魔女の闇夜が白むとき

古芭白あきら

文字の大きさ
上 下
53 / 84
第八章 常夜の魔女と差別の壁

八の捌.

しおりを挟む
 駆け付けた子雲達は虎の姿になった芍薬に目を剥いた。

「なんて巨大な妖虎だ!?」
「やっぱり魔女が妖魔あやかし使いだったんだな!」

 そして、状況を良く確かめもせず武器を蘭華達に向けた。

「子供相手に妖虎を嗾けるとは!」
「この邪悪な魔女め!」
「俺達が来たからにはもう大丈夫だ」

 それに対して芍薬が蘭華を庇うように前に出た。

「また現れたな蘭華を虐げる慮外者共!」
「何をこの化け物が!」
「俺達がまちを守る!」

 芍薬が咆え、子雲達が殺気立ち、睨み合う両者。

「芍薬、止めなさい!」

 蘭華は何とか騒動を収めようと声を張り上げた。

「知るか、こんな恩知らずなまちぶっ潰してくれる!」
「そうよ! やっちゃえ芍薬」

 だが、芍薬は聞く耳を持たず、それを翠蓮が煽り立てた。
  
まちを脅かす邪悪な妖魔あやかしめ!」
「我らが成敗してくれる!」

 子雲達が武器を手に応戦の構えだ。

「何よ、蘭華さんへの恩も忘れて乱暴狼藉を働くあんたらの方こそ邪悪じゃない!」
「おうよ、もっと言ってやれ」

 翠蓮、芍薬が子雲達と舌戦を繰り広げ、周囲のまち人まで含んで剣呑な空気にこの場が支配されていく。

 いつ乱闘になってもおかしくない一触即発の状況。

「お願いだからもう止めて!」

 堪らず蘭華は悲鳴にも似た声を張り上げた。

「何が止めろだ!」
「貴様らがまちを脅かすからだろうが!」
「何よ良く調べもせずに分からず屋!」
「我の力を思い知れ!」

 だけど蘭華の声は届かない。もはや双方の戦意は高く、衝突を回避できる状況ではなくなっていた。

「牡丹、止めるのを手伝って!」
「承知じゃ」

 もう言葉では止められないと判断した蘭華は強硬手段に出た。

「芍薬、伏せ!」
「うみゃ!」

 突然の強制待てに芍薬は体勢を崩す。

「ま、またやったな蘭華!」
「この馬鹿者、自分から騒ぎを大きくしてどうするのじゃ!」

 奇異な格好で地面にうつ伏せ不平を漏らす芍薬を牡丹が一喝した。そして、顎をしゃくって前方を示す。

「あれを見よ!」
「――ッ!?」

 その方向を見て芍薬は目を見開いた。

「我が頭上に天を拝し、我が足下に地を拝す、もって各位に五行を配す――」

 蘭華が虚空に指を走らせ何かぶつぶつと呟いたかと思うと地面が光り出す。

「こ、これは!?」

 その光は規則性のある図形を描いていき、芍薬は目を大きく見開いて驚愕した。だが、その間も蘭華の方呪まじないは続く。

「――天帝をまつりて天子天権を拝し、以て現世うつしよに天命を顕現す。庶幾こいねがわくは我が八方に神界に通ずる道を敷かん――開け八門!」

 蘭華が力強く最後の方呪を唱えれば周囲の地面から光が一気に溢れ出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

処理中です...