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かいこい編──第一章『馬鹿じゃないの。興味がないだけ』──
その1。美鈴という人物像 1
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カチカチと静かに叩かれるキーボードの音。そして四方からは、複数の人の会話も聞こえてくる。もうすぐ営業開始時間になる為、更に電話の音が追加されるのだ。
柊木美鈴はここ、インテリア商社『Alba』に勤め初めて、三年目となるしがない平社員である。──とはいえ、高卒なのでピチピチの二十歳だ。
──いやいや今時『ピチピチ』ってないよね、魚じゃあるまいし。
ともかく、『Alba』はイタリア語で『夜明け』を意味するらしい。
何故『夜明け』なのかは社長の趣味。そしてイタリア語である理由も社長の趣味だ。──ここを突っ込んではいけない。
そして美鈴は入社三年目とはいえ、現在の部署『営業一課』では一年目の、本当にペーペーなのだ。
──仕方ないじゃない。一年目は受注管理課の入力担当だったからまだ楽しかったけど、二年目に何故か同じ受注管理課の購買担当に変わったんだもん。
受注管理課は課長以外女性社員ばかりという、言わば大奥である。
最年長は十一年目の樋川主任。腰まであるストレートの黒髪と、水筒くらい入りそうなクルリと巻いた前髪が特徴だ。
──あれは凄いよね。あの前髪って毎日物凄く時間掛けて、ガッチガチにスプレーで固めてそう。……触った事ないけど。
樋川主任の指示は的確で、同じフロア内の男性営業担当からの信頼を一手に引き受けている、キャリア・ウーマンである。そして普段のサバサバした態度から、女性社員の人気も高いのだ。
そして同じく十一年目の市口チーフと、田上チーフ。
市口チーフはツンツン女王で、基本的に笑わない。けれども監査担当を取りまとめていて、入力担当が行った前日の入力内容を全てチェックしているのだ。
そしてミスを見つけると入力済み伝票を大きく折り込み、最終的に入力担当者──伝票に押印してあるので一目瞭然──を呼び出す。
時間帯や人目など関係なく、システム管理部から降りてきた帳票を元にその場でミスを指摘。本人に入力を訂正させるのだ。
──私ももう、何度呼ばれたか分かんないわぁ。
しかしながらそれは、データ上のミスで済まない。入力担当のデータ入力により出荷指示に直接繋がる現在のシステムは、迅速であるが故、即出荷ミスになるのだ。
従って入力ミスを指摘された入力担当は、すぐさま営業担当に連絡を取ってもらうべくその顧客先の営業課へ走る。受注担当に謝罪と内容を伝え、異なる商品が出荷されてしまった際の対応を委ねるのだ。
──これ、自分で客先に謝らない分、罪悪感が半端ないのよねぇ。しかも、その営業担当が怖い人だったらもう最悪。
しかし運良く、前日の入力ミスが出荷ミスに繋がらない場合もあった。それは即出荷ではなく翌日以降の引き取りの場合や、翌日午前便の場合である。
システム管理部からの帳票は、前日十五時までの入力分だ。そして出荷は市内なら自社便で、午前と午後の二便ある。締め時間は十二時。つまりは自社便の場合は顧客が市内であり、かつ前日の十二時以降の入力で更に十五時までの場合だ。
かなり条件が厳しいのだが、勿論それに該当する場合はある。そして、その後の対応が非常に面倒──物理的に手間が掛かるのだ。
まず、午前便が出発するのが九時。勤務時間は八時からである。
それまでにミスを指摘された場合、即座に出荷品番から倉庫と棚を確認。隣の物流倉庫──徒歩五分──であればそこへ走り、正当商品の棚担当とミス商品の棚担当に謝罪と理由を説明するのだ。そして更に出荷便の運転手まで商品を持って走り、最終的に出荷ミスとなる事を防ぐ。
全て運と時間と自分の体力に左右されるのだ。
ちなみに、営業課も受注管理課も同じフロアにある。まとめて営業部であるからだ。
それが入力担当の仕事だ。ようは、入力ミスをしなければ良い。
──いや、本当に。分かるんだけど、そこは人間じゃん?……ごめんなさい。
そして、田上チーフ。彼女こそ、美鈴の天敵だ。
購買担当を取りまとめる田上チーフは、小柄でフワフワした容姿の既婚女性である。
女性にしては背の高い分類に入る美鈴にとって、本来は愛でたくなる類いの『女の子』だ。
田上チーフは某女性舞台役者団を愛しており、車で片道三時間も掛かる県外の舞台へ頻繁に足を運ぶ程らしい。
──知りたくもないのに、本当に頻繁に。……ってか休憩時間になる度話題に出されて、マジ嫌だったぁ。
購買担当自体は他社商品を扱う部署であり、金額の管理から取り寄せルートまで幅広い知識が必要となるものだ。
美鈴的にはその仕事自体はやりがいを感じており、入力担当よりも楽しいと思ってはいたのである。だが、そこは美鈴だからこそだった。
