がゼロだと言いきれ、ない?……」
はっきりと再度告白してきた脩一だが、美鈴の軽口にいやに真剣に考え始めたようだ。そして己が嫌悪している筈の『ストーカー』心理に対し、妙に理解が出来てしまう現状の思考に愕然としている様子でもある。
ストーカーの切っ掛けが『恋情』である事は頭で理解されていても、心情的に納得が行くものではない筈だ。そしてその矛先が自分に向けられた事もあり、脩一にとっては『憎悪』の対象になっていてもおかしくはないのである。
「え……脩一さん、深く考えすぎ……」
「いやしかし……。俺は……何故これ程の感情を美鈴に向けている?吊り橋効果か?これは一時的な感情なのか?……そもそも過去に、これ程の想いを誰かに向けた事はあったのか?」
美鈴を目の前にしているにも関わらず、脩一は己の思考に沈んでいるようだった。
月明かりと僅かな常夜灯の灯火しかない、闇に沈んだ病室である。
美鈴は脩一の邪魔をしないように放置する事にしたが、ブツブツと呟く彼の話の内容には自然と聞き耳を立ててしまっていた。
──何だか不思議……。脩一さんの言ってる事って、私にも当てはまる気がするし。人を好きになるって、『猫が好き』『海が好き』っていうのとは違うって分かってたけど……。実際に『恋愛』を理解しているかって聞かれると、分からなかったんだよねぇ。でも今は……。
美鈴も『恋』をした事はある筈だが、実際に『交際』まで繋がった過去はない。──つまりは『乙女』なのだ。
そうして、脩一の独り言がいつの間にか聞こえなくなっている事に気付かず、美鈴は己の思考に入っていたのである。
「美鈴……」
「っ!」
突然頬に触れられ、息を詰めた美鈴。けれども相手が脩一であると認識すると、自然と心の緊張が緩む自分の反応を知った。
触れられると嬉しい。傍にいたい。心臓が暴れるけれど、それは決して嫌な感覚ではないのだ。
「私も脩一さんが好き」
「っ……ありがとう、美鈴。……何だ……こう……嬉しいもんだな、気持ちが通じ合うって」
「わ、私も初めて……。ドキドキして心臓が痛いけど……身体の真ん中が、フワッと温かい……」
美鈴は横たわった状態だったが、常より早い鼓動を刻む胸に手を当てる。それはまるで短距離を走った後のようで、けれども呼吸はそれと比べると比較的穏やかだった。
脩一も同じ状態なのか不意に疑問に思い、視線を彼に向ける。
「「あ……」」
全く同じタイミングで目が合ったのだ。そして、共に驚きの声をあげる。
美鈴は脩一の目を見つめていて気付かなかったのだが、彼の右手も自身の胸に当てられていた。互いが同じ事を感じ、同じ行動をしていたのである。
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