魔女の闇夜が白むとき

古芭白あきら

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第十一章 常夜の魔女と赤い組紐

十一の玖.

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 森を出た蘭華達は街道を月門の邑へ向けて歩く。

 窮奇が次に田単を襲うと分かっても時期まで予測はできない。小邑むらで過ごす為の準備をまちで整えようと一度戻ることにしたのだ。

「それにしても……」

 馬の手綱を引きながら夏琴は後ろをちらりと見た。

「蘭華はどうして竜馬に騎乗しないのでしょうか?」

 蘭華は両腕に芍薬を抱え頭には百合を乗せて牡丹の横をトコトコと歩いている。

「恐らく乗らないのではなく乗れないのだろう」

 同様に並んで歩く刀夜も後ろからついてくる蘭華達を見た。その視線は炎のように赤い竜顔の馬を捕えた。が、当の牡丹は気づいているだろうに刀夜を一顧だにしない。

「蘭華は乗馬ができないのですか?」
「それは知らんが、たとえできても牡丹は背に人を乗せないだろうな」
「主人であってもですか?」

 夏琴は驚いたが、これは当然の反応である。使い魔が契約者の命に従わないなど常識的に考えられない。

「それだけ蘭華の使い魔達は尋常ではない」
「百合達がですか?」

 夏琴は首を捻った。

 夏琴には兎や猫の使い魔達はどうにも愛玩用としか思えない。貴重な使い魔を可愛いを基準に選ぶあたり蘭華も愛らしい姑娘だと夏琴は思った程だ。

「百合は確かに力の無い羽兎だが牡丹は違う」
「只の竜馬ではないのですか?」

 竜馬は霊獣にも妖魔にも見られる竜頭の馬だ。いずれにしても大人しい性格で、良く働くので導師が使い魔とする例が多い。

(だが、牡丹はただの竜馬では……いや、恐らく竜馬ですらない)

 意思疎通はできても人語を操る竜馬はいない。

(それに霊格も違い過ぎる)

 大難たいなの儀で十二獣と接する機会のある刀夜は自然と霊獣や妖魔あやかしの霊力、魔力を測れるようになっていた。

(竜顔の馬で十二獣にも匹敵する赤い霊獣……)

 刀夜にはそんな霊獣に思い当たりがあった。

(しかし、霊獣が人の使い魔となるのか?)

 だが、刀夜が連想したのは神獣とも言うべき存在。
 だから、自分の導き出した答えに確信が持てない。

「刀夜様?」

 突然刀夜が黙り込んで考え事をするので夏琴は不思議そうに声を掛けた。

「あっ、いや、済まない」
「刀夜様には牡丹の正体に心当たりがあるのですか?」
「ああ……」

 刀夜は再び赤い竜馬へと視線を戻し目を細める。

「確証はないが、恐らく牡丹は炎――」
「蘭華さーん!」

 そして、自分の予測を語ろうとした声を甲高い声に遮られた。

「翠蓮!」

 小走りに近づいてくる愛らしい少女の姿が蘭華の心に太陽の光を差し込む。

「大変なの!」

 だが、蘭華の胸に飛び込んだ翠蓮の表情は鬼気迫るもので、そんな陽だまりとは程遠かった。

「妖虎が近くの小邑むらに出たの!」
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