41 / 50
第三十八話 東奔西走して鼠数匹
しおりを挟む
レイマンは探した。
『冒瀆の呪い』を解く術を探し求めた。
この昔話にも出てくる最悪の呪いから最愛の女性を助ける方法で思いつくのは二つ。同じように伝説となっている『エルフの秘薬』と数々の災厄から人々を救う聖女の力。
エルフの秘薬。森の奥深く、人の踏み込めない領域に生活しているエルフは、美しい外見だけではなく、高い魔力と計り知れない叡智を持つ種族だ。エルフの持つ秘薬はどんな病も、どんな呪いも治せると言われていた。しかし、昔は交流のあったエルフも、住処に結界を張って人との交流を避けている。今ではこの秘薬は滅多にお目にかかれない。
聖女は人の世に神の代弁者として現れる、神の癒しの御業を行使する者のことだ。その出現に規則性はなく、また何処の国に誕生するかも分からない。また、聖女と認定されれば、その国で厳重に管理されるため、会うのも困難である。今のところ聖女が出現したとの報を受けたことはない。
どちらも簡単には見つけられない代物であるが、過去の文献にも登場するそれらは『冒瀆の魔女』と同様に確かにこの世界に存在するものである。
一縷の望みを掛けてレイマンは探し回った。人を使って情報を集めた。しかし、齎された結果は惨憺たるものであった。
「集まるのは愚にもつかない噂話。近づいて来るのは金の匂いを嗅ぎ付けた鼠だけか……」
「私はレイマン様が眉唾な与太話に踊らされたり、怪しげな連中が持ってくる如何わしい品々を買い求めるのではないかと冷や冷やしました」
落胆するレイマンにエドガルトは別の心配をしていた。
ここ最近、レイマンは集められた話を取り纏めたり、聖女を名乗る人物や『エルフの秘薬』を売りに来る商人達と面会を繰り返したりしていたのだ。
その様子から焦燥からレイマンが判断を誤って、これらの話に乗ってしまうのではないかと危惧したのだ。だが、エドガルトの不安は杞憂であったようだ。
それらの話を確認するとレイマンは彼らを一斉に捕縛した。
「レイマン様はかなり切迫していると拝察いたしました。どんな優れた方でも平静でいられない時には冷静な対処はできないものです。レイマン様が落ち着いて対処なされたのには感服致しました」
「焦りはあるさ。だがエリサの身に関わることだぞ。迂闊な事でもしてこれ以上彼女を傷つけることは許されん」
「エリサベータ様をお救いしたい一心でございますか」
エドガルトはぶれないレイマンの心情に苦笑いした。
「ですが、それで数々の功績を上げられましたので私からは申し上げることは無いのですが」
「そんな些末な手柄などどうでもよい」
レイマンが検挙したのは今まで数々の詐欺行為を働いていた者達で、数多くの貴族達も被害にあっていた。かなりの数の詐欺師達がレイマンの現状を知って稼げると群がってきたのだ。
そんな彼らを罪状をはっきりさせて裁いたレイマンの手腕はかなり高く評価されていた。レイマンとしてはその連中が邪魔だから排除しただけなのだが、礼を述べにくる貴族までいる始末。
「だいたい、あんなお粗末な詐欺師共に引っ掛かる方にも問題があるだろ」
「まあ、聖女にしても『エルフの秘薬』にしても、いくら伝説上の代物とは言え、現存していた記録があるのですから、きちんと調べれば偽物と分かるような連中ばかりでしたからね」
「あんな小者達はもう捨て置け。今は少しでも信憑性のある所からあたっていかないと」
レイマンは人任せにせず、自ら四方を巡った。だが、どこへ行っても結果は散々なものでしかなく、レイマンの心には苛立ちだけが積み重なっていく。
各地を駆けずり回っていたレイマンが何の成果も得ることが出来ず暗澹たる気持ちを抱えて王都の屋敷に戻ると、彼の元に一通の書簡が届けられていた。
不思議そうに手紙を手にすれば、それの封蝋にはヴィーティン子爵の印璽が押されていた。レイマンは何気なくペーパーナイフで封を切って中の手紙を手にした。
「な!」
突如レイマンは自失して膝から崩れ落ちた。
その内容はレイマンとエリサベータの婚約解消を願うものであった…
『冒瀆の呪い』を解く術を探し求めた。
この昔話にも出てくる最悪の呪いから最愛の女性を助ける方法で思いつくのは二つ。同じように伝説となっている『エルフの秘薬』と数々の災厄から人々を救う聖女の力。
