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かいこい編──第一章『馬鹿じゃないの。興味がないだけ』──

その2。美鈴という人物像 2

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 美鈴みすずは受注管理課に配属された、十人の新人の一人だった。
 そして学生時代もだが、彼女は人とれる事を好まない性格である。勿論友達はそれなりにいたし、イベントや昼食時に一人で孤立していたなどという事は過去一度もなかった。
 けれども休日に会う約束を自分からする事もなかったし、業後に連れ立って買い物などへ繰り出す事もない。
 その場の流れで友達のお宅に行く事はあったし、誕生日プレゼント交換だってしていた。だが、それだけである。
 美鈴にとっての友達は、あくまでも対外的に孤立して見えない為の存在で、広く浅くの人付き合いでしかなかった。それが彼女の『普通』であり、必要以上に自分の内側に他者を受け入れる事を良しとしない。一見いっけん『クール』であり、はたまた『変わった子』と称されるのが美鈴だった。
 勿論美鈴はそれを自覚してすらいないし、おかしいと思ってもいない。
 だからこそ、そんな彼女に購買担当──女性だけの職場は合わなかった。
 そもそも入力担当であった社会人一年目の頃から、『棚』の裏に呼び出しを受ける事数回。──恐らく同期の中で、一番美鈴の呼び出し回数が多いと思われる。

 ──本当に、女って集まるとたち悪いよね。部活でもそうだったけどさぁ。

 美鈴の性格は、年上──特に同性の先輩方には不評であったらしい。更に女性だけが複数人集まると、どうしても『女王』が現れるのだ。
 小学生の頃はまだ良かったが、強制的に入部しなくてはならなかった中学の部活動から、美鈴の『女』に対する印象はそんなものだった。
 多対一で取り囲まれる空気は、気の弱い者ならば確実に萎縮してしまうものである。そして周囲が立ってようが腰掛けていようが、何故か直立不動をいられるこちら側だ。
 明らかな『非』が自分にあるのならば、いくら美鈴でも謝罪はする。けれども理不尽としか言い様のない言葉に、下げる頭も取り繕う口も美鈴は持ち合わせていなかった。
 媚びへつらい、敬われなければ満足しない自意識の高い女性。そして他者にそれを強要する。男性とは違い、力で制する事がなかっただけ、美鈴は女性に生まれてきて良かったのかもしれなかった。──男社会でも、そういった分類は一定数存在するのだから。
 そんな学生時代とは違い、社会人では当たり前だが年齢層が広い。つまりは『女王』の地位についた者の時代が長いのだ。
 ここまで伝えればもう想像可能だろうが、購買担当もそうだったのである。

 ──本当、クダラナイよね。十も下の子を『棚』に呼び出して、何だかんだ業務に関係ない文句つけてさ。挙げ句の果てに、『協調性がない』って何?しかもこっちが何の反応もしないと、『何か言う事ないの?泣くとかさぁ!』って。いや、泣いて欲しかったの?泣かないけど。

 美鈴は一年目二年目と、女性ばかりの受注管理課に在籍していた。そして『棚』というのは名の通り、受注伝票を一時的に保管しておく、フロアの隅にある少し薄暗い場所『伝票保管棚』の事である。
 同じフロアでありながら人目に付きにくく、営業部は基本的に電話の音や会話が飛び交ってうるさい。その為、余程大声をあげない限り、そこでの会話があからさまに聞かれる事はないのだ。──絶好の『呼び出しスポット』である。
 そんなこんなで美鈴はキレた。勿論子供ではないので、暴れるとかはしない。
 年一回、個人に配布される『異動申請』を書いただけだ。
 ちょうど運良くというか、営業担当の大掛かりな再編成をおこなうという名目で、受注担当を増やすという話が美鈴の耳に入る。
 同じフロアで、かつ今までの知識も活用出来る、美鈴にとってはこの上ない部署だった。他に希望者がいたかどうかは不明だが、美鈴は無事、三年目に受注担当に配属される事となる。

 ──そう。今、ここね。

 受注担当になった美鈴は、市内とその近郊を含め、十字に分割した右上を受け持つ営業一課に配属された。
 顧客の中には勿論、気性の激しい年配男性も多い。理不尽な暴言や罵声も含まれ、美鈴に関係のない怒りを、当然のように受話器越しに叩き付けられる事もしばしばあった。
 更には営業担当の直接的な内部補佐の為、定時に帰れる事が少ない。だが残業規定が定められているので、女性は月に二十時間。男性は月に四十時間以上残ってはいけない事になっていた。──あくまでも、規定では。
 そして一応だが社内は警備員の巡回がある為、二十二時には絶対に追い出されるのだ。つまり、遅くとも二十二時には帰れる。
 それが美鈴の毎日だった。

 ※ ※ ※ ※ ※

 電話のコール音が鳴り始める。時計を見ると、九時を少し過ぎたところだ。
 そして、自分の部署である営業一課の電話も鳴り出す。

「おはようございます、Albaアルバでございます。ありがとうございます、御注文ですね」

 一番年下である美鈴は、当然のように一番に電話を取らなくてはならなかった。それが調べ物をしている最中だろうが、伝票を書いている最中であろうが、である。
 営業一課の受注担当は男性二名、女性二名の計四名だ。そして営業担当は課長を含め、男性のみが七名いる。その全員の中で美鈴が最年少だった。

 ──もう、突然品番を話し出すの、やめて欲しいよぉ。名乗りとほぼ同時だもん。こっちのペースに合わせて欲しいっての。……これもうただの愚痴だけどさ。
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