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第三十八話 東奔西走して鼠数匹

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 レイマンは探した。

 『冒瀆ぼうとくの呪い』を解く術を探し求めた。

 この昔話にも出てくる最悪の呪いから最愛の女性を助ける方法で思いつくのは二つ。同じように伝説となっている『エルフの秘薬』と数々の災厄から人々を救う聖女の力。

 エルフの秘薬。森の奥深く、人の踏み込めない領域に生活しているエルフは、美しい外見だけではなく、高い魔力と計り知れない叡智を持つ種族だ。エルフの持つ秘薬はどんな病も、どんな呪いも治せると言われていた。しかし、昔は交流のあったエルフも、住処に結界を張って人との交流を避けている。今ではこの秘薬は滅多にお目にかかれない。

 聖女は人の世に神の代弁者として現れる、神の癒しの御業を行使する者のことだ。その出現に規則性はなく、また何処の国に誕生するかも分からない。また、聖女と認定されれば、その国で厳重に管理されるため、会うのも困難である。今のところ聖女が出現したとの報を受けたことはない。

 どちらも簡単には見つけられない代物であるが、過去の文献にも登場するそれらは『冒瀆ぼうとくの魔女』と同様に確かにこの世界に存在するものである。

 一縷の望みを掛けてレイマンは探し回った。人を使って情報を集めた。しかし、もたらされた結果は惨憺さんたんたるものであった。

「集まるのは愚にもつかない噂話。近づいて来るのは金の匂いを嗅ぎ付けた鼠だけか……」
「私はレイマン様が眉唾まゆつばな与太話に踊らされたり、怪しげな連中が持ってくる如何わしい品々を買い求めるのではないかと冷や冷やしました」

 落胆するレイマンにエドガルトは別の心配をしていた。

 ここ最近、レイマンは集められた話を取り纏めたり、聖女を名乗る人物や『エルフの秘薬』を売りに来る商人達と面会を繰り返したりしていたのだ。

 その様子から焦燥からレイマンが判断を誤って、これらの話に乗ってしまうのではないかと危惧したのだ。だが、エドガルトの不安は杞憂であったようだ。

 それらの話を確認するとレイマンは彼らを一斉に捕縛した。

「レイマン様はかなり切迫していると拝察いたしました。どんな優れた方でも平静でいられない時には冷静な対処はできないものです。レイマン様が落ち着いて対処なされたのには感服致しました」
「焦りはあるさ。だがエリサの身に関わることだぞ。迂闊な事でもしてこれ以上彼女を傷つけることは許されん」
「エリサベータ様をお救いしたい一心でございますか」

 エドガルトはぶれないレイマンの心情に苦笑いした。

「ですが、それで数々の功績を上げられましたので私からは申し上げることは無いのですが」
「そんな些末な手柄などどうでもよい」

 レイマンが検挙したのは今まで数々の詐欺行為を働いていた者達で、数多くの貴族達も被害にあっていた。かなりの数の詐欺師達がレイマンの現状を知って稼げると群がってきたのだ。

 そんな彼らを罪状をはっきりさせて裁いたレイマンの手腕はかなり高く評価されていた。レイマンとしてはその連中が邪魔だから排除しただけなのだが、礼を述べにくる貴族までいる始末。

「だいたい、あんなお粗末な詐欺師共に引っ掛かる方にも問題があるだろ」
「まあ、聖女にしても『エルフの秘薬』にしても、いくら伝説上の代物とは言え、現存していた記録があるのですから、きちんと調べれば偽物と分かるような連中ばかりでしたからね」
「あんな小者達はもう捨て置け。今は少しでも信憑性のある所からあたっていかないと」

 レイマンは人任せにせず、自ら四方を巡った。だが、どこへ行っても結果は散々なものでしかなく、レイマンの心には苛立ちだけが積み重なっていく。

 各地を駆けずり回っていたレイマンが何の成果も得ることが出来ず暗澹あんたんたる気持ちを抱えて王都の屋敷に戻ると、彼の元に一通の書簡が届けられていた。

 不思議そうに手紙を手にすれば、それの封蝋にはヴィーティン子爵の印璽が押されていた。レイマンは何気なくペーパーナイフで封を切って中の手紙を手にした。

「な!」

 突如レイマンは自失して膝から崩れ落ちた。

 その内容はレイマンとエリサベータの婚約解消を願うものであった…
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