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第二章 夏
2の3 涙の理由
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「杏梨さん、大丈夫ですか?」
「ふあ……っ?す、すみません。大丈夫です、大丈夫です。ちょっと思い出してしまっただけなんで……ひぅっ」
博嗣さんに声を掛けられ、初めて自分が泣いている事に気付いた。お肉食べながら泣いてるなんて、恥ずかしぃ。
御飯はとても美味しいんだよ。お肉も綺麗なピンク色の絶妙な焼き加減なんだからねっ。軟らかくて甘くて──。
幸せな現実とは逆に、心の中の黒い影がもやもや。混乱しつつも涙を拭く為に目元を擦ろうとしたら、ずびっと伸びてきた手に止められた。超絶びっくりして、目玉落ちるくらい見開いたんだけど。対面にいる博嗣さんは、物凄い苦しそうな顔をしてる。
あ。私が急に泣いたりするから、気分を悪くさせた──とか思っちゃった。でも違った。静かに私の手にハンカチを握らせてくれたんだよ。イッケメンゥ。
「目を擦ったりしてはいけません。そのハンカチで拭いてください。あぁ、未使用なので汚くはありません」
「あ……ありがとう、ございます」
色々とパニックになってた私だけど。とりあえず、渡されたハンカチで顔を拭いた。
拭きながら、何してるんだと自分で自分につっこんじゃったよ。思い出し泣きして──。せっかく誕生日を祝ってくれてる博嗣さんに対して、今更ながらに申し訳なく思う。
少し気分が落ち着いてくると、現在自分が置かれている状況を不思議に思えてくる。
何故こうまで博嗣さんは良くしてくれるのだろうか、とか。──まぁ、初めからぐいぐい博嗣さんだったけど。
そう思ったら、そのまま口に出してた。
「博嗣さんは、何故こうまで良くしてくれるのですか?」
「え?杏梨さんだから、ですよ」
質問に平然と答えつつも、きょとんとした顔を見せてくれる。
博嗣さんのこの表情、可愛くて私は好きだな。大人の男の人なのにね。可愛いとか、失礼かもだけど──そう思う自分も不思議だな。
だがしかし、です。私だから何だというのか。それは理由にならないと思うんだけど。
「私、結構な変わり者みたいですよ?」
「……誰に言われたんですか」
そんな私の言葉に、何故だか少しぴりっとする博嗣さん。声のトーンが僅かに低くなって、顔から表情が消えている。
これはもしかして、怒っているとかかな。でも何故だろう。博嗣さんには何も不都合がないと思うのに。
「ん~、もう覚えてないです。でも、一人や二人じゃなかった気がしますけど。別にそれは私に関係のない評価だったので、誰だったかはどうでも良かったですね」
「そう、ですか……。先程の涙の理由という訳ではなさそうですね」
「あ、さっきはすみません。えと……私、誕生日の日に母を亡くしたんです」
「っ……、申し訳ありませんでした」
「え?いいえ、博嗣さんは何も悪くないですから。ただ……不意に、思い出しちゃうんですよね。あ、悲しいとか寂しいとかではなくて。理不尽さとか不条理さとかで、卑屈になっちゃうだけですけ、ど……ひ、博嗣さん?」
自虐的になりながら、先程までの自分を博嗣さんに説明していたんだけど。何故かぎゅうぎゅうに抱き締められている。私は椅子に座ったままだから、博嗣さんが隣にきた感じかな。素早さが認識出来なかったよ。瞬間移動した?
ここは個室で、私以外には博嗣さんしかいない訳で。相手が博嗣さんなのは分かる。分かるけど──分からない。
何故?理由は何だろう。っていうか、腹筋固いな。顔があたる部分が胴体の真ん中。──だけど、腹部にも触っちゃう。割れてる?しっくすぱっくってやつ?
