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かいこい編──第一章『馬鹿じゃないの。興味がないだけ』──
その6。友達を紹介しよう 2
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美鈴も慌てて残りのゼリーを口に掻き入れ、けれども頬を膨らませながらも味わう。すぐに飲み込んでしまうのは、非常に勿体ないと思ったからだ。
──うん、やっぱり美味しい~。……さてと、戻って神田女史と交代しないとね。
受注担当は、基本的に課内で交代をしながら昼食と休憩を取る。
受注の為の電話が営業時間中は開放されたままなので、全員が離席する訳にはいかないからだ。
そうしてお盆を返却口まで持っていく。当然ながら、このあたりはセルフサービスだ。
「スズちゃん、明日は遅番なんだよね?」
「そうだよ、日替りだからね~。明日は御昼一緒出来ないけど、また明後日だよモエちゃん」
「うん、分かった~。それじゃ私は総務に寄らなきゃだから、ここでまたねだよ。あ、明後日結果教えてね~」
「あ~……うん、分かった」
萌枝の笑顔と共に告げられた現実に、美鈴はガックリと肩を落とす。けれども絶対的不可避な現実の為、脳内逃避ばかりをしてはいられなかった。
顔をひきつりつつも手を振り、そのまま美鈴は萌枝と二階の食堂出入口で別れる。萌枝は総務部へ行く為に階段を上へ、美鈴は事務所へ戻る為に階段下へ足を向けた。
そして自席に戻りつつ、前半を受け持ってくれた受注担当二名へ声をかける。
昼食時は鳴る電話が少ないとはいえ、午後便締め時間を過ぎたばかりの時は、強引に当日出荷を差し込もうとしてくる顧客も少なくはないのだ。よって、美鈴は遅番──昼食休憩後半組──は好きでない。配達を間に合わせる為、倉庫へと走るはめになるからだ。
「戻りました」
「はあい。それじゃ、後を宜しくねぇ」
「はい。行ってらっしゃいです」
そうして神田女史ともう一人の受注担当、米子さんを昼食へ見送る。米子さんは美鈴の三歳年上で、彼女と同じくこの春から受注担当となった男性社員だ。
高卒の男性社員は、基本的に入社と同時に倉庫勤務へと配属される。そこで商品に触れながら自社製品を学び、受注担当へ昇格。その後、営業担当へと昇格していくのだ。
対して女性社員は、内勤者として様々な部署へ配属される。勿論希望などは聞かれないが、営業所が近い人材は営業所勤務に配属される事もあった。
Albaは北海道から九州まで、幅広く全国に支店がある。そして各支店には営業所があり、少数だが駐在所もあるのだ。営業所には支店でいう『営業部』にあたる業務部署があり、駐在所は一人・二人の営業担当のみが在籍する形となる。しかしながら各営業所の管轄になる為、それらは必然的に何処かの支店に所属するのだ。
話は逸れたが──美鈴はこれからの一時間を、営業一課受注担当の若きホープ──らしい、四歳年上の楳木チーフと二人で取り持つ事になる。
美鈴と神田女史は必ず交代で昼休憩をとるのだが、楳木チーフと米子さんは状況によって決めているようだ。常に電話だけで受注が終わる訳ではないので、場合に寄って休憩を圧迫されなくて良い。
「ありがとうございます、Albaでございます。はい、御注文ですね」
電話が鳴り、ワンコールが終わる前に美鈴が受話器を取った。
「午後便、もう終わっちゃったよねぇ」
「そうですね、申し訳ございません。御存知のように、当日中の配達を行う為、受け付けを十二時までとさせて頂いています。本当はお届けにあがりたいのですが、申し訳ございません。明日の午前便では間に合いませんでしょうか」
「あ~、うん、無理を言いたい訳じゃないよ。取りに行くから、準備しておいてくれる?」
「ありがとうございます。では在庫を確認しますので、御注文を御伺いしても宜しいでしょうか」
──良かったぁ、素直に聞いてくれる御客様で。ありがたいなぁ~。
内心ホッとしながらも、美鈴は御伺いをたてる。こうして常に、話がスムーズに終われば何の苦労もないのだ。
実際に対面する事は少ないが、電話越しとはいえ、受注担当は直接顧客と接する立場にある。いくら先方が無茶振りして来ようが、面と向かって歯向かう事は当たり前だが出来ないのだ。──常に下手に、である。
「では、お引き取り分として準備し、御待ちしております。担当、柊木が承りました。ありがとうございました」
「柊木さんね。いや、こちらこそありがとう」
そうして無事に注文分の在庫確認も済み、顧客引き取り分として手元の液晶ディスプレイから出荷手配を終えた。
御互いに気分良く通話を終了出来た事で、この受注は大成功である。本当に、いつもこうであるならば誰もが幸せなのだ。
だが、今の幸せをぶち壊す電話が鳴る。──いや、当初からそうだと分かれば、心構えも出来るのだが。
「ありがとうございます、Albaでございます」
「ちょっと、今日の午前便で来るんじゃなかったの!?」
電話に出た早々、これである。
思わず美鈴も、あまりの声音に受話器を耳から遠ざけてしまった程だ。
「申し訳ございませんっ。あの、失礼ですが御名前を御伺い出来ますでしょうか」
「分からないのっ?『キュート』よ!」
「申し訳ございませんっ」
──いやいや、声で分かれって無理無理絶対無理。しかも全然キュートな応対じゃないしっ。
口で謝罪しながらも、美鈴は内心で突っ込みまくりである。けれども、同時に液晶ディスプレイで顧客管理ナンバーを検索していた。
全ての顧客はデータベース化されており、六桁の数字で管理されている。その数字から、昨日の受注記録を呼び出すのだ。
──あ、あった。カーテンの2056。あれ?これ、品切れ……。あぁマズイ。
──うん、やっぱり美味しい~。……さてと、戻って神田女史と交代しないとね。
受注担当は、基本的に課内で交代をしながら昼食と休憩を取る。
受注の為の電話が営業時間中は開放されたままなので、全員が離席する訳にはいかないからだ。
そうしてお盆を返却口まで持っていく。当然ながら、このあたりはセルフサービスだ。
「スズちゃん、明日は遅番なんだよね?」
「そうだよ、日替りだからね~。明日は御昼一緒出来ないけど、また明後日だよモエちゃん」
「うん、分かった~。それじゃ私は総務に寄らなきゃだから、ここでまたねだよ。あ、明後日結果教えてね~」
「あ~……うん、分かった」
萌枝の笑顔と共に告げられた現実に、美鈴はガックリと肩を落とす。けれども絶対的不可避な現実の為、脳内逃避ばかりをしてはいられなかった。
顔をひきつりつつも手を振り、そのまま美鈴は萌枝と二階の食堂出入口で別れる。萌枝は総務部へ行く為に階段を上へ、美鈴は事務所へ戻る為に階段下へ足を向けた。
そして自席に戻りつつ、前半を受け持ってくれた受注担当二名へ声をかける。
昼食時は鳴る電話が少ないとはいえ、午後便締め時間を過ぎたばかりの時は、強引に当日出荷を差し込もうとしてくる顧客も少なくはないのだ。よって、美鈴は遅番──昼食休憩後半組──は好きでない。配達を間に合わせる為、倉庫へと走るはめになるからだ。
「戻りました」
「はあい。それじゃ、後を宜しくねぇ」
「はい。行ってらっしゃいです」
そうして神田女史ともう一人の受注担当、米子さんを昼食へ見送る。米子さんは美鈴の三歳年上で、彼女と同じくこの春から受注担当となった男性社員だ。
高卒の男性社員は、基本的に入社と同時に倉庫勤務へと配属される。そこで商品に触れながら自社製品を学び、受注担当へ昇格。その後、営業担当へと昇格していくのだ。
対して女性社員は、内勤者として様々な部署へ配属される。勿論希望などは聞かれないが、営業所が近い人材は営業所勤務に配属される事もあった。
Albaは北海道から九州まで、幅広く全国に支店がある。そして各支店には営業所があり、少数だが駐在所もあるのだ。営業所には支店でいう『営業部』にあたる業務部署があり、駐在所は一人・二人の営業担当のみが在籍する形となる。しかしながら各営業所の管轄になる為、それらは必然的に何処かの支店に所属するのだ。
話は逸れたが──美鈴はこれからの一時間を、営業一課受注担当の若きホープ──らしい、四歳年上の楳木チーフと二人で取り持つ事になる。
美鈴と神田女史は必ず交代で昼休憩をとるのだが、楳木チーフと米子さんは状況によって決めているようだ。常に電話だけで受注が終わる訳ではないので、場合に寄って休憩を圧迫されなくて良い。
「ありがとうございます、Albaでございます。はい、御注文ですね」
電話が鳴り、ワンコールが終わる前に美鈴が受話器を取った。
「午後便、もう終わっちゃったよねぇ」
「そうですね、申し訳ございません。御存知のように、当日中の配達を行う為、受け付けを十二時までとさせて頂いています。本当はお届けにあがりたいのですが、申し訳ございません。明日の午前便では間に合いませんでしょうか」
「あ~、うん、無理を言いたい訳じゃないよ。取りに行くから、準備しておいてくれる?」
「ありがとうございます。では在庫を確認しますので、御注文を御伺いしても宜しいでしょうか」
──良かったぁ、素直に聞いてくれる御客様で。ありがたいなぁ~。
内心ホッとしながらも、美鈴は御伺いをたてる。こうして常に、話がスムーズに終われば何の苦労もないのだ。
実際に対面する事は少ないが、電話越しとはいえ、受注担当は直接顧客と接する立場にある。いくら先方が無茶振りして来ようが、面と向かって歯向かう事は当たり前だが出来ないのだ。──常に下手に、である。
「では、お引き取り分として準備し、御待ちしております。担当、柊木が承りました。ありがとうございました」
「柊木さんね。いや、こちらこそありがとう」
そうして無事に注文分の在庫確認も済み、顧客引き取り分として手元の液晶ディスプレイから出荷手配を終えた。
御互いに気分良く通話を終了出来た事で、この受注は大成功である。本当に、いつもこうであるならば誰もが幸せなのだ。
だが、今の幸せをぶち壊す電話が鳴る。──いや、当初からそうだと分かれば、心構えも出来るのだが。
「ありがとうございます、Albaでございます」
「ちょっと、今日の午前便で来るんじゃなかったの!?」
電話に出た早々、これである。
思わず美鈴も、あまりの声音に受話器を耳から遠ざけてしまった程だ。
「申し訳ございませんっ。あの、失礼ですが御名前を御伺い出来ますでしょうか」
「分からないのっ?『キュート』よ!」
「申し訳ございませんっ」
──いやいや、声で分かれって無理無理絶対無理。しかも全然キュートな応対じゃないしっ。
口で謝罪しながらも、美鈴は内心で突っ込みまくりである。けれども、同時に液晶ディスプレイで顧客管理ナンバーを検索していた。
全ての顧客はデータベース化されており、六桁の数字で管理されている。その数字から、昨日の受注記録を呼び出すのだ。
──あ、あった。カーテンの2056。あれ?これ、品切れ……。あぁマズイ。
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