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第一章 春
1の8 趣味と朝食への問い掛け
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「本日は、熱帯魚を見に来られたんですね」
「ふぁっ……?そ、そうです。ポスターの青い魚が素敵で」
現状に当惑して小首を傾げ始めた私に気付いたのか、綾崎さんから話題を提供してくれた。
そうだった、魚を見に来たんだよ。思い出したタイミングで、私は視線を水槽へ向ける。あぁ──、癒されるぅ。
明日は日曜日だ。最近の週末は毎回のように休日出勤してたから、久し振りの連休。三か月ぶり?五か月ぶりかもだねぇ。
明日もお天気良かったら良いなぁ。買い物に行こうかなぁ。食事は冷凍保存出来る惣菜セットを購入してるから、自炊したりしないんだけど。そもそもそんな気力ないし、能力ないし。帰宅後の時間もないから、余計な事をするなら睡眠に当てたいんだよねぇ。
「よろしければ、明日もいらしてください」
「ほえっ……?」
「ご迷惑でなければ、ですが。あぁ、ですが。せっかくの休日ですから、どなたかとお出掛けになったりするのでしょうか。お付き合いなさっている方とか」
「いえいえいえいえ、誰とも付き合った事ないですっ。無理ですぅっ」
自分の世界に浸ってつらつらと考えていたら、綾崎さんからの言葉に驚いた。
日曜日も魚を見に来るのは別に良いけど、連日はおかしくないかなって思うよねぇ。暇なんだなとか、ボッチなのかとか。──まぁ交際相手もいないし、遊ぶような友達もいないからあってる。正解。あってるけどさぁ──。
自分で思って、ずぅんとする。
「無理、とは……。性的マイノリティの問題ですか?いえ、初対面でこのような質問は踏み込み過ぎですよね」
「ひゃあっ……ち、違いますっ。っていうか、恋愛対象は男性だと思ってますけど。そうではなくて。えっと、私なんかが誰かとお付き合いするなんて」
「何故ですか?大宮さんはとても素敵な女性に思えますが」
「うぅぅっ、そんなお世辞はいらないですぅ……」
突然何の話なのか。
会話の方向性がおかしくないかな。男性と女性が話していたら、こうなるのが普通なのかな。私には分からない世界過ぎて、困ってしまうのが本音だよ。
そもそもだ。綾崎さんはシャコージレーなんだろうけど、それすら私的に高度な話術なのだよね。
もう何だったら──、ここから離脱したい。即刻。
「お世辞ではないのですが」
「大丈夫ですよ、綾崎さん。……あっそうだ、本当に絵がお上手ですよねぇ。私は趣味も読書くらいしかないですから、特技とか良いですよねっ」
必死に話を別方向へ持っていく私。話題をすり替えた感満載だけどねっ。
対人関係レベルが高いだろう綾崎さんと張り合える訳がないのだから、言葉の裏とか表とか判断が出来ない。お世辞とか言えないから、思ったままを真っ直ぐ告げるだけだ。
「特技、ですか。それでしたら、大宮さんも絵を描いてみませんか?」
「ふぇえっ?わ、私がですかっ」
「はい。別に趣味として描くのならば、画力を求められるものではありませんからね」
「それは……、そうでしょうけど」
「ほら、ここは魚を見ながらテーブルに着けます」
絵を描くとか。
簡単に綾崎さんが提案してくれるけど。──ここはお店では?私、普通にお客さんなだけだよ?
「いやいやいやいや、迷惑じゃないですか。エイギョーボーガイですよ、普通にそれ」
「そうですか?私もここで絵を描きますよ?」
私の全力否定な態度に、不思議そうに返してくる綾崎さん。何故にそんなお顔をされるのだろうか。
ここは綾崎さんのお店で、綾崎さんが絵を描く事を趣味としているから良いのではないだろうかな。ん?その綾崎さんが良いと言うなら、私も良いのでは──。いや、そうではないよね?え?
「道具もあります。あ、もしかしてお嫌でしたか」
「ふわっ……そ、そうではありませんけど……」
「この店に来るのも?」
「え、あ……はい」
「私に会うのも?」
「へ?は、はい」
「それなら良かったです」
「は、はい」
「明日も来てくれますよね」
「はい……?」
乗り気でない私の雰囲気に、綾崎さんは急に眉を下げてシュショーな態度をする。それは何だか、私がイジメテルみたいで。
違うの。そうじゃないの。お店のお邪魔にならないかなって思ってるだけで。
そんなこんなで、あわあわしている間に何だかユードージンモン的な流れに流されに流され。
気付いたら、明日も来る事になってた。──あれ?
