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ストーカー編──第五章『互いの心が向かう方向』──
その40。近付く心 1
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※ ※ ※ ※ ※
「あ、いや、それは……」
『面白い』に納得したような美鈴に、脩一は酷く慌てた。
確かに初めは美鈴の予想外な反応に興味を引かれたのだが、今は『違う』と自分でも分かっている。
「おい、しっかりしろ、ヘタレ脩一」
「っ、ヘタレじゃねぇっての」
「じゃあ、何だよ」
「っ!」
「え?どうして喧嘩が始まるの?」
美鈴の誤解を解きたくとも、状況が普通ではないのだ。
いくら有弘に煽られようが、ここは病院で。更には誘拐と監禁をされて、救出されたばかりの美鈴相手だ。──せめてもっと雰囲気のある、お互いに気分が盛り上がっている状況が望ましい。
「脩一さん、聞いたわよっ!」
「ちょ……母さん、静かに!」
そして追い打ちのように、脩一想定外の事態が起こった。
ここは美鈴の入院している病室で、更には医師から安静にと言われている。──それを有弘だけではなく、何故か脩一の両親までも乱入してきたのだ。
人の話を聞かず喚く母親に対し、追い掛けて入ってきたような父親が肩を掴んで注意している。
──何だよ、これ……。
「え?えっ?脩一さんの……御両親?」
「あ~……、ヤバ。忘れてた」
額を押さえて天を煽ぐ脩一、混乱する美鈴。そして有弘の態度から、彼がこの病院に両親を連れてきた張本人だと推測された。
母親の様子から、脩一が美鈴を巻き込んでしまった『ある程度』の経緯は知らされているのだろう。──詰んだ、と脩一は思った。
だが、ここで現実逃避をしても始まらない。最悪の場合、このまま全てが終わってしまうのだ。
「ちょっと皆出ていって」
「え?何でよ嫌よ」
「脩一?どうしたんだ?」
「良いから出ていってくれないか。……彼女と話がしたい」
脩一は意を決して両親に告げる。
当然のように母親の拒絶があったが、困惑している父親に対し、再度静かに請う。
「は~い、それじゃあ一旦撤退しましょう」
「えっ、何でよ有弘くん」
「いや、そうしよう。母さん、行こう」
「貴方まで?」
「ここの食堂のケーキ、美味しいって評判ですよ?早くしないと閉店してしまいますし」
「ほら。母さん、ケーキ好きだろ?」
「あら、ケーキ?そう、ね。また来るわね、脩一」
「はいはい、行きましょ~。お邪魔しました~」
何とか有弘が察してくれて、父親もそれに便乗するように話を合わせてくれたようだ。
バタバタしたものの、何とか再度美鈴と二人になる。
「え……っと……、どういう事?」
「あ~……、まぁ……騒がしくして悪かった」
美鈴の戸惑いは脩一も理解出来るが、今はこれ以上事態を悪化させない迅速な対応が求められた。
苦笑しつつも、有弘や両親がきて騒々しかったのは事実なので、脩一は改めて美鈴へ謝罪する。
「良く分からないけど、水納さん?は面白かったわね」
「……それは否定出来ないが、何か嫌だな」
「どうしたの?脩一さん」
「あ~……。騒がしついでに、俺の話を聞いてくれないか、美鈴」
「え?……それは構わないけど。なあに?」
美鈴が有弘に興味を持ってしまうのは、脩一としては酷く心がざわついた。
現状を長引かせたところで、もうこれ以上おかしな事にはならないだろうとも腹を括る脩一である。──とはいえ、真剣に耳を傾けられても話しにくいものだが。
「……っ、俺は美鈴が好きだ」
「っ?!な、何を、急に……」
「ごめん。本当はもっと色々考えてたんだけど、周りが放っておいてくれないみたいだから……。いや、これは言い訳か。こんな時に本当、悪いとは思ってるけど……。美鈴、俺と結婚を前提に付き合って欲しい」
「きゅ……」
「え?わっ、美鈴?!」
二度目の告白をした脩一だったが、美鈴から返答を受け取れず。──更には気絶してしまった彼女を抱えて慌ててナースコールをするという、散々な結果に終わった。
※ ※ ※ ※ ※
「……俺と結婚を前提に付き合って欲しい」
まさか、こんな言葉を脩一から聞くとは思ってもいなかった美鈴である。
『偽装彼女』とか『ストーカー』とか、短期間に本当に色々な事があった。ありすぎてもはや現実味が無く、夢だったと言われてもおかしくない日々である。
これが僅か二週間程の間に、一気に美鈴に降り掛かってきたのだ。
先程は脩一の言葉で追い打ちを掛けられ、完全に許容量を超えてしまった美鈴である。人生初めての失神をするという経験までしてしまい、本当に様々な事が溢れた日々だった。
──更にこんなの……有り得ないよ、本当に。え、夢の中とかかな。実は私、また寝てるんじゃないの?でも仮に夢だとして、こんな状況って……。自覚してないだけで、もしかして欲求不満なの?