エルフの秘薬。森の奥深く、人の踏み込めない領域に生活しているエルフは、美しい外見だけではなく、高い魔力と計り知れない叡智を持つ種族だ。エルフの持つ秘薬はどんな病も、どんな呪いも治せると言われていた。しかし、昔は交流のあったエルフも、住処に結界を張って人との交流を避けている。今ではこの秘薬は滅多にお目にかかれない。
聖女は人の世に神の代弁者として現れる、神の癒しの御業を行使する者のことだ。その出現に規則性はなく、また何処の国に誕生するかも分からない。また、聖女と認定されれば、その国で厳重に管理されるため、会うのも困難である。今のところ聖女が出現したとの報を受けたことはない。
どちらも簡単には見つけられない代物であるが、過去の文献にも登場するそれらは『冒瀆の魔女』と同様に確かにこの世界に存在するものである。
一縷の望みを掛けてレイマンは探し回った。人を使って情報を集めた。しかし、齎された結果は惨憺たるものであった。
「集まるのは愚にもつかない噂話。近づいて来るのは金の匂いを嗅ぎ付けた鼠だけか……」
「私はレイマン様が眉唾な与太話に踊らされたり、怪しげな連中が持ってくる如何わしい品々を買い求めるのではないかと冷や冷やしました」
落胆するレイマンにエドガルトは別の心配をしていた。
ここ最近、レイマンは集められた話を取り纏めたり、聖女を名乗る人物や『エルフの秘薬』を売りに来る商人達と面会を繰り返したりしていたのだ。
その様子から焦燥からレイマンが判断を誤って、これらの話に乗ってしまうのではないかと危惧したのだ。だが、エドガルトの不安は杞憂であったようだ。
それらの話を確認するとレイマンは彼らを一斉に捕縛した。
「レイマン様はかなり切迫していると拝察いたしました。どんな優れた方でも平静でいられない時には冷静な対処はできないものです。レイマン様が落ち着いて対処なされたのには感服致しました」
「焦りはあるさ。だがエリサの身に関わることだぞ。迂闊な事でもしてこれ以上彼女を傷つけることは許されん」
「エリサベータ様をお救いしたい一心でございますか」
エドガルトはぶれないレイマンの心情に苦笑いした。
「ですが、それで数々の功績を上げられましたので私からは申し上げることは無いのですが」
「そんな些末な手柄などどうでもよい」
レイマンが検挙したのは今まで数々の詐欺行為を働いていた者達で、数多くの貴族達も被害にあっていた。かなりの数の詐欺師達がレイマンの現状を知って稼げると群がってきたのだ。
そんな彼らを罪状をはっきりさせて裁いたレイマンの手腕はかなり高く評価されていた。レイマンとしてはその連中が邪魔だから排除しただけなのだが、礼を述べにくる貴族までいる始末。
「だいたい、あんなお粗末な詐欺師共に引っ掛かる方にも問題があるだろ」
「まあ、聖女にしても『エルフの秘薬』にしても、いくら伝説上の代物とは言え、現存していた記録があるのですから、きちんと調べれば偽物と分かるような連中ばかりでしたからね」
「あんな小者達はもう捨て置け。今は少しでも信憑性のある所からあたっていかないと」
レイマンは人任せにせず、自ら四方を巡った。だが、どこへ行っても結果は散々なものでしかなく、レイマンの心には苛立ちだけが積み重なっていく。
各地を駆けずり回っていたレイマンが何の成果も得ることが出来ず暗澹たる気持ちを抱えて王都の屋敷に戻ると、彼の元に一通の書簡が届けられていた。
不思議そうに手紙を手にすれば、それの封蝋にはヴィーティン子爵の印璽が押されていた。レイマンは何気なくペーパーナイフで封を切って中の手紙を手にした。
「な!」
突如レイマンは自失して膝から崩れ落ちた。
その内容はレイマンとエリサベータの婚約解消を願うものであった…
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?
四季
恋愛
幼い頃、同居していた祖母から言われたことがあった。
もしも嫌なことがあったなら、電話の下の棚から髪飾りを取り出して持っていって、近所の神社の鳥居を両足でくぐりなさい――。
◆
十七歳になった真琴は、ある日母に理不尽に当たり散らされたことで家出した。
彼女が向かったのは神社。
その鳥居をくぐると――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる