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第一章 春
1の7 対人関係の難しさ
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どう反応して良いのか困る。
初めからだけど、この人──。綾崎さんは、パーソナルスペースが近いと思うんだ。距離感バグバグなんだよ。
それに、他者に不用意に接触するのはどうかと思う。同性異性関係無く、トラブルの元だと言いたい。
もしかして知らない?まさかねぇ。だって私より年上でしょう?お店持ってるくらいだもんね。──それか。社会経験が豊富過ぎて、逆に相手を手の上でくるんくるん回しちゃう的な感じだったりして。
あり得るぅ。その余裕な表情、にっこにこで隠してるだけだったりするもんね。──知らないけど。笑顔の人だからって、良い人とは限らないのが世の中のジツジョー。
「と、とりあえず……手を、放して、くださ、い」
「あぁ、すみません。珍しく気持ちが昂ってしまいました」
私は考えすぎて頭がボンッてしそうで、とにかく綾崎さんと距離を取りたかった。それでも手を振り払うとかは対人関係的にダメなのが分かるから、言葉で綾崎さんにお願いする。
綾崎さんは私が告げると、今思い出したとばかりに手を退けてくれた。──はぁ、ちょっと一呼吸。
「えっと、ですね。新しいポスター、の話でしたよね」
「ふふ、そうですね」
「えぇっと……はい、新しいポスターを頂けるのは嬉しいです。でもこのポスターも、私が頂いて良いですか?」
「これも……。はい、それはどうぞ差し上げます。大宮さんのお好きになさってください」
「ありがとうございます、綾崎さん」
「では、大宮さん。少しお待ちくださいね」
改めて。私は綾崎さんにポスターの件を話せた。
このクシャってしてるポスターも欲しいって言ったら。一度目を見開いたあとで、物凄くにっこにこして良いって言ってくれた。
それからコーヒーを作ったカウンター奥の、スタッフプレートのついた部屋に入っていく。どうやら、そこが従業員専用の部屋みたいだ。
ふむ。アイスココア、美味しぃ。青い魚、きれぇ。
ほんの数分だけど。私は独りになれた事で、落ち着きを取り戻せた。対人、疲れる。
何か特別悪い事されたとかじゃなくても。そうであった事が多いからか、他人に対する緊張感が抜けない。自分ではおかしいと思っていない私自身の言動を受け、相手の予想外の反応を予測するなんて出来ないからだ。
私的には、周囲全ての反応が警戒すべきものだったりする。信じられないから。信頼をおけないから、かな。
特に気にするつもりはないけど、何かされそう感があるんだよね。──自分が対処出来そうな距離が欲しい。心的にも物理的にもね。
「お待たせ致しました、大宮さん」
「あ、全然大丈夫です」
「幾つか持ってきたのですが。他の私の絵も見て頂けると幸いです」
戻ってきた綾崎さんは、大きめの紙袋を持っていた。にっこにこで、他の絵もあると言う。
え、それ全部?その手の袋、何ですか。大きすぎじゃない?
隣のテーブルを寄せ、そこに紙袋から中身を出していく。ポスターは勿論。色紙サイズのものから、スケッチブックまで。
「あ、これかっこよ」
これなんか、凄い凛々しい顔してる。他の絵も、全体的に青い魚が多い印象。
私も青い魚好きだなって思う。色々な色の魚がいるけど、一番青色が目を引くかなぁ。
「あぁ、これはアフリカンシグリッドです。幼い時は薄い水色で、成長するにつれ濃いブルーになっていくのです」
「綾崎さんも、青い魚が好きなんですね」
「えぇ、好きです」
「青い魚が、ですよね?」
「えぇ」
絵を見ながら告げた私に対して、何故か綾崎さんは真っ直ぐ私を見ながら答える。
何だかなぁ。主語が抜けているよね、大切なんだよ?わざわざ追加してあげたけど、妙に引っ掛かる。
この人ってば、変な勧誘とか詐欺とかに合いそうだよね。それか、仕掛けるタイプ?
それに見た目が整っているから、女性関係とか荒れそう。本人の思惑とは違うところで、争い事が起きそうっていうか。
どうであれ、私には直接的に関係ないけど。
「どれも素敵な絵ですね。見せていただいてありがとうございました」
「いいえ。こちらこそ、お褒めいただき光栄です。どうぞ、こちらはお持ちいただいて結構ですよ」
「えっ?いえ……、ポスターだけで良いのですが」
「ご迷惑でしたか?」
「あ、いや……そうではなくて」
「私は店をする程に魚が好きでして。趣味で絵も描いています。大宮さんがご迷惑でないのでしたら、受け取って頂けましたら非常に今後の励みにもなります」
「はあ……。えっと、ご活躍を、お祈り申し上げます?」
紙袋に入っていた中身を全部、ずいって差し出してにっこにこの笑顔で綾崎さんが言う。
励みになるって。私が絵を貰う事で、かな。難しいな、綾崎さん。読めない。にっこにこだから、悪くは思っていないのだろうけど。──逆に、見せない本心が怖く感じるのかなぁ。
「はあ、では……頂きます。ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「…………」
「(にこにこにこにこ)」
私はぎこちなくだけど、お礼を口にした。
にっこにこの綾崎さんとの対比が激しいけど。ちょっと──ぐいぐい来られると引いちゃうよね?私だけ?貰えたのは嬉しいんだよ、綺麗だし素敵な絵だもん。
紙袋にポスターや絵たちを入れてくれて、綾崎さんから渡された。
そのまま無言で向き合う私たち。
何これ。おかしくない?私は青い魚を見に来たんだけど。あ、ポスターの件があったからか。それならこの流れもおかしくなくない?なくなくない?んん?
