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第十一章 常夜の魔女と赤い組紐
十一の陸.
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「それからもう一つ」
そんな蘭華の寂し気な翳に気付いて刀夜は目を細め、手を懐に入れていた物を取り出した。
「これも渡すよう頼まれた」
「これは……」
刀夜から手渡されたのは赤い絹糸で編まれた組紐。
作り手が拙いのか少々その形は歪であった。が、結び目に想いを篭めて贈る組紐で間違いない。
その結び方は――
(団錦結び?)
錦結びとも呼ばれるその結び目には家族団欒の意味があり、家族への贈り物として良く見られる結び目だった。
「これを翠蓮から?」
「いや、これは朱明からだそうだ」
「――⁉︎」
「むろん年端も行かぬ朱明が組紐を作り上げるのは不可能だが……」
幼い朱明が組紐を贈るなんて発想はないだろうし、高価な絹糸を用意できる筈もない。きっと翠蓮が助言して道具を用意したのだろう。
「それでもこれは朱明が蘭華の為に頑張って編んだ組紐だ」
「分かっております」
言われずとも蘭華にも事情は察せられる。
蘭華はこくりと頷いた。その拍子に一粒の涙が零れ落ち、蘭華の白い頬に一筋の痕を残す。
「言伝も頼まれた」
「言伝?」
優しく微笑んで刀夜は頷いた。
「今はまだ上手く出来ないけど、もっと上達して綺麗な組紐を贈りたいから待っててね、だそうだ」
「あっ……」
翠蓮に教えられながら結び目を編む朱明の一所懸命な姿が蘭華の紅い瞳に映った。堪らず蘭華の目に涙が溢れる。蘭華はぽろぽろと流れる雫を留めることが出来なかった。
「蘭華なら組紐の意味は言わずとも理解しているだろう」
「はい……はい……」
流れる涙をそのままに、蘭華はこくこくと頷く。
本来、団錦結びは肉親に贈るが、それを血縁以外に贈る時にの意は『再会』ーーあなたに会いたいとの想いを篭めた結び目。
「翠蓮も朱明も蘭華に会いたがっている」
「私は……」
この組紐には彼女達の想いが一杯に詰まっている。そう思うと視界の中の赤い組紐が涙で歪み、まともに形とならない。
だけど、手に伝わる組紐から確かな温もりを感じる。それは人の体温のようで、赤い絹糸が翠蓮や朱明と繋がっているのだと蘭華には思えた。
「月門の邑は蘭華には辛い記憶が多いだろうが、全ての者が拒絶しているわけではない」
それは蘭華自身が良く分かっている。確かに邑人から数々の迫害を受けてきた。だが、それと同じだけ温かい思い出もある。
(会いたい……私も……)
その温もりの記憶を与えてくれる人々の笑顔が蘭華の脳裏に浮かぶ。
(だけど……)
自分の味方をしてくれる翠蓮や丹頼の風当たりが厳しくなっている。
朱明の母もそれを心配したから、朱明を蘭華に近づけまいと叱った。
「私のせいで皆に迷惑が掛かってしまう……私の存在が愛する人達を苦しめる……」
蘭華は心をぽかぽかにしてくれる彼らから離れ難い。だけど、自分と関わったが為に彼らの顔から笑顔が消えるかもしれないと思うとお腹の底からざわりとした何とも言えない恐怖が沸いてくる。
「それなのに……それでも……私は彼らと繋がっていたい……」
嗚咽混じりに吐露する蘭華の想いに刀夜は黙って耳を傾けた。
そんな蘭華の寂し気な翳に気付いて刀夜は目を細め、手を懐に入れていた物を取り出した。
「これも渡すよう頼まれた」
「これは……」
刀夜から手渡されたのは赤い絹糸で編まれた組紐。
作り手が拙いのか少々その形は歪であった。が、結び目に想いを篭めて贈る組紐で間違いない。
その結び方は――
(団錦結び?)
錦結びとも呼ばれるその結び目には家族団欒の意味があり、家族への贈り物として良く見られる結び目だった。
「これを翠蓮から?」
「いや、これは朱明からだそうだ」
「――⁉︎」
「むろん年端も行かぬ朱明が組紐を作り上げるのは不可能だが……」
幼い朱明が組紐を贈るなんて発想はないだろうし、高価な絹糸を用意できる筈もない。きっと翠蓮が助言して道具を用意したのだろう。
「それでもこれは朱明が蘭華の為に頑張って編んだ組紐だ」
「分かっております」
言われずとも蘭華にも事情は察せられる。
蘭華はこくりと頷いた。その拍子に一粒の涙が零れ落ち、蘭華の白い頬に一筋の痕を残す。
「言伝も頼まれた」
「言伝?」
優しく微笑んで刀夜は頷いた。
「今はまだ上手く出来ないけど、もっと上達して綺麗な組紐を贈りたいから待っててね、だそうだ」
「あっ……」
翠蓮に教えられながら結び目を編む朱明の一所懸命な姿が蘭華の紅い瞳に映った。堪らず蘭華の目に涙が溢れる。蘭華はぽろぽろと流れる雫を留めることが出来なかった。
「蘭華なら組紐の意味は言わずとも理解しているだろう」
「はい……はい……」
流れる涙をそのままに、蘭華はこくこくと頷く。
本来、団錦結びは肉親に贈るが、それを血縁以外に贈る時にの意は『再会』ーーあなたに会いたいとの想いを篭めた結び目。
「翠蓮も朱明も蘭華に会いたがっている」
「私は……」
この組紐には彼女達の想いが一杯に詰まっている。そう思うと視界の中の赤い組紐が涙で歪み、まともに形とならない。
だけど、手に伝わる組紐から確かな温もりを感じる。それは人の体温のようで、赤い絹糸が翠蓮や朱明と繋がっているのだと蘭華には思えた。
「月門の邑は蘭華には辛い記憶が多いだろうが、全ての者が拒絶しているわけではない」
それは蘭華自身が良く分かっている。確かに邑人から数々の迫害を受けてきた。だが、それと同じだけ温かい思い出もある。
(会いたい……私も……)
その温もりの記憶を与えてくれる人々の笑顔が蘭華の脳裏に浮かぶ。
(だけど……)
自分の味方をしてくれる翠蓮や丹頼の風当たりが厳しくなっている。
朱明の母もそれを心配したから、朱明を蘭華に近づけまいと叱った。
「私のせいで皆に迷惑が掛かってしまう……私の存在が愛する人達を苦しめる……」
蘭華は心をぽかぽかにしてくれる彼らから離れ難い。だけど、自分と関わったが為に彼らの顔から笑顔が消えるかもしれないと思うとお腹の底からざわりとした何とも言えない恐怖が沸いてくる。
「それなのに……それでも……私は彼らと繋がっていたい……」
嗚咽混じりに吐露する蘭華の想いに刀夜は黙って耳を傾けた。
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