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ストーカー編──第五章『互いの心が向かう方向』──
その39。謝罪と許し 2
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「おま……っ」
「良かったな。俺じゃなくて、女の子にナデナデしてもらえて」
その親しみを帯びた口調から、その人物が脩一の知り合いであると美鈴は判断する。
会話の内容は良く分からないが、脩一の耳が赤くなっている事は、彼の後頭部が見える美鈴にも分かった。
「あの……?」
「あぁ、ごめんね。俺、脩一の同期の水納有弘。初めまして、美鈴ちゃん……って呼んで良いのかな?」
「え、あ……はい」
「ダメだ、馴れ馴れしいっ」
美鈴の問い掛けに、有弘が自己紹介を始める。人が話しているのに横たわっている訳にもいかないので、美鈴は身体を起こした。
すぐに彼女が院内服である事に気付いたようで、脩一は布団の傍に掛けてあったカーディガンを羽織らせてくれる。
対する有弘はとてもにこやかな男性で、爽やかな印象を受けた。自己紹介と共に脩一の隣に立つと、僅かに身長が低い事が美鈴にも分かった。
そして脩一は美鈴を有弘から隠すかのようにその場の取り合いをしていたが、その二人のやり取りが面白く、思わず会話に聞き入ってしまう。
「美鈴さんって言え。いや、柊木さんって言え!」
「いや、何でよ。結婚したら柊木じゃなくなるでしょ」
「結婚っ?!そ、それはそうだが……そもそも誰とだよっ」
「え?お前と?ん、まさかまだ?」
「ちょ、おまっ!それは追々、だなっ」
「何だよ、ヘタレだなぁ。人間、勢いが大切だぞ?」
「いや待て、勢いだけのお前に言われたくない」
「で、いつ言うんだ?」
「人の話を聞けよっ」
間近でそんなコントじみた事をされて、笑わないではいられなかった。
美鈴は『あはは』と声を出して笑う。
「……ほら、みろ。お前の馬鹿さ加減を笑われただろ」
「いや、それで良くね?俺等、基本こんなだし」
「待て、俺を同類にするな」
「あはは、おかし……っ。お、お腹痛……っ。あははっ」
一度は美鈴の笑いに会話を中断した脩一と有弘だったが、いつまでも笑い続ける美鈴を見て、再び責任の擦り付け合いのようなやり取りを始めたのだ。そしてそれがまた美鈴の笑いを誘い、涙まで浮かべて笑っている。
美鈴からしてみれば、普段は大人びてクールな脩一の、初めて見る親しみやすい一面だった。
「……いや、ムッチャ笑われてるやん」
「だから、さっき言っただろ。って、俺のクールなイメージを壊すなよ」
「いや、クールって何?ただ女が怖くて、距離を置く為の仮面だろ?基本は万人に優しく、一線踏み込んでくる奴には冷たく……だよな」
「……お前、本当に何なの。俺の観察してんなよ、キモいわ」
「え~……。こんなに気遣いの出来る親友って、そういないだろ?」
「親友って、自分で言うかよ」
「ふふふ、仲が良いですねっ」
「っ……、だろ?この会社に入ってからだけど、脩一とは気が合うんだよなぁ~」
笑いの発作が治まった美鈴は、思わず脩一と有弘の会話に参入してしまう。それに対し一瞬驚きを見せた有弘だが、すぐに笑顔で対応してくれた。
初対面なのに接しやすい人だと、有弘への評価がまた上昇した美鈴である。
「初めは一方的に絡まれたんだが……」
「えっ、そうなの?」
「あ~……コイツ、見た目はそこそこじゃん?女子の人気が高くて、俺としてはライバル登場かってな感じだった訳」
「ちっ、そこそこって何だよ……」
聞く話によると、入社前の研修時から二人の人気は高かったそうだ。だが、いつも周囲に女子の取り巻きがいる有弘と、対照的に女子をあまり寄せ付けない脩一だったそうで。──そんな脩一の態度が気に入らないと、有弘は事あるごとにちょっかいを出していた。
ところが飲みの席で、有弘が嫌がらせを含めて趣味の『ガンプラ』の話をすると、脩一は引くどころか双方で会話が盛り上がったらしい。
「ガンプラ?」
「あ~……、美鈴ちゃんには難しいかぁ」
「おい、美鈴を馬鹿にするな」
「はいはい、馬鹿にしてないって。女の子の趣味じゃねぇのは分かってるし」
「美鈴。簡単に言えば、ロボットのプラモデルだ」
「あぁ、プラモデルね。弟もやってたの見た事ある。でも不器用で、最終的にセロテープ固めになってたんだよね」
頭上に疑問符を浮かべていた美鈴に、脩一が分かりやすく説明をしてくれた。そして小学生の頃、弟が一生懸命組み立てていた人形のプラモデルを思い浮かべる。
接着剤を使わなくても良い構造であった筈なのに、弟が作るとどうしてか接続部分が付かず、テープで固定されるはめになっていたのだ。
「ひ、酷い……っ。可哀想なガンプラっ」
「ふっ、面白いな美鈴の弟」
「脩一さんの趣味も、その『ガンプラ』なの?」
「いや俺は……どちらかと言えば『人間観察』か。見ているだけなら、多岐にわたった人間の行動は面白い」
過去の弟に迫害された(?)ガンプラに思いをはせ、一人で嘆いている有弘である。
美鈴は話の流れついでにと、脩一の趣味を聞いて──返ってきた答えは、思いもよらないものだった。
「マジか。それ、ちょっとどうかと思うぞ」
「ん?有弘も面白いと思うぞ」
「俺、観察されてた!」
「あ……、それで私に『面白い』って……」
けれども続けられた有弘と脩一のやり取りに、至極当然のように腑に落ちたのである。
脩一が美鈴へ興味を持ったのは偶然もあるだろうが、彼を楽しませるだけの予想外な事を美鈴がしてきたからだ。──勿論、美鈴としては変な事をしているつもりは全くないのだが。
「良かったな。俺じゃなくて、女の子にナデナデしてもらえて」
その親しみを帯びた口調から、その人物が脩一の知り合いであると美鈴は判断する。
会話の内容は良く分からないが、脩一の耳が赤くなっている事は、彼の後頭部が見える美鈴にも分かった。
「あの……?」
「あぁ、ごめんね。俺、脩一の同期の水納有弘。初めまして、美鈴ちゃん……って呼んで良いのかな?」
「え、あ……はい」
「ダメだ、馴れ馴れしいっ」
美鈴の問い掛けに、有弘が自己紹介を始める。人が話しているのに横たわっている訳にもいかないので、美鈴は身体を起こした。
すぐに彼女が院内服である事に気付いたようで、脩一は布団の傍に掛けてあったカーディガンを羽織らせてくれる。
対する有弘はとてもにこやかな男性で、爽やかな印象を受けた。自己紹介と共に脩一の隣に立つと、僅かに身長が低い事が美鈴にも分かった。
そして脩一は美鈴を有弘から隠すかのようにその場の取り合いをしていたが、その二人のやり取りが面白く、思わず会話に聞き入ってしまう。
「美鈴さんって言え。いや、柊木さんって言え!」
「いや、何でよ。結婚したら柊木じゃなくなるでしょ」
「結婚っ?!そ、それはそうだが……そもそも誰とだよっ」
「え?お前と?ん、まさかまだ?」
「ちょ、おまっ!それは追々、だなっ」
「何だよ、ヘタレだなぁ。人間、勢いが大切だぞ?」
「いや待て、勢いだけのお前に言われたくない」
「で、いつ言うんだ?」
「人の話を聞けよっ」
間近でそんなコントじみた事をされて、笑わないではいられなかった。
美鈴は『あはは』と声を出して笑う。
「……ほら、みろ。お前の馬鹿さ加減を笑われただろ」
「いや、それで良くね?俺等、基本こんなだし」
「待て、俺を同類にするな」
「あはは、おかし……っ。お、お腹痛……っ。あははっ」