「杏梨さん」
「はい?」
「杏梨さん」
「……はい」
「杏梨さん」
「はい……。博嗣さん、腹筋割れてます?」
「……はい?」
壊れてしまったように、博嗣さんが私の名前を繰り返し呼ぶから。とりあえず思考を換えようと、関係ない事を問い掛けてみた。私も現実逃避したかったからだけど。
だって──。ぎゅうぎゅうくっついてるのって、あったかい。でも心臓が何だか、きゅうってする。本当は私が分かってないだけで、身体は苦しいのかな。病気?まだ若いと思ってたんだけど。
呼吸が止まる程にぎゅってされてる訳じゃないんだけど、おかしいな。原因不明。
それで、私の頭の中もぐちゃぐちゃになって。さっきまで思ってた事を口にしちゃった。
いやいやいやいや。本人に聞くってどうよ。しかも質問内容が微妙にセクハラ。
「あ……すみません忘れてくださいごめんなさい」
「………………ふふ、気になります?」
驚いたのか、博嗣さんの腕の力が弱まり。それで我に返ったわたしは、口走った単語を慌ててなかった事にしたくなった。
でも博嗣さんは少しだけ間があったけど。溢れるように圧し殺したような笑いが聞こえ、逆に博嗣さんから問われてしまう。
いや待って、本当。何だかイケナイ質問をしてしまった私。これって、胸の谷間ありますかって聞くのと変わらないくらい変態的質問じゃないかな。
冗談半分に返してくれた、博嗣さんのユーモアセンスに脱帽しちゃう。ごめんなさい、頭おかしくなってます私。
「だだだ大丈夫ですごめんなさいっ」
「杏梨さんならば問題ないです。不快に感じないですし、逆にもっと触れたい……。あ……すみません、私がセクハラ発言してしまいました」
「ふ……っ」
柔らかく微笑みながら、博嗣さんが私の頬を指先の背で撫でた。──その表情ってば。
いつものにっこにことは違う。何だろう。溶けそうなチョコみたいな。色っぽい?
何だか分からないけど、私の顔が一気に熱くなった。これ絶対真っ赤になってるやつ。
「ふあ……っ?す、すみません。大丈夫です、大丈夫です。ちょっと思い出してしまっただけなんで……ひぅっ」
博嗣さんに声を掛けられ、初めて自分が泣いている事に気付いた。お肉食べながら泣いてるなんて、恥ずかしぃ。
御飯はとても美味しいんだよ。お肉も綺麗なピンク色の絶妙な焼き加減なんだからねっ。軟らかくて甘くて──。
幸せな現実とは逆に、心の中の黒い影がもやもや。混乱しつつも涙を拭く為に目元を擦ろうとしたら、ずびっと伸びてきた手に止められた。超絶びっくりして、目玉落ちるくらい見開いたんだけど。対面にいる博嗣さんは、物凄い苦しそうな顔をしてる。
あ。私が急に泣いたりするから、気分を悪くさせた──とか思っちゃった。でも違った。静かに私の手にハンカチを握らせてくれたんだよ。イッケメンゥ。
「目を擦ったりしてはいけません。そのハンカチで拭いてください。あぁ、未使用なので汚くはありません」
「あ……ありがとう、ございます」
色々とパニックになってた私だけど。とりあえず、渡されたハンカチで顔を拭いた。
拭きながら、何してるんだと自分で自分につっこんじゃったよ。思い出し泣きして──。せっかく誕生日を祝ってくれてる博嗣さんに対して、今更ながらに申し訳なく思う。
少し気分が落ち着いてくると、現在自分が置かれている状況を不思議に思えてくる。
何故こうまで博嗣さんは良くしてくれるのだろうか、とか。──まぁ、初めからぐいぐい博嗣さんだったけど。
そう思ったら、そのまま口に出してた。
「博嗣さんは、何故こうまで良くしてくれるのですか?」
「え?杏梨さんだから、ですよ」
質問に平然と答えつつも、きょとんとした顔を見せてくれる。
博嗣さんのこの表情、可愛くて私は好きだな。大人の男の人なのにね。可愛いとか、失礼かもだけど──そう思う自分も不思議だな。
