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第1話 『婚約破棄』と書いて『ちゃばん』と読む

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「レイピア・ツヴァイハイダー!」


 卒業パーティーの会場に私の名を呼ぶ大声が響き渡り来場者の歓談が止みました。

 声の主は学園の生徒会長であり、ここクレイモア王国の第一王子でもあるグラディウス殿下です。

 生徒会メンバーの側近達と壇上を占拠しての暴挙に思わず私は小さくため息を漏らしました。

 ああ、こんなボンクラ王子が私の婚約者かと思うと頭が痛くなってきます。


 どうして私はこんなおバカと婚約しているのでしょう――ゲームの設定だからか……


「仕事を放り出してどこをほっつき歩いているかと思えば何ですか?」


 この卒業パーティーはお世話になった先輩方に感謝を込めて送り出す為の大事な催しです。

 それを取り仕切るのは本来なら生徒会メンバーの役目なのですが揃いも揃ってサボるなんて……

 私が呆れていると3人の男子生徒がずいっと前に出てきました。


「貴様、殿下に対して無礼であろう!」
「まったく女狐は傲岸不遜で可愛げがない」
「少しはクリスを見習って欲しいものです」


 順番に騎士団長ブロード伯爵の嫡子ケーン、魔術の申し子と噂の天才児ククリ・フランベルジュ、ロンデル宰相の長男カトラスです。

 クリスというのは殿下の背中に隠れている少女のことです。
 こいつら生徒会メンバーがサボっている元凶がこいつです。


「そんな……私なんて大したことありませんわ」
「ああ、君は本当に奥ゆかしいな」


 頬に手を当ててクネクネと腰を振る変なダンスを踊って……何ですかこのバカっぽい女――あっ、真正のバカでした。

 彼女はクリス・エストック。

 クリーム色の髪にくりっとした大きな琥珀色の瞳が愛らしい少女。
 昨年、エストック男爵が市井から引き上げてきた落としだねです。

 三男だった男爵は若かりし頃に市井しせいで平民の恋人と暮らしていたのですが、二人の兄が急逝したことで嫡子の座が舞い込んできました。

 かくして貴族に戻る為に恋人と泣く泣く別れねばならなくなりました。

 ところが、この時の男爵は知らなかったようですが、彼女のお腹には既に男爵の子がいたのです。

 実は別れ際に男爵は恋人に剣の紋章レリーフが入った指輪を贈っていました。

 偶然、その指輪を所持していたクリスさんを街で見つけ、恋人が自分の子を産んでいたことを知った男爵が引き取ったのが乙女ゲームでの設定・・・・・・・・・です。


 殿下と側近の3人、そして乙女ゲームのヒロインであるクリス・エストックの5人による悪役令嬢である私、レイピア・ツヴァイハイダーと役者が揃いましたね。


 これで断罪劇ちゃばんの開幕です……
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