39 / 45
第四章 冬
4の2 終わるとは始まるという事
しおりを挟む
R15(念の為)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
事件の後、半月程仕事を休んだ私は。裁判の後からまた連日休んでいる。
何だか疲れてしまって、自分が良く分からない。心が疲弊している──のかな。
初めの頃は色々と周囲が煩かったけど、最近ではそれも落ち着いてきてはいた。
でもでも、博嗣さんには会えてない。電話やメッセージでのやり取りはしているけど、それだけ。──博嗣さんも忙しいのかな。ずぅぅぅん。
何もやる気が起きなくて、ベッドでごろごろごろごろ。それでも寝る事が出来なくて、頭が勝手に考え始める。うつうつと、答えの出ない思考。
裁判の後から。生物学的な父親と、母親。その血族。それら関係の私の知らない人たちが、私の事を色々と口にしていた。
そんな事言われても。『私』という存在が発生した事に、私は関与出来ない状態だと思う。
つまりは何?生きて存在している事が迷惑って事?いなくなってほしいって事?
裁判をした事に、後悔はない。私の種だったという事実があっても、犯罪行為を黙認する事は出来ないから。
あれはもう二度と、社会に出てきてはいけないんだ。
仮釈放なんていう制度、なくて良い。本当は被害者の事なんて、いっさい考えていないんじゃないかな。あれは被疑者の為のものだよね。
本当は罪を犯していない──冤罪だったらダメだけど、それを言い始めたらそもそもの根本的な次元が違う。
あぁ、やむを得ない事情の犯罪者もいるだろう。この人がいる限り、自分や家族。大切な人が幸福になれない、とか。──そういう対象者の為の仮釈放か。それでも結局は被疑者の為だね。
実際にあるだろうね。この国は『私刑』とか『私的制裁』とか、禁止されてるから。
やり返し、復讐、仇討ちはダメ。
法治国家だからって理由で、法で裁く事が全て。でも内情では、権力者の揉み消しとか普通にあるって聞く。
それに今の世の中では、インターネットで個別攻撃とかあるよね。プライベートを曝したり、集団で攻撃的な書き込みをしたりだとか。
子供の虐めも、今はそういう陰湿なものになってきているとか聞いたな。
結局のところ、欲を理性で抑えられない『人間』が全部ダメって事か。──あぁ、鬱だなぁ。
こんな私が、博嗣さんの傍にいたらダメだと思うんだよね。
でも別れたいとか言うと、物凄い理詰めの説得と泣き落としがくる。もう何か──全てが辛い。
でも博嗣さんは好き。会いたい、な。
※ ※ ※ ※ ※
「杏梨さんのせいではないよ」
「杏梨さんは悪くない」
「杏梨さんじゃないと俺はダメなんだ」
「杏梨さんが好き。愛してる、杏梨さん」
杏梨さんが精神科医のカウンセリングを受け続けて、そろそろ一年になる。ここのところはだいぶ状態が良くなってきていて、熱帯魚を見ながら笑顔を浮かべるようになってきた。
店がある街では、何処に行ってもクリスマスミュージックが聞こえる。──そういえば、昨年は杏梨さんとクリスマスデートが出来なかったな。それどころじゃなかったから。
杏梨さんとは毎日何回も、メッセージや通話をしていた。時折、夜にビデオ通話もして──会えない寂しさを埋めていたんだ。
けど。日に日に元気がなくなる杏梨さん。俺が心配を見せると空元気で応えてくれたけど、無理をしているのは明らかだった。そして──ある日連絡が取れなくなった。
俺が会いに行けば、報道関係者にエサを与える事になると分かってたけど。杏梨さんを放っておける筈がないだろう。
報道関係者を押し退け、預かっていた鍵で彼女の家に入った時。俺は心臓が止まったかと思った。
寝室で横たわった杏梨さん。濃くなった隈と涙の跡の残る顔。辺りに散らばる睡眠薬。オーバードーズだと、すぐに分かってしまう。──最悪の事が脳裏に浮かび、即座に彼女の胸に耳を落とした。
弱々しい心音。今にも掻き消えてしまいそうな──でもまだ、生きていてくれた。
俺は即座に救急車を呼んだ。父にも電話をする。そして周囲のハエを追い払い、当然のように病院へ同行した。
処置中の赤いライトが、俺の寿命を削っていくようだった。
無事に処置を終えた杏梨さん。病室内に一定のリズムを刻む心電計の音。
医師いわく。早期発見だったらしく、処置が早く行えたようだ。──最悪の場合、自発呼吸すら出来なくなる。つまりは、死に至る──と。
聞いた時。がくりと、足の力が抜けてしまった。すぐに父に支えられたけど、俺の方が正気を失いそうだった。
「博嗣、しっかりしろ。彼女を支えると決めたのだろう?今、腑抜けてどうする。まだこれからが大変なんだぞっ」
父に渇を入れられ、俺は自身の甘さを痛感した。──本当に、初めの半月程は大変だったからなぁ。
寝られないといっては、睡眠薬に頼ろうとする杏梨さんを抱き締めて。一人にしておくと食事も食べないから、俺も一緒にずっと傍にいた。
店は他の従業員に任せちゃったけど。あれはあれで、杏梨さんを独占出来て凄く幸せだったな。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
事件の後、半月程仕事を休んだ私は。裁判の後からまた連日休んでいる。
何だか疲れてしまって、自分が良く分からない。心が疲弊している──のかな。
初めの頃は色々と周囲が煩かったけど、最近ではそれも落ち着いてきてはいた。
でもでも、博嗣さんには会えてない。電話やメッセージでのやり取りはしているけど、それだけ。──博嗣さんも忙しいのかな。ずぅぅぅん。
何もやる気が起きなくて、ベッドでごろごろごろごろ。それでも寝る事が出来なくて、頭が勝手に考え始める。うつうつと、答えの出ない思考。
裁判の後から。生物学的な父親と、母親。その血族。それら関係の私の知らない人たちが、私の事を色々と口にしていた。
そんな事言われても。『私』という存在が発生した事に、私は関与出来ない状態だと思う。
つまりは何?生きて存在している事が迷惑って事?いなくなってほしいって事?
裁判をした事に、後悔はない。私の種だったという事実があっても、犯罪行為を黙認する事は出来ないから。
あれはもう二度と、社会に出てきてはいけないんだ。
仮釈放なんていう制度、なくて良い。本当は被害者の事なんて、いっさい考えていないんじゃないかな。あれは被疑者の為のものだよね。
本当は罪を犯していない──冤罪だったらダメだけど、それを言い始めたらそもそもの根本的な次元が違う。
あぁ、やむを得ない事情の犯罪者もいるだろう。この人がいる限り、自分や家族。大切な人が幸福になれない、とか。──そういう対象者の為の仮釈放か。それでも結局は被疑者の為だね。
実際にあるだろうね。この国は『私刑』とか『私的制裁』とか、禁止されてるから。
やり返し、復讐、仇討ちはダメ。
法治国家だからって理由で、法で裁く事が全て。でも内情では、権力者の揉み消しとか普通にあるって聞く。
それに今の世の中では、インターネットで個別攻撃とかあるよね。プライベートを曝したり、集団で攻撃的な書き込みをしたりだとか。
子供の虐めも、今はそういう陰湿なものになってきているとか聞いたな。
結局のところ、欲を理性で抑えられない『人間』が全部ダメって事か。──あぁ、鬱だなぁ。
こんな私が、博嗣さんの傍にいたらダメだと思うんだよね。
でも別れたいとか言うと、物凄い理詰めの説得と泣き落としがくる。もう何か──全てが辛い。
でも博嗣さんは好き。会いたい、な。
※ ※ ※ ※ ※
「杏梨さんのせいではないよ」
「杏梨さんは悪くない」
「杏梨さんじゃないと俺はダメなんだ」
「杏梨さんが好き。愛してる、杏梨さん」
杏梨さんが精神科医のカウンセリングを受け続けて、そろそろ一年になる。ここのところはだいぶ状態が良くなってきていて、熱帯魚を見ながら笑顔を浮かべるようになってきた。
店がある街では、何処に行ってもクリスマスミュージックが聞こえる。──そういえば、昨年は杏梨さんとクリスマスデートが出来なかったな。それどころじゃなかったから。
杏梨さんとは毎日何回も、メッセージや通話をしていた。時折、夜にビデオ通話もして──会えない寂しさを埋めていたんだ。
けど。日に日に元気がなくなる杏梨さん。俺が心配を見せると空元気で応えてくれたけど、無理をしているのは明らかだった。そして──ある日連絡が取れなくなった。
俺が会いに行けば、報道関係者にエサを与える事になると分かってたけど。杏梨さんを放っておける筈がないだろう。
報道関係者を押し退け、預かっていた鍵で彼女の家に入った時。俺は心臓が止まったかと思った。
寝室で横たわった杏梨さん。濃くなった隈と涙の跡の残る顔。辺りに散らばる睡眠薬。オーバードーズだと、すぐに分かってしまう。──最悪の事が脳裏に浮かび、即座に彼女の胸に耳を落とした。
弱々しい心音。今にも掻き消えてしまいそうな──でもまだ、生きていてくれた。
俺は即座に救急車を呼んだ。父にも電話をする。そして周囲のハエを追い払い、当然のように病院へ同行した。
処置中の赤いライトが、俺の寿命を削っていくようだった。
無事に処置を終えた杏梨さん。病室内に一定のリズムを刻む心電計の音。
医師いわく。早期発見だったらしく、処置が早く行えたようだ。──最悪の場合、自発呼吸すら出来なくなる。つまりは、死に至る──と。
聞いた時。がくりと、足の力が抜けてしまった。すぐに父に支えられたけど、俺の方が正気を失いそうだった。
「博嗣、しっかりしろ。彼女を支えると決めたのだろう?今、腑抜けてどうする。まだこれからが大変なんだぞっ」
父に渇を入れられ、俺は自身の甘さを痛感した。──本当に、初めの半月程は大変だったからなぁ。
寝られないといっては、睡眠薬に頼ろうとする杏梨さんを抱き締めて。一人にしておくと食事も食べないから、俺も一緒にずっと傍にいた。
店は他の従業員に任せちゃったけど。あれはあれで、杏梨さんを独占出来て凄く幸せだったな。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる