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第十章 剣仙の皇子と月門の陰謀
十の伍.
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「さて……」
丹頼は笑って韜晦したが、その態度が答えである。
(恐らく兄上と白姑仙に何がしかの密約があるのだな)
泰然と白姑仙は繋がりがあり、そこに蘭華の複雑な事情が隠されているに違いない。それについては公に出来ず、だから蘭華が白姑仙の弟子である事が伏せられているのだろう。
(そうなると蘭華を庇護する重要性が低くなる)
白姑仙の直弟子という看板を蘭華の価値と見るなら、それを明かせぬ泰然にいったい何の利があるのか?
(それでも蘭華を庇護する必要を兄上は感じておられる)
あるいは白姑仙から見返りとして助力を得ているとも考えられる。
(もしかしたら兄上は蘭華自身の力を……使い魔達を繋ぎ止めておきたいと考えたのではないか?)
蘭華の周囲の霊獣達を思い浮かべて、それが国にとって存亡に関わると判断したのではないだろうか?
(やはり芍薬や牡丹は……)
蘭華の使い魔達の正体に刀夜はおおよそ見当がついていた。
(だから『常夜の魔女』について捨て置くよう俺に釘を刺したのか)
調べて蘭華の素性が知られると拙いに違いない。そこに白姑仙との繋がりや紅家の瞳を持つ蘭華が常夜の森に隠れ住む秘密があるのだろう。
(そして……)
刀夜は好々爺然と微笑む丹頼を再度注視した。
(丹頼は月門における兄上の耳目となっているのだな)
白姑仙が蘭華を丹頼に預けた理由はそこにある。きっと泰然の勧めで白姑仙が丹頼を信用したのだ。
(だが、それなら兄上はどうして蘭華の今の状況を放置なさっておられるのだ?)
泰然にとって白姑仙の直弟子である蘭華は大切な庇護対象の筈だ。それなのに蘭華が妖虎の件で責められている現状に手を打たないのはおかしい。
このままでは蘭華が月門から去らねばならなくなり、泰然は珠玉を失う事になるだろう。ならば、やはり泰然のところまで月門の情報が上っていないと考えるのが妥当であろう。
「質問を変えよう。今の蘭華の境遇を兄上は存じ上げておられないのか?」
「それは……」
途端に丹頼の顔が曇った。
「恐らく現在の月門の様子は伝わっていないでしょう」
やはりと思ったが、同時に刀夜は腑に落ちないものも感じた。丹頼はどうして泰然に現状を知らせていないのか?
「殿下に伝えねばとは思っているのですが……」
「兄上に言上できない理由があるのか?」
丹頼はこくりと頷く。
「手前はどうにも監視されているようでして……」
「宰崙とかいう者にか?」
「それもあるでしょうが、もっと上からも」
「上か……森の結界や施療院の働きに蘭華が満足に工資を得ていないのはやはり……」
「はい、邑令長の張耳が差し止めているようなのです」
この地の最高権力者相手では第八位公乗とは言え、一介の邑人である丹頼にはどうする事もできまい。
(これは思った以上に兄上の反勢力の根が深そうだ)
月門に蔓延る陰謀の影に刀夜は鬱々とした溜め息を漏らした。
丹頼は笑って韜晦したが、その態度が答えである。
(恐らく兄上と白姑仙に何がしかの密約があるのだな)
泰然と白姑仙は繋がりがあり、そこに蘭華の複雑な事情が隠されているに違いない。それについては公に出来ず、だから蘭華が白姑仙の弟子である事が伏せられているのだろう。
(そうなると蘭華を庇護する重要性が低くなる)
白姑仙の直弟子という看板を蘭華の価値と見るなら、それを明かせぬ泰然にいったい何の利があるのか?
(それでも蘭華を庇護する必要を兄上は感じておられる)
あるいは白姑仙から見返りとして助力を得ているとも考えられる。
(もしかしたら兄上は蘭華自身の力を……使い魔達を繋ぎ止めておきたいと考えたのではないか?)
蘭華の周囲の霊獣達を思い浮かべて、それが国にとって存亡に関わると判断したのではないだろうか?
(やはり芍薬や牡丹は……)
蘭華の使い魔達の正体に刀夜はおおよそ見当がついていた。
(だから『常夜の魔女』について捨て置くよう俺に釘を刺したのか)
調べて蘭華の素性が知られると拙いに違いない。そこに白姑仙との繋がりや紅家の瞳を持つ蘭華が常夜の森に隠れ住む秘密があるのだろう。
(そして……)
刀夜は好々爺然と微笑む丹頼を再度注視した。
(丹頼は月門における兄上の耳目となっているのだな)
白姑仙が蘭華を丹頼に預けた理由はそこにある。きっと泰然の勧めで白姑仙が丹頼を信用したのだ。
(だが、それなら兄上はどうして蘭華の今の状況を放置なさっておられるのだ?)
泰然にとって白姑仙の直弟子である蘭華は大切な庇護対象の筈だ。それなのに蘭華が妖虎の件で責められている現状に手を打たないのはおかしい。
このままでは蘭華が月門から去らねばならなくなり、泰然は珠玉を失う事になるだろう。ならば、やはり泰然のところまで月門の情報が上っていないと考えるのが妥当であろう。
「質問を変えよう。今の蘭華の境遇を兄上は存じ上げておられないのか?」
「それは……」
途端に丹頼の顔が曇った。
「恐らく現在の月門の様子は伝わっていないでしょう」
やはりと思ったが、同時に刀夜は腑に落ちないものも感じた。丹頼はどうして泰然に現状を知らせていないのか?
「殿下に伝えねばとは思っているのですが……」
「兄上に言上できない理由があるのか?」
丹頼はこくりと頷く。
「手前はどうにも監視されているようでして……」
「宰崙とかいう者にか?」
「それもあるでしょうが、もっと上からも」
「上か……森の結界や施療院の働きに蘭華が満足に工資を得ていないのはやはり……」
「はい、邑令長の張耳が差し止めているようなのです」
この地の最高権力者相手では第八位公乗とは言え、一介の邑人である丹頼にはどうする事もできまい。
(これは思った以上に兄上の反勢力の根が深そうだ)
月門に蔓延る陰謀の影に刀夜は鬱々とした溜め息を漏らした。
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