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第十章 剣仙の皇子と月門の陰謀
十の弐.
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「あんなにも邑に貢献しているなら畏れながらも敬うのが普通の筈だ」
人は強大な力を畏れるものだ。だが、それでも自分達に益を齎すならば尊重はする。
「蘭華がいれば手厚い医療を受けられ、強力な妖魔が出ても恐れる必要がなくなる」
自分達にとって有益な者を弾き出そうとする意味が理解できない。
他にも紅瞳の件もある。どうにも蘭華の出自に秘密がありそうだ。
これらについて蘭華を援助している丹頼なら何かを知っているのではないか。それについて問い質そうと、もともと刀夜は丹頼を訪ねるつもりであったのだ。
「ちょうどそれについて刀夜様にお伝えしようと思っておりました」
奇しくも丹頼も同じ用事であったようだ。
「刀夜様は例の妖虎についてお調べになっておられるのですよね?」
「ああ、故あってな」
刀夜は言葉を濁したが、丹頼は刀夜を第五皇子と知っていた。恐らく窮奇の件も承知しているだろうと刀夜は睨んでいる。
「ならばお分かりの事と思われますが、蘭華は此度の犯人ではございません」
「丹頼は蘭華を疑っていないのだな」
翠蓮の話では丹頼は蘭華を援助している。月門における蘭華の数少ない理解者だろう。
「巷間を騒がせている妖魔使いと蘭華とでは特徴が違い過ぎます」
「俺もそう思うのだが、邑の者は蘭華を犯人と決めつけているようだな」
犯人は十代半ばの少女で、有翼の妖虎の他に真っ黒な怪鳥、人語を操る白猫を従えていると目撃者から証言を得ている。
蘭華は二十歳前後で連れている従魔は羽兎の百合、白猫の芍薬、竜馬の牡丹だ。年齢にも使い魔にも相違がある。
(都邑に流れていた噂と言い蘭華を陥れようとしているようだ)
どうにも刀夜にはその微妙な違いに作為を感じる。
「手前も蘭華は犯人ではないと言ってはいるのですが……」
刀夜はおやっと不思議に思った。
「月門の顔役である丹頼が庇っていながら蘭華が疑われるのは何故だ?」
二十等爵において庶民が与えられる爵位は一位から八位まで。これらを民爵と呼ぶ。丹頼は庶民では最上位の第八位公乗で、月門の邑における影響力はかなり大きい。
その丹頼が庇護しているにもかかわらず、邑人の大半が蘭華を犯人と決めつけているように思える。
「この邑には私めの他にも公乗はおりまして、その内の一人宰崙という者が蘭華を目の敵にしているのです」
宰崙の派閥が蘭華を犯人だとふれまわり、邑人にそれを信じる者が少なくないのだそうだ。その筆頭が子雲を始めとした門番達。彼らは宰崙の派閥に属し、特に子雲は宰崙を信奉している。
「なるほど」
刀夜は得心がいったと頷いた。
人は強大な力を畏れるものだ。だが、それでも自分達に益を齎すならば尊重はする。
「蘭華がいれば手厚い医療を受けられ、強力な妖魔が出ても恐れる必要がなくなる」
自分達にとって有益な者を弾き出そうとする意味が理解できない。
他にも紅瞳の件もある。どうにも蘭華の出自に秘密がありそうだ。
これらについて蘭華を援助している丹頼なら何かを知っているのではないか。それについて問い質そうと、もともと刀夜は丹頼を訪ねるつもりであったのだ。
「ちょうどそれについて刀夜様にお伝えしようと思っておりました」
奇しくも丹頼も同じ用事であったようだ。
「刀夜様は例の妖虎についてお調べになっておられるのですよね?」
「ああ、故あってな」
刀夜は言葉を濁したが、丹頼は刀夜を第五皇子と知っていた。恐らく窮奇の件も承知しているだろうと刀夜は睨んでいる。
「ならばお分かりの事と思われますが、蘭華は此度の犯人ではございません」
「丹頼は蘭華を疑っていないのだな」
翠蓮の話では丹頼は蘭華を援助している。月門における蘭華の数少ない理解者だろう。
「巷間を騒がせている妖魔使いと蘭華とでは特徴が違い過ぎます」
「俺もそう思うのだが、邑の者は蘭華を犯人と決めつけているようだな」
犯人は十代半ばの少女で、有翼の妖虎の他に真っ黒な怪鳥、人語を操る白猫を従えていると目撃者から証言を得ている。
蘭華は二十歳前後で連れている従魔は羽兎の百合、白猫の芍薬、竜馬の牡丹だ。年齢にも使い魔にも相違がある。
(都邑に流れていた噂と言い蘭華を陥れようとしているようだ)
どうにも刀夜にはその微妙な違いに作為を感じる。
「手前も蘭華は犯人ではないと言ってはいるのですが……」
刀夜はおやっと不思議に思った。
「月門の顔役である丹頼が庇っていながら蘭華が疑われるのは何故だ?」
二十等爵において庶民が与えられる爵位は一位から八位まで。これらを民爵と呼ぶ。丹頼は庶民では最上位の第八位公乗で、月門の邑における影響力はかなり大きい。
その丹頼が庇護しているにもかかわらず、邑人の大半が蘭華を犯人と決めつけているように思える。
「この邑には私めの他にも公乗はおりまして、その内の一人宰崙という者が蘭華を目の敵にしているのです」
宰崙の派閥が蘭華を犯人だとふれまわり、邑人にそれを信じる者が少なくないのだそうだ。その筆頭が子雲を始めとした門番達。彼らは宰崙の派閥に属し、特に子雲は宰崙を信奉している。
「なるほど」
刀夜は得心がいったと頷いた。
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