「明日も十時からオープンしていますから」
「え……あ、はい」
「それで、大宮さんは朝食を召し上がられるタイプですか?」
「ふぁっ?朝ごはんっ?」
営業時間も言われちゃった。何だか、さっきからずっとにっこにこの綾崎さんだよね。
それでこれ、十時に来てねって話なの?また明日も私、開店と同時に突入な感じ?──って思ってたら、今度は朝ごはんに話が変わった。
話がくるくるして、私の頭もくるくるする。
他人と話す時って、こんなだっけ。話題についていくの大変だよぉ。
「え、えっと……朝ごはん?……あ、はい。プロテイン飲んでます。作ったり用意したりする時間がないので、しゃぱしゃぱしてぐいっと飲むだけの朝ごはんですね」
「しゃぱしゃぱ……。粉末タイプの液体プロテインですか」
「あ、それです。三種類の味を日替わりしてるので、結構飽きないもんですねぇ」
綾崎さんの質問に答える事が出来たので、私はほっとしてにかっと笑った。
プロテイン、一つの味じゃ嫌になっちゃう。お手軽ですっごい助かるけど、嫌々じゃ時間もお金も勿体ないもんね。
「ふぁっ……?そ、そうです。ポスターの青い魚が素敵で」
現状に当惑して小首を傾げ始めた私に気付いたのか、綾崎さんから話題を提供してくれた。
そうだった、魚を見に来たんだよ。思い出したタイミングで、私は視線を水槽へ向ける。あぁ──、癒されるぅ。
明日は日曜日だ。最近の週末は毎回のように休日出勤してたから、久し振りの連休。三か月ぶり?五か月ぶりかもだねぇ。
明日もお天気良かったら良いなぁ。買い物に行こうかなぁ。食事は冷凍保存出来る惣菜セットを購入してるから、自炊したりしないんだけど。そもそもそんな気力ないし、能力ないし。帰宅後の時間もないから、余計な事をするなら睡眠に当てたいんだよねぇ。
「よろしければ、明日もいらしてください」
「ほえっ……?」
「ご迷惑でなければ、ですが。あぁ、ですが。せっかくの休日ですから、どなたかとお出掛けになったりするのでしょうか。お付き合いなさっている方とか」
「いえいえいえいえ、誰とも付き合った事ないですっ。無理ですぅっ」
自分の世界に浸ってつらつらと考えていたら、綾崎さんからの言葉に驚いた。
日曜日も魚を見に来るのは別に良いけど、連日はおかしくないかなって思うよねぇ。暇なんだなとか、ボッチなのかとか。──まぁ交際相手もいないし、遊ぶような友達もいないからあってる。正解。あってるけどさぁ──。
自分で思って、ずぅんとする。
「無理、とは……。性的マイノリティの問題ですか?いえ、初対面でこのような質問は踏み込み過ぎですよね」
「ひゃあっ……ち、違いますっ。っていうか、恋愛対象は男性だと思ってますけど。そうではなくて。えっと、私なんかが誰かとお付き合いするなんて」
「何故ですか?大宮さんはとても素敵な女性に思えますが」
「うぅぅっ、そんなお世辞はいらないですぅ……」
突然何の話なのか。
会話の方向性がおかしくないかな。男性と女性が話していたら、こうなるのが普通なのかな。私には分からない世界過ぎて、困ってしまうのが本音だよ。
そもそもだ。綾崎さんはシャコージレーなんだろうけど、それすら私的に高度な話術なのだよね。
もう何だったら──、ここから離脱したい。即刻。
「お世辞ではないのですが」
「大丈夫ですよ、綾崎さん。……あっそうだ、本当に絵がお上手ですよねぇ。私は趣味も読書くらいしかないですから、特技とか良いですよねっ」
必死に話を別方向へ持っていく私。話題をすり替えた感満載だけどねっ。
対人関係レベルが高いだろう綾崎さんと張り合える訳がないのだから、言葉の裏とか表とか判断が出来ない。お世辞とか言えないから、思ったままを真っ直ぐ告げるだけだ。
「特技、ですか。それでしたら、大宮さんも絵を描いてみませんか?」
「ふぇえっ?わ、私がですかっ」
「はい。別に趣味として描くのならば、画力を求められるものではありませんからね」
「それは……、そうでしょうけど」
「ほら、ここは魚を見ながらテーブルに着けます」
絵を描くとか。
簡単に綾崎さんが提案してくれるけど。──ここはお店では?私、普通にお客さんなだけだよ?
「いやいやいやいや、迷惑じゃないですか。エイギョーボーガイですよ、普通にそれ」
「そうですか?私もここで絵を描きますよ?」
私の全力否定な態度に、不思議そうに返してくる綾崎さん。何故にそんなお顔をされるのだろうか。
ここは綾崎さんのお店で、綾崎さんが絵を描く事を趣味としているから良いのではないだろうかな。ん?その綾崎さんが良いと言うなら、私も良いのでは──。いや、そうではないよね?え?
「道具もあります。あ、もしかしてお嫌でしたか」
「ふわっ……そ、そうではありませんけど……」
「この店に来るのも?」
「え、あ……はい」
「私に会うのも?」
「へ?は、はい」
「それなら良かったです」
「は、はい」
「明日も来てくれますよね」
「はい……?」
乗り気でない私の雰囲気に、綾崎さんは急に眉を下げてシュショーな態度をする。それは何だか、私がイジメテルみたいで。
違うの。そうじゃないの。お店のお邪魔にならないかなって思ってるだけで。
そんなこんなで、あわあわしている間に何だかユードージンモン的な流れに流されに流され。
気付いたら、明日も来る事になってた。──あれ?
「明日も十時からオープンしていますから」
「え……あ、はい」
「それで、大宮さんは朝食を召し上がられるタイプですか?」
「ふぁっ?朝ごはんっ?」
営業時間も言われちゃった。何だか、さっきからずっとにっこにこの綾崎さんだよね。
それでこれ、十時に来てねって話なの?また明日も私、開店と同時に突入な感じ?──って思ってたら、今度は朝ごはんに話が変わった。
話がくるくるして、私の頭もくるくるする。
他人と話す時って、こんなだっけ。話題についていくの大変だよぉ。
「え、えっと……朝ごはん?……あ、はい。プロテイン飲んでます。作ったり用意したりする時間がないので、しゃぱしゃぱしてぐいっと飲むだけの朝ごはんですね」
「しゃぱしゃぱ……。粉末タイプの液体プロテインですか」
「あ、それです。三種類の味を日替わりしてるので、結構飽きないもんですねぇ」
綾崎さんの質問に答える事が出来たので、私はほっとしてにかっと笑った。
プロテイン、一つの味じゃ嫌になっちゃう。お手軽ですっごい助かるけど、嫌々じゃ時間もお金も勿体ないもんね。
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