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第三十三話 小さなお茶会
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ファルネブルクの嵐を乗り切り、王都で後始末に奔走していたレイマンの元をエリサベータが訪れた。レイマンが仕事に忙殺されてナーゼルに帰ってこられない為、会えない寂しさを堪えられず両親を説得して王都に移り住む事にしたのだ。
ちょうど親友のナターシャもギュンターと婚約した為、王都に移り住んでいた事もエリサベータの背中を押す一因となった。
「エリサは王都が苦手だろう?ヴィーティン領に居ても良かったんだよ」
王都のファルネブルク邸に訪れたエリサベータをレイマンは優しく両腕の中に迎え入れ、その額に軽く口付けをする。
「私はレイ様の婚約者です。レイ様のお側が私の居場所です」
「私としては嬉しいのだが、余り無理はしないでくれよ」
レイマンの心配にエリサベータはくすくすと笑った。
「ご無理をなさっておいでなのはレイ様の方ではありませんか。ナターシャも一緒に王都に来ていますし、私の事はご心配には及びません」
「そうか……ん?そう言えばそのナターシャは何処に?」
「それが王都に着くなりアグネス様に挨拶しに行くと言って、あっという間にいなくなってしまって……」
「ははは……ナターシャらしい」
「申し訳ありません」
「いや、ハプスリンゲ嬢は社交界でも影響力が強い。相変わらずナターシャは直球最短で正解を引きに行くな」
「ナターシャは別に含むものはないと思います。ただ単純にアグネス様を気に入っただけでは?」
「そう言う所さ。考えずに直感的に分かるんだろ。男だったら恐ろしい政敵になっていそうだ」
「ふふふ……ナターシャが男だったらレイ様は政敵になる前に顎でこき使われていそうです」
「違いない」
幼馴染をだしにして二人は可笑しそうに笑った。そこへ扉をノックしてエドガルトが入室してきた。
「歓談中に失礼いたします。エリサベータ様にお迎えが参りました」
「私にですか?いったい何方の?」
「ハプスリンゲ公爵家の家人です」
エリサベータが正面玄関にやってくると、壮年の男が彼女に頭を下げた。
「お取込み中に申し訳ありません。私はアグネス様にお仕えするアーヒムと申します。お嬢様の命によりエリサベータ様をお迎えに参りました」
「私を……でございますか?」
「はい、内々でお茶会でも如何かと申しつかっております」
「お茶会……ですが私は王都に到着したばかりで、この様に旅の恰好です。非礼になるかと」
「主人はそのままでよいとの仰せです。既にスタンベルグ男爵令嬢はそのまま屋敷に来られておりますよ」
「もうナターシャったら」
「ははは……ナターシャらしいな」
「来たばかりなのに申し訳ありません」
レイマンに見送られながらエリサベータはハプスリンゲ公爵家の馬車でアグネスの元へと向かった。ハプスリンゲ公爵家の屋敷はファルネブルク侯爵家の屋敷からそう遠くはなく馬車は直ぐに到着した。
「こちらへ」
「ありがとう」
アーヒムの先導に従いエリサベータは粛々と進めば、ハプスリンゲ公爵家の花園へと案内された。
庭園の一部を鉄柵で区切りった花園で、その入り口にあるアーチ付きの鉄柵の門扉には見事に絡みつくつる性の植物が花を咲かせていた。
その花はクレマチス。
折れ難く美しい花を咲かせるこの花はそれ故に花言葉は『高潔』、『精神の美』。しかし、それとは別に毒性の液体を分泌する事から『策略』の花言葉も持つが……
中に入れば花壇は色とりどりの薔薇で埋め尽くされていた。ピンク、白、青、赤そして黄色……
「見事なお庭ですね」
まさしく圧巻である。咲き誇る花々も素晴らしいが、色合いなどを単純に分けるのではなく、幾つか混ぜながら調和させている配列は、人の手が入っていながら自然に見せていてとても美しい。
「庭園の一画をお嬢様の為の花園としてしているのです。お嬢様が見出した専属の庭師がおりまして、彼もお嬢様の為にと随分と力を入れているようです」
アーヒムの花園の説明を聞きながら花達を見回すエリサベータの目に黒いものが入ってきた。たった一輪だけであったが、その色合いが目立ち彼女の目に留まったのだ。
──あの花は!?
エリサベータは驚いたが、懸命にも声と表情には出さなかった。
──貴族の庭園ではまず栽培しないのに、どうしてあの花を?
釣鐘の様な花弁のとても美しい、しかしその黒く不吉な印象を持つ花を気にしながらもエリサベータは黙ってアーヒムの後を追った。どうやら花園の中にある四阿へと向かっているようだった。恐らくそこでお茶会をするのだろう。
予想通り四阿に到着してみれば、アグネスとナターシャが既に談笑していた。ちょうどエリサベータの方を向いていたアグネスが気がついて手を振ってエリサベータを招いた。
「お久しぶりねエリサベータ様」
「ご無沙汰しておりますアグネス様。私に敬称は不要です。どうかエリサベータと」
「では、私の事もアグネスと呼んでもらえるかしら?」
「それは……」
「二人とも固いわ。アグネスとエリサでいいじゃない」
二人の煮え切らない遣り取りにナターシャはさっさと一刀両断してしまい、その彼女らしいさばさばした対応にエリサベータとアグネスは顔を見合わせて笑った。
「そうね。公の場では無理でも私達だけの間ではそう呼びましょう。よろしいですねエリサ」
「分かりました。アグネスの仰る通りに」
「だから固いって!」
こうしてナターシャが潤滑油となり、三人だけの小さなお茶会は和やかに進行し、談笑が絶えずに恙なく終えた。
「二人とも今日は楽しかったわ。またいらしてね」
「こちらこそ素敵なお茶会にお招き頂きありがとうございました」
「またねアグネス」
行きと同じくアーヒムに先導されながら、エリサベータとナターシャは連れ立って四阿を後にした。
「ナターシャ。アグネスと仲良くなったからって流石に砕け過ぎよ」
「いいじゃない。アグネスなら大丈夫よ」
そんな会話をしながら歩いていたエリサベータの目が再び行の時に見た黒い花を捉えた。
──お茶会の時には忘れていたけれど……
何故かこの花園に一輪だけ存在する奇妙な美。色彩豊かな花壇の中に存在する黒点。その黒花はどんなに美しくともエリサベータにはこの場に相応しいとは思えなかった。
その花は黒百合。
形状の美しさとは逆に色合いの不気味さからついた花言葉の為に、貴族は庭園にその花を植える事は殆どない。
その花言葉は……『呪い』。
ちょうど親友のナターシャもギュンターと婚約した為、王都に移り住んでいた事もエリサベータの背中を押す一因となった。
「エリサは王都が苦手だろう?ヴィーティン領に居ても良かったんだよ」
王都のファルネブルク邸に訪れたエリサベータをレイマンは優しく両腕の中に迎え入れ、その額に軽く口付けをする。
「私はレイ様の婚約者です。レイ様のお側が私の居場所です」
「私としては嬉しいのだが、余り無理はしないでくれよ」
レイマンの心配にエリサベータはくすくすと笑った。
「ご無理をなさっておいでなのはレイ様の方ではありませんか。ナターシャも一緒に王都に来ていますし、私の事はご心配には及びません」
「そうか……ん?そう言えばそのナターシャは何処に?」
「それが王都に着くなりアグネス様に挨拶しに行くと言って、あっという間にいなくなってしまって……」
「ははは……ナターシャらしい」
「申し訳ありません」
「いや、ハプスリンゲ嬢は社交界でも影響力が強い。相変わらずナターシャは直球最短で正解を引きに行くな」
「ナターシャは別に含むものはないと思います。ただ単純にアグネス様を気に入っただけでは?」
「そう言う所さ。考えずに直感的に分かるんだろ。男だったら恐ろしい政敵になっていそうだ」
「ふふふ……ナターシャが男だったらレイ様は政敵になる前に顎でこき使われていそうです」
「違いない」
幼馴染をだしにして二人は可笑しそうに笑った。そこへ扉をノックしてエドガルトが入室してきた。
「歓談中に失礼いたします。エリサベータ様にお迎えが参りました」
「私にですか?いったい何方の?」
「ハプスリンゲ公爵家の家人です」
エリサベータが正面玄関にやってくると、壮年の男が彼女に頭を下げた。
「お取込み中に申し訳ありません。私はアグネス様にお仕えするアーヒムと申します。お嬢様の命によりエリサベータ様をお迎えに参りました」
「私を……でございますか?」
「はい、内々でお茶会でも如何かと申しつかっております」
「お茶会……ですが私は王都に到着したばかりで、この様に旅の恰好です。非礼になるかと」
「主人はそのままでよいとの仰せです。既にスタンベルグ男爵令嬢はそのまま屋敷に来られておりますよ」
「もうナターシャったら」
「ははは……ナターシャらしいな」
「来たばかりなのに申し訳ありません」
レイマンに見送られながらエリサベータはハプスリンゲ公爵家の馬車でアグネスの元へと向かった。ハプスリンゲ公爵家の屋敷はファルネブルク侯爵家の屋敷からそう遠くはなく馬車は直ぐに到着した。
「こちらへ」
「ありがとう」
アーヒムの先導に従いエリサベータは粛々と進めば、ハプスリンゲ公爵家の花園へと案内された。
庭園の一部を鉄柵で区切りった花園で、その入り口にあるアーチ付きの鉄柵の門扉には見事に絡みつくつる性の植物が花を咲かせていた。
その花はクレマチス。
折れ難く美しい花を咲かせるこの花はそれ故に花言葉は『高潔』、『精神の美』。しかし、それとは別に毒性の液体を分泌する事から『策略』の花言葉も持つが……
中に入れば花壇は色とりどりの薔薇で埋め尽くされていた。ピンク、白、青、赤そして黄色……
「見事なお庭ですね」
まさしく圧巻である。咲き誇る花々も素晴らしいが、色合いなどを単純に分けるのではなく、幾つか混ぜながら調和させている配列は、人の手が入っていながら自然に見せていてとても美しい。
「庭園の一画をお嬢様の為の花園としてしているのです。お嬢様が見出した専属の庭師がおりまして、彼もお嬢様の為にと随分と力を入れているようです」
アーヒムの花園の説明を聞きながら花達を見回すエリサベータの目に黒いものが入ってきた。たった一輪だけであったが、その色合いが目立ち彼女の目に留まったのだ。
──あの花は!?
エリサベータは驚いたが、懸命にも声と表情には出さなかった。
──貴族の庭園ではまず栽培しないのに、どうしてあの花を?
釣鐘の様な花弁のとても美しい、しかしその黒く不吉な印象を持つ花を気にしながらもエリサベータは黙ってアーヒムの後を追った。どうやら花園の中にある四阿へと向かっているようだった。恐らくそこでお茶会をするのだろう。
予想通り四阿に到着してみれば、アグネスとナターシャが既に談笑していた。ちょうどエリサベータの方を向いていたアグネスが気がついて手を振ってエリサベータを招いた。
「お久しぶりねエリサベータ様」
「ご無沙汰しておりますアグネス様。私に敬称は不要です。どうかエリサベータと」
「では、私の事もアグネスと呼んでもらえるかしら?」
「それは……」
「二人とも固いわ。アグネスとエリサでいいじゃない」
二人の煮え切らない遣り取りにナターシャはさっさと一刀両断してしまい、その彼女らしいさばさばした対応にエリサベータとアグネスは顔を見合わせて笑った。
「そうね。公の場では無理でも私達だけの間ではそう呼びましょう。よろしいですねエリサ」
「分かりました。アグネスの仰る通りに」
「だから固いって!」
こうしてナターシャが潤滑油となり、三人だけの小さなお茶会は和やかに進行し、談笑が絶えずに恙なく終えた。
「二人とも今日は楽しかったわ。またいらしてね」
「こちらこそ素敵なお茶会にお招き頂きありがとうございました」
「またねアグネス」
行きと同じくアーヒムに先導されながら、エリサベータとナターシャは連れ立って四阿を後にした。
「ナターシャ。アグネスと仲良くなったからって流石に砕け過ぎよ」
「いいじゃない。アグネスなら大丈夫よ」
そんな会話をしながら歩いていたエリサベータの目が再び行の時に見た黒い花を捉えた。
──お茶会の時には忘れていたけれど……
何故かこの花園に一輪だけ存在する奇妙な美。色彩豊かな花壇の中に存在する黒点。その黒花はどんなに美しくともエリサベータにはこの場に相応しいとは思えなかった。
その花は黒百合。
形状の美しさとは逆に色合いの不気味さからついた花言葉の為に、貴族は庭園にその花を植える事は殆どない。
その花言葉は……『呪い』。
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