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閑話 新緑の少女と傷心の幼女

閑話壱.

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「いた」

 蘭華達と別れた翠蓮は朱明の家までやって来た。

 家の前には予想通り朱明が帰ってきており、膝を抱えてしゃがみ込んでいる。翠蓮は朱明の前に立ったが、影が落ちても朱明は顔を上げとうとしない。

「朱明!」

 気付いていながら反応しない朱明に顔をしかめ、翠蓮は腰に手を当て名を呼んだ。

「むぅ、なに?」

 やっと反応したかと思えば朱明は剥れて怨みがましい目で翠蓮を見上げる。

「いつまでもイジけてるんじゃないわよ」
「だって……」

 朱明は再び顔を地へと落とす。

大姐おねえちゃん、朱朱のこと嫌いになちゃった……」

 落胆する朱明の姿に翠蓮は一つ溜め息を吐いて彼女の前に屈んだ。

「馬鹿ねぇ」

 ちょっと寂しく笑って翠蓮は栗色の髪を撫でた。それは蘭華がするより少し乱暴であったが、それが却って朱明の哀しみを紛らわせてくれた。

「蘭華さんが朱明を嫌いになるわけないでしょ」
「ホント?」

 下を向いていた涙を溜めた瞳が再び上がって翠蓮を映し出す。

「当たり前でしょ」
「でも大姐は朱朱の手を取ってくれなかった」

 落ち込む朱明の気持ちは翠蓮にも分かる。少し迷ったが、翠蓮はもう一度朱明の頭を撫でた。

「朱明は蘭華さんが嫌い?」

 翠蓮の問いに朱明がぶんぶんと首を横に振る。

「じゃあ好き?」
「うん、大姐大好き」

 今度は頷き、はっきりと答える。

「大姐がね、頭を撫でてくれるとすっごく嬉しくなるの」

 朱明は胸に両手を当てて翠蓮に笑顔を向けた。

「大姐がね、ぎゅってしてくれると、ここがポカポカなの」
「そっか……」

 嬉しそうに語る朱明の顔が急に暗くなる。

「だけど大姐が手を取ってくれなくて胸がぎゅうって痛かったの」
「うん、それは苦しかったよね」
「やっぱり大姐は朱朱を嫌いになったの?」
「言ったでしょ、蘭華さんは朱明のこと大好きだから安心なさい」

 翠蓮はきっぱりと言い切った。
 命を賭けて断言したっていい。

「蘭華さんは何進にだって情を向ける懐の深い人よ。ましてや自分を好いてくれる朱明を嫌いになるはずないわ」
「じゃあなんで朱朱の手を握ってくれなかったの?」
「それは蘭華さんが朱明を大好きだからよ」

 意味が分からないと朱明は不思議そうに翠蓮を見上げて首を傾げた。

「蘭華さんは朱明に辛い思いをして欲しくないの」
「大姐と手を繋ぐと朱朱は辛くなるの?」

 朱明の疑問に翠蓮は僅かに躊躇う。蘭華の理不尽な境遇を話すのは翠蓮にとってあまり気分の良いものではない。

「蘭華さんと仲良くすれば朱明の月門での立場が悪くなるのは確かね」
「どうして?」

 朱明には理解できなかった。優しい蘭華と一緒にいるのが悪い事とは思えないから。そして、その気持ちは翠蓮も同じだ。

まちの人はみんな蘭華さんを嫌っているからよ」
大姐おねえちゃん、なにか悪いことしたの?」
「蘭華さんが悪事に手を染めるわけないでしょ」

 朱明はますます混乱した。
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