だがしかし、です。私だから何だというのか。それは理由にならないと思うんだけど。
「私、結構な変わり者みたいですよ?」
「……誰に言われたんですか」
そんな私の言葉に、何故だか少しぴりっとする博嗣さん。声のトーンが僅かに低くなって、顔から表情が消えている。
これはもしかして、怒っているとかかな。でも何故だろう。博嗣さんには何も不都合がないと思うのに。
「ん~、もう覚えてないです。でも、一人や二人じゃなかった気がしますけど。別にそれは私に関係のない評価だったので、誰だったかはどうでも良かったですね」
「そう、ですか……。先程の涙の理由という訳ではなさそうですね」
「あ、さっきはすみません。えと……私、誕生日の日に母を亡くしたんです」
「っ……、申し訳ありませんでした」
「え?いいえ、博嗣さんは何も悪くないですから。ただ……不意に、思い出しちゃうんですよね。あ、悲しいとか寂しいとかではなくて。理不尽さとか不条理さとかで、卑屈になっちゃうだけですけ、ど……ひ、博嗣さん?」
自虐的になりながら、先程までの自分を博嗣さんに説明していたんだけど。何故かぎゅうぎゅうに抱き締められている。私は椅子に座ったままだから、博嗣さんが隣にきた感じかな。素早さが認識出来なかったよ。瞬間移動した?
ここは個室で、私以外には博嗣さんしかいない訳で。相手が博嗣さんなのは分かる。分かるけど──分からない。
何故?理由は何だろう。っていうか、腹筋固いな。顔があたる部分が胴体の真ん中。──だけど、腹部にも触っちゃう。割れてる?しっくすぱっくってやつ?
「杏梨さん」
「はい?」
「杏梨さん」
「……はい」
「杏梨さん」
「はい……。博嗣さん、腹筋割れてます?」
「……はい?」
壊れてしまったように、博嗣さんが私の名前を繰り返し呼ぶから。とりあえず思考を換えようと、関係ない事を問い掛けてみた。私も現実逃避したかったからだけど。
だって──。ぎゅうぎゅうくっついてるのって、あったかい。でも心臓が何だか、きゅうってする。本当は私が分かってないだけで、身体は苦しいのかな。病気?まだ若いと思ってたんだけど。
呼吸が止まる程にぎゅってされてる訳じゃないんだけど、おかしいな。原因不明。
それで、私の頭の中もぐちゃぐちゃになって。さっきまで思ってた事を口にしちゃった。
いやいやいやいや。本人に聞くってどうよ。しかも質問内容が微妙にセクハラ。
「あ……すみません忘れてくださいごめんなさい」
「………………ふふ、気になります?」
驚いたのか、博嗣さんの腕の力が弱まり。それで我に返ったわたしは、口走った単語を慌ててなかった事にしたくなった。
でも博嗣さんは少しだけ間があったけど。溢れるように圧し殺したような笑いが聞こえ、逆に博嗣さんから問われてしまう。
いや待って、本当。何だかイケナイ質問をしてしまった私。これって、胸の谷間ありますかって聞くのと変わらないくらい変態的質問じゃないかな。
冗談半分に返してくれた、博嗣さんのユーモアセンスに脱帽しちゃう。ごめんなさい、頭おかしくなってます私。
「だだだ大丈夫ですごめんなさいっ」
「杏梨さんならば問題ないです。不快に感じないですし、逆にもっと触れたい……。あ……すみません、私がセクハラ発言してしまいました」
「ふ……っ」
柔らかく微笑みながら、博嗣さんが私の頬を指先の背で撫でた。──その表情ってば。
いつものにっこにことは違う。何だろう。溶けそうなチョコみたいな。色っぽい?
何だか分からないけど、私の顔が一気に熱くなった。これ絶対真っ赤になってるやつ。
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