女性ばかりの受注管理課の、更に三人しかいない購買担当。それぞれの連携というか、仲の良さを求められる事は頭では理解出来る。出来るのだが、実行可能かと言われるとそれはまた違ったのだ。──そう、美鈴には。
柊木美鈴はここ、インテリア商社『Alba』に勤め初めて、三年目となるしがない平社員である。──とはいえ、高卒なのでピチピチの二十歳だ。
──いやいや今時『ピチピチ』ってないよね、魚じゃあるまいし。
ともかく、『Alba』はイタリア語で『夜明け』を意味するらしい。
何故『夜明け』なのかは社長の趣味。そしてイタリア語である理由も社長の趣味だ。──ここを突っ込んではいけない。
そして美鈴は入社三年目とはいえ、現在の部署『営業一課』では一年目の、本当にペーペーなのだ。
──仕方ないじゃない。一年目は受注管理課の入力担当だったからまだ楽しかったけど、二年目に何故か同じ受注管理課の購買担当に変わったんだもん。
受注管理課は課長以外女性社員ばかりという、言わば大奥である。
最年長は十一年目の樋川主任。腰まであるストレートの黒髪と、水筒くらい入りそうなクルリと巻いた前髪が特徴だ。
──あれは凄いよね。あの前髪って毎日物凄く時間掛けて、ガッチガチにスプレーで固めてそう。……触った事ないけど。
樋川主任の指示は的確で、同じフロア内の男性営業担当からの信頼を一手に引き受けている、キャリア・ウーマンである。そして普段のサバサバした態度から、女性社員の人気も高いのだ。
そして同じく十一年目の市口チーフと、田上チーフ。
市口チーフはツンツン女王で、基本的に笑わない。けれども監査担当を取りまとめていて、入力担当が行った前日の入力内容を全てチェックしているのだ。
そしてミスを見つけると入力済み伝票を大きく折り込み、最終的に入力担当者──伝票に押印してあるので一目瞭然──を呼び出す。
時間帯や人目など関係なく、システム管理部から降りてきた帳票を元にその場でミスを指摘。本人に入力を訂正させるのだ。
──私ももう、何度呼ばれたか分かんないわぁ。
しかしながらそれは、データ上のミスで済まない。入力担当のデータ入力により出荷指示に直接繋がる現在のシステムは、迅速であるが故、即出荷ミスになるのだ。
従って入力ミスを指摘された入力担当は、すぐさま営業担当に連絡を取ってもらうべくその顧客先の営業課へ走る。受注担当に謝罪と内容を伝え、異なる商品が出荷されてしまった際の対応を委ねるのだ。
──これ、自分で客先に謝らない分、罪悪感が半端ないのよねぇ。しかも、その営業担当が怖い人だったらもう最悪。
しかし運良く、前日の入力ミスが出荷ミスに繋がらない場合もあった。それは即出荷ではなく翌日以降の引き取りの場合や、翌日午前便の場合である。
システム管理部からの帳票は、前日十五時までの入力分だ。そして出荷は市内なら自社便で、午前と午後の二便ある。締め時間は十二時。つまりは自社便の場合は顧客が市内であり、かつ前日の十二時以降の入力で更に十五時までの場合だ。
かなり条件が厳しいのだが、勿論それに該当する場合はある。そして、その後の対応が非常に面倒──物理的に手間が掛かるのだ。
まず、午前便が出発するのが九時。勤務時間は八時からである。
それまでにミスを指摘された場合、即座に出荷品番から倉庫と棚を確認。隣の物流倉庫──徒歩五分──であればそこへ走り、正当商品の棚担当とミス商品の棚担当に謝罪と理由を説明するのだ。そして更に出荷便の運転手まで商品を持って走り、最終的に出荷ミスとなる事を防ぐ。
全て運と時間と自分の体力に左右されるのだ。
ちなみに、営業課も受注管理課も同じフロアにある。まとめて営業部であるからだ。
それが入力担当の仕事だ。ようは、入力ミスをしなければ良い。
──いや、本当に。分かるんだけど、そこは人間じゃん?……ごめんなさい。
そして、田上チーフ。彼女こそ、美鈴の天敵だ。
購買担当を取りまとめる田上チーフは、小柄でフワフワした容姿の既婚女性である。
女性にしては背の高い分類に入る美鈴にとって、本来は愛でたくなる類いの『女の子』だ。
田上チーフは某女性舞台役者団を愛しており、車で片道三時間も掛かる県外の舞台へ頻繁に足を運ぶ程らしい。
──知りたくもないのに、本当に頻繁に。……ってか休憩時間になる度話題に出されて、マジ嫌だったぁ。
購買担当自体は他社商品を扱う部署であり、金額の管理から取り寄せルートまで幅広い知識が必要となるものだ。
美鈴的にはその仕事自体はやりがいを感じており、入力担当よりも楽しいと思ってはいたのである。だが、そこは美鈴だからこそだった。
女性ばかりの受注管理課の、更に三人しかいない購買担当。それぞれの連携というか、仲の良さを求められる事は頭では理解出来る。出来るのだが、実行可能かと言われるとそれはまた違ったのだ。──そう、美鈴には。
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