63 / 84
閑話 新緑の少女と傷心の幼女
閑話壱.
しおりを挟む
「いた」
蘭華達と別れた翠蓮は朱明の家までやって来た。
家の前には予想通り朱明が帰ってきており、膝を抱えてしゃがみ込んでいる。翠蓮は朱明の前に立ったが、影が落ちても朱明は顔を上げとうとしない。
「朱明!」
気付いていながら反応しない朱明に顔を顰め、翠蓮は腰に手を当て名を呼んだ。
「むぅ、なに?」
やっと反応したかと思えば朱明は剥れて怨みがましい目で翠蓮を見上げる。
「いつまでもイジけてるんじゃないわよ」
「だって……」
朱明は再び顔を地へと落とす。
「大姐、朱朱のこと嫌いになちゃった……」
落胆する朱明の姿に翠蓮は一つ溜め息を吐いて彼女の前に屈んだ。
「馬鹿ねぇ」
ちょっと寂しく笑って翠蓮は栗色の髪を撫でた。それは蘭華がするより少し乱暴であったが、それが却って朱明の哀しみを紛らわせてくれた。
「蘭華さんが朱明を嫌いになるわけないでしょ」
「ホント?」
下を向いていた涙を溜めた瞳が再び上がって翠蓮を映し出す。
「当たり前でしょ」
「でも大姐は朱朱の手を取ってくれなかった」
落ち込む朱明の気持ちは翠蓮にも分かる。少し迷ったが、翠蓮はもう一度朱明の頭を撫でた。
「朱明は蘭華さんが嫌い?」
翠蓮の問いに朱明がぶんぶんと首を横に振る。
「じゃあ好き?」
「うん、大姐大好き」
今度は頷き、はっきりと答える。
「大姐がね、頭を撫でてくれるとすっごく嬉しくなるの」
朱明は胸に両手を当てて翠蓮に笑顔を向けた。
「大姐がね、ぎゅってしてくれると、ここがポカポカなの」
「そっか……」
嬉しそうに語る朱明の顔が急に暗くなる。
「だけど大姐が手を取ってくれなくて胸がぎゅうって痛かったの」
「うん、それは苦しかったよね」
「やっぱり大姐は朱朱を嫌いになったの?」
「言ったでしょ、蘭華さんは朱明のこと大好きだから安心なさい」
翠蓮はきっぱりと言い切った。
命を賭けて断言したっていい。
「蘭華さんは何進にだって情を向ける懐の深い人よ。ましてや自分を好いてくれる朱明を嫌いになるはずないわ」
「じゃあなんで朱朱の手を握ってくれなかったの?」
「それは蘭華さんが朱明を大好きだからよ」
意味が分からないと朱明は不思議そうに翠蓮を見上げて首を傾げた。
「蘭華さんは朱明に辛い思いをして欲しくないの」
「大姐と手を繋ぐと朱朱は辛くなるの?」
朱明の疑問に翠蓮は僅かに躊躇う。蘭華の理不尽な境遇を話すのは翠蓮にとってあまり気分の良いものではない。
「蘭華さんと仲良くすれば朱明の月門での立場が悪くなるのは確かね」
「どうして?」
朱明には理解できなかった。優しい蘭華と一緒にいるのが悪い事とは思えないから。そして、その気持ちは翠蓮も同じだ。
「邑の人はみんな蘭華さんを嫌っているからよ」
「大姐、なにか悪いことしたの?」
「蘭華さんが悪事に手を染めるわけないでしょ」
朱明はますます混乱した。
蘭華達と別れた翠蓮は朱明の家までやって来た。
家の前には予想通り朱明が帰ってきており、膝を抱えてしゃがみ込んでいる。翠蓮は朱明の前に立ったが、影が落ちても朱明は顔を上げとうとしない。
「朱明!」
気付いていながら反応しない朱明に顔を顰め、翠蓮は腰に手を当て名を呼んだ。
「むぅ、なに?」
やっと反応したかと思えば朱明は剥れて怨みがましい目で翠蓮を見上げる。
「いつまでもイジけてるんじゃないわよ」
「だって……」
朱明は再び顔を地へと落とす。
「大姐、朱朱のこと嫌いになちゃった……」
落胆する朱明の姿に翠蓮は一つ溜め息を吐いて彼女の前に屈んだ。
「馬鹿ねぇ」
ちょっと寂しく笑って翠蓮は栗色の髪を撫でた。それは蘭華がするより少し乱暴であったが、それが却って朱明の哀しみを紛らわせてくれた。
「蘭華さんが朱明を嫌いになるわけないでしょ」
「ホント?」
下を向いていた涙を溜めた瞳が再び上がって翠蓮を映し出す。
「当たり前でしょ」
「でも大姐は朱朱の手を取ってくれなかった」
落ち込む朱明の気持ちは翠蓮にも分かる。少し迷ったが、翠蓮はもう一度朱明の頭を撫でた。
「朱明は蘭華さんが嫌い?」
翠蓮の問いに朱明がぶんぶんと首を横に振る。
「じゃあ好き?」
「うん、大姐大好き」
今度は頷き、はっきりと答える。
「大姐がね、頭を撫でてくれるとすっごく嬉しくなるの」
朱明は胸に両手を当てて翠蓮に笑顔を向けた。
「大姐がね、ぎゅってしてくれると、ここがポカポカなの」
「そっか……」
嬉しそうに語る朱明の顔が急に暗くなる。
「だけど大姐が手を取ってくれなくて胸がぎゅうって痛かったの」
「うん、それは苦しかったよね」
「やっぱり大姐は朱朱を嫌いになったの?」
「言ったでしょ、蘭華さんは朱明のこと大好きだから安心なさい」
翠蓮はきっぱりと言い切った。
命を賭けて断言したっていい。
「蘭華さんは何進にだって情を向ける懐の深い人よ。ましてや自分を好いてくれる朱明を嫌いになるはずないわ」
「じゃあなんで朱朱の手を握ってくれなかったの?」
「それは蘭華さんが朱明を大好きだからよ」
意味が分からないと朱明は不思議そうに翠蓮を見上げて首を傾げた。
「蘭華さんは朱明に辛い思いをして欲しくないの」
「大姐と手を繋ぐと朱朱は辛くなるの?」
朱明の疑問に翠蓮は僅かに躊躇う。蘭華の理不尽な境遇を話すのは翠蓮にとってあまり気分の良いものではない。
「蘭華さんと仲良くすれば朱明の月門での立場が悪くなるのは確かね」
「どうして?」
朱明には理解できなかった。優しい蘭華と一緒にいるのが悪い事とは思えないから。そして、その気持ちは翠蓮も同じだ。
「邑の人はみんな蘭華さんを嫌っているからよ」
「大姐、なにか悪いことしたの?」
「蘭華さんが悪事に手を染めるわけないでしょ」
朱明はますます混乱した。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる