常闇の魔女は森の中

古芭白あきら

文字の大きさ
上 下
22 / 81

第22話 ファマスの司祭―常闇の魔女―

しおりを挟む
「何の問題もない」


 司祭服に身を包んだ丸々太った男がガラックさん達の背後から部屋へと入って来て私達の話に割ってきました。



「魔獣によって負った不浄の傷ならば聖水で清めれば良いのだ」
「オーロソ司祭……」


 この領の教会を統括されている司祭様です。


「失礼ですが、聖水はあくまで魔をはらうだけのものなのではありませんか?」
「魔女め!」


 以前はモスカル様がファマスの教会で司祭をされていらっしゃいました。

 モスカル様はお祖母ばあ様に連れられて教会に訪れた私を何かと気に掛けてくださった温柔敦厚おんじゅうとんこうで、人望の厚い聖職者でした。

 そして、お祖母様が亡くなった頃、モスカル様はその声望の高さから司教となって本山に招聘されたので、代わりに目の前のオーロソ司祭がファマスに着任されたのです。

 ですが、オーロソ司祭は私を魔女と罵り、何かと責め教会の出入りを禁じてしまいました。

 その為、私は長らく教会から遠ざかってしまっています。

 ところが、礼拝に参加できない様に仕向けておきながら、オーロソ司祭は教会を敬わない魔女だと私をそしるのです。


「聖水を愚弄するか!」
「愚弄するも何も……聖水は傷を癒すものではない筈です」


 聖水とは聖職者が原泉から汲み上げた水を教会で司祭が成聖したものです。
 その水には神の祝福が宿り、魔や穢れを祓う神の恩寵を受けられるのです。

 聖水によって清浄となった地には魔獣が寄りつき難くなるので、とても重宝されるものではあります。

 ですが、言い換えればそれだけのものでしかありません。

 決して傷を癒す効能ちからはないのです。


「その様な教えは聞いた事がありません」
「それはお前が神を敬わぬ魔女だからだ」


 全く理屈の通らない困った司祭様です。

 この方は聖水や贖宥状しょくゆうじょうを売り捌いているらしいとは聞いておりましたが、ここまで聖水をごり押ししてくるなんて。

 森の薬方店までやって来る患者は少ない上に私と世間話などしませんし、街との交流が希薄になっていた私は詳しく知らなかったのです。

 どうやらモスカル様が転任されてから教会はおかしな状態になっているようでした。


「私を教会から締め出したのはオーロソ様ではありませんか」
「魔女を教会に入るのを許すわけがなかろう」


 まるで話になりません。


「彼女を貶める発言はよしなさい」


 ハル様も不条理だと感じたらしく、オーロソ司祭から私を庇う様に割って入ってくださいました。


「それに今は言い争いをしている時間はないでしょう?」


 ハル様がちらりと見やるとバロッソ伯爵は渋面を作られました。


「エリーナを救ってくれるならどちらでも構わん」


 論争よりもエリーナ様の治療を優先すべきなのは当然です。

 ですが、方針が違う私とガラックさん達がエリーナ様の治療を協同して行う事は無理でしょう。



 さて、伯爵は私とガラックさんのどちらの治療を選択されるのでしょうか……
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

白衣の下 先生無茶振りはやめて‼️

アーキテクト
恋愛
弟の主治医と女子大生の恋模様

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

白衣の下 拝啓、先生お元気ですか?その後いかがお過ごしでしょうか?

アーキテクト
恋愛
その後の先生 相変わらずの破茶滅茶ぶり、そんな先生を慕う人々、先生を愛してやまない人々とのホッコリしたエピソードの数々‥‥‥ 先生無茶振りやめてください‼️

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

天才令嬢の医療改革〜女は信用出来ないと医術ギルドを追放された凄腕医師は隣国で宮廷医師となり王太子様から溺愛されて幸せを掴む〜

津ヶ谷
恋愛
 人の命を救いたい。 それが、エミリア・メディが医師を目指した理由だった。  ある日、医学界をひっくり返すような論文を提出して、エミリアは帝国の医術ギルドから追い出されてしまう。 「これだから女は信用できないんだ」  しかし、その論文に興味を示した人間が居た。 隣国、マルティン王国の王太子である。  エミリアはその王太子の推薦により宮廷医師となる。 「治すよ。あなたの未来」  その医師が治すのは患者の未来。 伝説に語り継がれる医師の誕生だった。

処理中です...