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第6話 このヒロインは実は……
しおりを挟む「脅しではないぞ。私は本気で婚約破棄をするんだぞ!」
「だから勝手にすればいいじゃないですか」
私の反応があまりに薄いのに殿下が苛立っておられます。
もしかして私が取り乱すとでも思っていたのでしょうか?
「私と結婚できなくなるんだぞ。いいのか?」
「叔父様が泣いて懇願するので仕方なく結んだ婚約ですし」
私の暴露にまたもや周囲から失笑が漏れ出ました。
「デタラメを言うな!」
「殿下との婚約は貴様が公爵家の権力でねじ込んだんだろうが」
「そうだ。負け惜しみを言いやがって」
「私と結婚できなくて困るのは殿下の方なんですが」
彼の王位継承は私とセットなんですから婚約破棄すれば禍根を残さぬ為にグラディウス殿下は王家から廃嫡されるかもしれません。
「まあどうでもいいんです。私はパーティーを取り仕切らないといけませんので」
「待て待て待て待て待てぇ!」
何ですか?
私にはもう用は無いですよ。
「まだ終わりではない!」
「まだ何か?」
「そうだお前は今から断罪されるのだからな」
「はぁ?」
断罪されるのは仕事をサボってる殿下達ではないんですかね?
「みなの前で貴様の悪事を暴き正義の鉄槌を下してくれる!」
そう宣言して殿下達が私の罪状とやらを上げていったのですが――
クリスさんの教科書を破り捨てたり、制服を隠したり、靴に画鋲を仕込んだり……何ですかそれ?
そんなみみっちい事しませんよ。
「だいたい私がどうして彼女をイジメないといけないんです?」
「可愛いクリスに嫉妬したんだろう!」
「はっ!」
思わず鼻で笑ってしまいました。
何ですそのジョークは?
ヘソで茶が沸きますよ。
「私の方が美人でスタイルも良いのに?」
見よ、このボンキュッボンのナイスバディ!
そして、公爵家の財力で磨いたこの美貌!
「どうして断崖絶壁チンチクリンに嫉妬しなきゃいけないんです?」
みなが見とれる悪役令嬢のスペック激高です。
殿下達がぐぬぬぬと歯軋りして悔しがっております。
「だが、貴様は私のクリスを偽物呼ばわりしただろ!」
あっ、それは言いました。
「このまま剣の聖女を騙れば大変なことになるぞと脅したとも聞いたぞ」
うん、それも本人に警告しました。
「だってホントの事ですし」
「酷い!」
急にクリスさんが両手で顔を覆い、クリーム色の髪を振り乱してわっと泣き出した。
「私が身分の低い男爵令嬢だからって」
「またクリスを泣かせたな。自分が剣の聖女に選ばれなかったからと僻みおって」
いえ、剣の聖女なんて特になりたいとも思っていませんが?
だって、あれって自分が剣になって使われるんですよ。
そんなの嫌じゃないですか。
「だって、あなたは剣の聖女どころか本物のクリスさんでもないのですから」
そう、ゲームのヒロイン、クリス・エストックは薄いピンク髪とライトブルーの瞳の美少女。
「ねぇ、偽クリスさん」
そして、目の前のクリスさんはクリーム色の髪に琥珀色の瞳。
そうなのです。
このヒロイン実は……ヒロインの座を乗っ取ったモブキャラなんです。
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