一度は美鈴の笑いに会話を中断した脩一と有弘だったが、いつまでも笑い続ける美鈴を見て、再び責任の擦り付け合いのようなやり取りを始めたのだ。そしてそれがまた美鈴の笑いを誘い、涙まで浮かべて笑っている。
美鈴からしてみれば、普段は大人びてクールな脩一の、初めて見る親しみやすい一面だった。
「……いや、ムッチャ笑われてるやん」
「だから、さっき言っただろ。って、俺のクールなイメージを壊すなよ」
「いや、クールって何?ただ女が怖くて、距離を置く為の仮面だろ?基本は万人に優しく、一線踏み込んでくる奴には冷たく……だよな」
「……お前、本当に何なの。俺の観察してんなよ、キモいわ」
「え~……。こんなに気遣いの出来る親友って、そういないだろ?」
「親友って、自分で言うかよ」
「ふふふ、仲が良いですねっ」
「っ……、だろ?この会社に入ってからだけど、脩一とは気が合うんだよなぁ~」
笑いの発作が治まった美鈴は、思わず脩一と有弘の会話に参入してしまう。それに対し一瞬驚きを見せた有弘だが、すぐに笑顔で対応してくれた。
初対面なのに接しやすい人だと、有弘への評価がまた上昇した美鈴である。
「初めは一方的に絡まれたんだが……」
「えっ、そうなの?」
「あ~……コイツ、見た目はそこそこじゃん?女子の人気が高くて、俺としてはライバル登場かってな感じだった訳」
「ちっ、そこそこって何だよ……」
聞く話によると、入社前の研修時から二人の人気は高かったそうだ。だが、いつも周囲に女子の取り巻きがいる有弘と、対照的に女子をあまり寄せ付けない脩一だったそうで。──そんな脩一の態度が気に入らないと、有弘は事あるごとにちょっかいを出していた。
ところが飲みの席で、有弘が嫌がらせを含めて趣味の『ガンプラ』の話をすると、脩一は引くどころか双方で会話が盛り上がったらしい。
「ガンプラ?」
「あ~……、美鈴ちゃんには難しいかぁ」
「おい、美鈴を馬鹿にするな」
「はいはい、馬鹿にしてないって。女の子の趣味じゃねぇのは分かってるし」
「美鈴。簡単に言えば、ロボットのプラモデルだ」
「あぁ、プラモデルね。弟もやってたの見た事ある。でも不器用で、最終的にセロテープ固めになってたんだよね」
頭上に疑問符を浮かべていた美鈴に、脩一が分かりやすく説明をしてくれた。そして小学生の頃、弟が一生懸命組み立てていた人形のプラモデルを思い浮かべる。
接着剤を使わなくても良い構造であった筈なのに、弟が作るとどうしてか接続部分が付かず、テープで固定されるはめになっていたのだ。
「ひ、酷い……っ。可哀想なガンプラっ」
「ふっ、面白いな美鈴の弟」
「脩一さんの趣味も、その『ガンプラ』なの?」
「いや俺は……どちらかと言えば『人間観察』か。見ているだけなら、多岐にわたった人間の行動は面白い」
過去の弟に迫害された(?)ガンプラに思いをはせ、一人で嘆いている有弘である。
美鈴は話の流れついでにと、脩一の趣味を聞いて──返ってきた答えは、思いもよらないものだった。
「マジか。それ、ちょっとどうかと思うぞ」
「ん?有弘も面白いと思うぞ」
「俺、観察されてた!」
「あ……、それで私に『面白い』って……」
けれども続けられた有弘と脩一のやり取りに、至極当然のように腑に落ちたのである。
脩一が美鈴へ興味を持ったのは偶然もあるだろうが、彼を楽しませるだけの予想外な事を美鈴がしてきたからだ。──勿論、美鈴としては変な事をしているつもりは全くないのだが。
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しおりを挟んでくださっている皆様へ。
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