意識を取り戻した美鈴は、ベッドに伏せるように眠っている脩一を目にする。──目を開けた時に他者の頭があって、実は心臓が飛び出そうな程に驚いた。
既に夜となっているのか周囲は暗く、静かな空気が辺りを覆っている。
──睫毛、長……っ。
横たわっている状態で左腕に点滴の美鈴だが、病院の静かな空気の中で真横に異性がいるという過去にない時間を現在進行形で経験中だった。
「あ、いや、それは……」
『面白い』に納得したような美鈴に、脩一は酷く慌てた。
確かに初めは美鈴の予想外な反応に興味を引かれたのだが、今は『違う』と自分でも分かっている。
「おい、しっかりしろ、ヘタレ脩一」
「っ、ヘタレじゃねぇっての」
「じゃあ、何だよ」
「っ!」
「え?どうして喧嘩が始まるの?」
美鈴の誤解を解きたくとも、状況が普通ではないのだ。
いくら有弘に煽られようが、ここは病院で。更には誘拐と監禁をされて、救出されたばかりの美鈴相手だ。──せめてもっと雰囲気のある、お互いに気分が盛り上がっている状況が望ましい。
「脩一さん、聞いたわよっ!」
「ちょ……母さん、静かに!」
そして追い打ちのように、脩一想定外の事態が起こった。
ここは美鈴の入院している病室で、更には医師から安静にと言われている。──それを有弘だけではなく、何故か脩一の両親までも乱入してきたのだ。
人の話を聞かず喚く母親に対し、追い掛けて入ってきたような父親が肩を掴んで注意している。
──何だよ、これ……。
「え?えっ?脩一さんの……御両親?」
「あ~……、ヤバ。忘れてた」
額を押さえて天を煽ぐ脩一、混乱する美鈴。そして有弘の態度から、彼がこの病院に両親を連れてきた張本人だと推測された。
母親の様子から、脩一が美鈴を巻き込んでしまった『ある程度』の経緯は知らされているのだろう。──詰んだ、と脩一は思った。
だが、ここで現実逃避をしても始まらない。最悪の場合、このまま全てが終わってしまうのだ。
「ちょっと皆出ていって」
「え?何でよ嫌よ」
「脩一?どうしたんだ?」
「良いから出ていってくれないか。……彼女と話がしたい」
脩一は意を決して両親に告げる。
当然のように母親の拒絶があったが、困惑している父親に対し、再度静かに請う。
「は~い、それじゃあ一旦撤退しましょう」
「えっ、何でよ有弘くん」
「いや、そうしよう。母さん、行こう」
「貴方まで?」
「ここの食堂のケーキ、美味しいって評判ですよ?早くしないと閉店してしまいますし」
「ほら。母さん、ケーキ好きだろ?」
「あら、ケーキ?そう、ね。また来るわね、脩一」
「はいはい、行きましょ~。お邪魔しました~」
何とか有弘が察してくれて、父親もそれに便乗するように話を合わせてくれたようだ。
バタバタしたものの、何とか再度美鈴と二人になる。
「え……っと……、どういう事?」
「あ~……、まぁ……騒がしくして悪かった」
美鈴の戸惑いは脩一も理解出来るが、今はこれ以上事態を悪化させない迅速な対応が求められた。
苦笑しつつも、有弘や両親がきて騒々しかったのは事実なので、脩一は改めて美鈴へ謝罪する。
「良く分からないけど、水納さん?は面白かったわね」
「……それは否定出来ないが、何か嫌だな」
「どうしたの?脩一さん」
「あ~……。騒がしついでに、俺の話を聞いてくれないか、美鈴」
「え?……それは構わないけど。なあに?」
美鈴が有弘に興味を持ってしまうのは、脩一としては酷く心がざわついた。
現状を長引かせたところで、もうこれ以上おかしな事にはならないだろうとも腹を括る脩一である。──とはいえ、真剣に耳を傾けられても話しにくいものだが。
「……っ、俺は美鈴が好きだ」
「っ?!な、何を、急に……」
「ごめん。本当はもっと色々考えてたんだけど、周りが放っておいてくれないみたいだから……。いや、これは言い訳か。こんな時に本当、悪いとは思ってるけど……。美鈴、俺と結婚を前提に付き合って欲しい」
「きゅ……」
「え?わっ、美鈴?!」
二度目の告白をした脩一だったが、美鈴から返答を受け取れず。──更には気絶してしまった彼女を抱えて慌ててナースコールをするという、散々な結果に終わった。
※ ※ ※ ※ ※
「……俺と結婚を前提に付き合って欲しい」
まさか、こんな言葉を脩一から聞くとは思ってもいなかった美鈴である。
『偽装彼女』とか『ストーカー』とか、短期間に本当に色々な事があった。ありすぎてもはや現実味が無く、夢だったと言われてもおかしくない日々である。
これが僅か二週間程の間に、一気に美鈴に降り掛かってきたのだ。
先程は脩一の言葉で追い打ちを掛けられ、完全に許容量を超えてしまった美鈴である。人生初めての失神をするという経験までしてしまい、本当に様々な事が溢れた日々だった。
──更にこんなの……有り得ないよ、本当に。え、夢の中とかかな。実は私、また寝てるんじゃないの?でも仮に夢だとして、こんな状況って……。自覚してないだけで、もしかして欲求不満なの?
意識を取り戻した美鈴は、ベッドに伏せるように眠っている脩一を目にする。──目を開けた時に他者の頭があって、実は心臓が飛び出そうな程に驚いた。
既に夜となっているのか周囲は暗く、静かな空気が辺りを覆っている。
──睫毛、長……っ。
横たわっている状態で左腕に点滴の美鈴だが、病院の静かな空気の中で真横に異性がいるという過去にない時間を現在進行形で経験中だった。
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