階段で異性とぶつかって恋に落ちるなんて少女漫画だけの話と思ってました

まひる

文字の大きさ
上 下
40 / 92
ストーカー編──第五章『互いの心が向かう方向』──

その40。近付く心 1

しおりを挟む
 ※ ※ ※ ※ ※

「あ、いや、それは……」

 『面白い』に納得したような美鈴みすずに、脩一しゅういちは酷く慌てた。
 確かに初めは美鈴の予想外な反応に興味を引かれたのだが、今は『違う』と自分でも分かっている。

「おい、しっかりしろ、ヘタレ脩一」
「っ、ヘタレじゃねぇっての」
「じゃあ、何だよ」
「っ!」
「え?どうして喧嘩が始まるの?」

 美鈴の誤解を解きたくとも、状況が普通ではないのだ。
 いくら有弘なおひろあおられようが、ここは病院で。更には誘拐と監禁をされて、救出されたばかりの美鈴相手だ。──せめてもっと雰囲気のある、お互いに気分が盛り上がっている状況が望ましい。

「脩一さん、聞いたわよっ!」
「ちょ……母さん、静かに!」

 そして追い打ちのように、脩一想定外の事態が起こった。
 ここは美鈴の入院している病室で、更には医師から安静にと言われている。──それを有弘だけではなく、何故か脩一の両親までも乱入してきたのだ。
 人の話を聞かず喚く母親に対し、追い掛けて入ってきたような父親が肩を掴んで注意している。

 ──何だよ、これ……。
「え?えっ?脩一さんの……御両親?」
「あ~……、ヤバ。忘れてた」

 額を押さえて天をあおぐ脩一、混乱する美鈴。そして有弘の態度から、彼がこの病院に両親を連れてきた張本人だと推測された。
 母親の様子から、脩一が美鈴を巻き込んでしまった『ある程度』の経緯は知らされているのだろう。──詰んだ、と脩一は思った。
 だが、ここで現実逃避をしても始まらない。最悪の場合、このまま全てが終わってしまうのだ。

「ちょっと皆出ていって」
「え?何でよ嫌よ」
「脩一?どうしたんだ?」
「良いから出ていってくれないか。……彼女と話がしたい」

 脩一は意を決して両親に告げる。
 当然のように母親の拒絶があったが、困惑している父親に対し、再度静かに請う。

「は~い、それじゃあ一旦撤退しましょう」
「えっ、何でよ有弘くん」
「いや、そうしよう。母さん、行こう」
「貴方まで?」
「ここの食堂のケーキ、美味しいって評判ですよ?早くしないと閉店してしまいますし」
「ほら。母さん、ケーキ好きだろ?」
「あら、ケーキ?そう、ね。また来るわね、脩一」
「はいはい、行きましょ~。お邪魔しました~」

 何とか有弘が察してくれて、父親もそれに便乗するように話を合わせてくれたようだ。
 バタバタしたものの、何とか再度美鈴と二人になる。

「え……っと……、どういう事?」
「あ~……、まぁ……騒がしくして悪かった」

 美鈴の戸惑いは脩一も理解出来るが、今はこれ以上事態を悪化させない迅速な対応が求められた。
 苦笑しつつも、有弘や両親がきて騒々しかったのは事実なので、脩一は改めて美鈴へ謝罪する。

「良く分からないけど、水納みずなさん?は面白かったわね」
「……それは否定出来ないが、何か嫌だな」
「どうしたの?脩一さん」
「あ~……。騒がしついでに、俺の話を聞いてくれないか、美鈴」
「え?……それは構わないけど。なあに?」

 美鈴が有弘に興味を持ってしまうのは、脩一としては酷く心がざわついた。
 現状を長引かせたところで、もうこれ以上おかしな事にはならないだろうとも腹をくくる脩一である。──とはいえ、真剣に耳を傾けられても話しにくいものだが。

「……っ、俺は美鈴が好きだ」
「っ?!な、何を、急に……」
「ごめん。本当はもっと色々考えてたんだけど、周りが放っておいてくれないみたいだから……。いや、これは言い訳か。こんな時に本当、悪いとは思ってるけど……。美鈴、俺と結婚を前提に付き合って欲しい」
「きゅ……」
「え?わっ、美鈴?!」

 二度目の告白をした脩一だったが、美鈴から返答を受け取れず。──更には気絶してしまった彼女を抱えて慌ててナースコールをするという、散々な結果に終わった。

 ※ ※ ※ ※ ※

「……俺と結婚を前提に付き合って欲しい」

 まさか、こんな言葉を脩一から聞くとは思ってもいなかった美鈴である。
 『偽装彼女』とか『ストーカー』とか、短期間に本当に色々な事があった。ありすぎてもはや現実味が無く、夢だったと言われてもおかしくない日々である。
 これがわずか二週間程の間に、一気に美鈴に降り掛かってきたのだ。
 先程は脩一の言葉で追い打ちを掛けられ、完全に許容量を超えてしまった美鈴である。人生初めての失神をするという経験までしてしまい、本当に様々な事があふれた日々だった。

 ──更にこんなの……有り得ないよ、本当に。え、夢の中とかかな。実は私、また寝てるんじゃないの?でも仮に夢だとして、こんな状況って……。自覚してないだけで、もしかして欲求不満なの?

 意識を取り戻した美鈴は、ベッドに伏せるように眠っている脩一を目にする。──目を開けた時に他者の頭があって、実は心臓が飛び出そうな程に驚いた。
 既に夜となっているのか周囲は暗く、静かな空気が辺りを覆っている。

 ──睫毛まつげ、長……っ。

 横たわっている状態で左腕に点滴の美鈴だが、病院の静かな空気の中で真横に異性がいるという過去にない時間を現在進行形で経験中だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

処理中です...