初めからだけど、この人──。綾崎さんは、パーソナルスペースが近いと思うんだ。距離感バグバグなんだよ。
それに、他者に不用意に接触するのはどうかと思う。同性異性関係無く、トラブルの元だと言いたい。
もしかして知らない?まさかねぇ。だって私より年上でしょう?お店持ってるくらいだもんね。──それか。社会経験が豊富過ぎて、逆に相手を手の上でくるんくるん回しちゃう的な感じだったりして。
あり得るぅ。その余裕な表情、にっこにこで隠してるだけだったりするもんね。──知らないけど。笑顔の人だからって、良い人とは限らないのが世の中のジツジョー。
「と、とりあえず……手を、放して、くださ、い」
「あぁ、すみません。珍しく気持ちが昂ってしまいました」
私は考えすぎて頭がボンッてしそうで、とにかく綾崎さんと距離を取りたかった。それでも手を振り払うとかは対人関係的にダメなのが分かるから、言葉で綾崎さんにお願いする。
綾崎さんは私が告げると、今思い出したとばかりに手を退けてくれた。──はぁ、ちょっと一呼吸。
「えっと、ですね。新しいポスター、の話でしたよね」
「ふふ、そうですね」
「えぇっと……はい、新しいポスターを頂けるのは嬉しいです。でもこのポスターも、私が頂いて良いですか?」
「これも……。はい、それはどうぞ差し上げます。大宮さんのお好きになさってください」
「ありがとうございます、綾崎さん」
「では、大宮さん。少しお待ちくださいね」
改めて。私は綾崎さんにポスターの件を話せた。
このクシャってしてるポスターも欲しいって言ったら。一度目を見開いたあとで、物凄くにっこにこして良いって言ってくれた。
それからコーヒーを作ったカウンター奥の、スタッフプレートのついた部屋に入っていく。どうやら、そこが従業員専用の部屋みたいだ。
ふむ。アイスココア、美味しぃ。青い魚、きれぇ。
ほんの数分だけど。私は独りになれた事で、落ち着きを取り戻せた。対人、疲れる。
何か特別悪い事されたとかじゃなくても。そうであった事が多いからか、他人に対する緊張感が抜けない。自分ではおかしいと思っていない私自身の言動を受け、相手の予想外の反応を予測するなんて出来ないからだ。
私的には、周囲全ての反応が警戒すべきものだったりする。信じられないから。信頼をおけないから、かな。
特に気にするつもりはないけど、何かされそう感があるんだよね。──自分が対処出来そうな距離が欲しい。心的にも物理的にもね。
「お待たせ致しました、大宮さん」
「あ、全然大丈夫です」
「幾つか持ってきたのですが。他の私の絵も見て頂けると幸いです」
戻ってきた綾崎さんは、大きめの紙袋を持っていた。にっこにこで、他の絵もあると言う。
え、それ全部?その手の袋、何ですか。大きすぎじゃない?
隣のテーブルを寄せ、そこに紙袋から中身を出していく。ポスターは勿論。色紙サイズのものから、スケッチブックまで。
「あ、これかっこよ」
これなんか、凄い凛々しい顔してる。他の絵も、全体的に青い魚が多い印象。
私も青い魚好きだなって思う。色々な色の魚がいるけど、一番青色が目を引くかなぁ。
「あぁ、これはアフリカンシグリッドです。幼い時は薄い水色で、成長するにつれ濃いブルーになっていくのです」
「綾崎さんも、青い魚が好きなんですね」
「えぇ、好きです」
「青い魚が、ですよね?」
「えぇ」
絵を見ながら告げた私に対して、何故か綾崎さんは真っ直ぐ私を見ながら答える。
何だかなぁ。主語が抜けているよね、大切なんだよ?わざわざ追加してあげたけど、妙に引っ掛かる。
この人ってば、変な勧誘とか詐欺とかに合いそうだよね。それか、仕掛けるタイプ?
それに見た目が整っているから、女性関係とか荒れそう。本人の思惑とは違うところで、争い事が起きそうっていうか。
どうであれ、私には直接的に関係ないけど。
「どれも素敵な絵ですね。見せていただいてありがとうございました」
「いいえ。こちらこそ、お褒めいただき光栄です。どうぞ、こちらはお持ちいただいて結構ですよ」
「えっ?いえ……、ポスターだけで良いのですが」
「ご迷惑でしたか?」
「あ、いや……そうではなくて」
「私は店をする程に魚が好きでして。趣味で絵も描いています。大宮さんがご迷惑でないのでしたら、受け取って頂けましたら非常に今後の励みにもなります」
「はあ……。えっと、ご活躍を、お祈り申し上げます?」
紙袋に入っていた中身を全部、ずいって差し出してにっこにこの笑顔で綾崎さんが言う。
励みになるって。私が絵を貰う事で、かな。難しいな、綾崎さん。読めない。にっこにこだから、悪くは思っていないのだろうけど。──逆に、見せない本心が怖く感じるのかなぁ。
「はあ、では……頂きます。ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「…………」
「(にこにこにこにこ)」
私はぎこちなくだけど、お礼を口にした。
にっこにこの綾崎さんとの対比が激しいけど。ちょっと──ぐいぐい来られると引いちゃうよね?私だけ?貰えたのは嬉しいんだよ、綺麗だし素敵な絵だもん。
紙袋にポスターや絵たちを入れてくれて、綾崎さんから渡された。
そのまま無言で向き合う私たち。
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