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第八章 常夜の魔女と差別の壁

八の漆.

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「いたッ!?」

 石の一つが蘭華の額を打った。

 その石が鋭かったのか蘭華の額が切れて血がしたたり落ち何進かしんの顔がみるみる青くなる。

「ば、馬鹿、止めろ!」

 何進は慌てて子分達を止めた。

「何だよぉ何進」
「魔女を倒すんじゃないのかよ」

 しかし、何進が魔女を格好良く成敗すると期待していた子分達は口を尖らせた。何進もそのつもりだっただけに良い言い訳が思いつかない。

「そ、その……」

 ちらちら血を流す蘭華の顔を見て言い淀む。最初から何進は誰かを傷付けるつもりなんてなかったのだ。

「そ、そうだ、朱朱に石が当たるだろ!」
「だけど……」
「いいから石投げんの禁止!」

 必死に仲間の投石を止める何進かしんの様子に蘭華は目を細めた。

(この子は路干ろかんとは違って、決して人を傷付けるのをしとはしていない)

 きっと元来は優しい男の子なのだ。
 そんな温かい彼の心を誰が変えた。

 蘭華の胸を行き場を失ったやるせなさであふれる。そんな思いに沈む蘭華の袖がくいくいっと引かれた。見れば朱明が下から心配そうに覗き込んでいる。

大姐おねえちゃん……痛い?」
「大丈夫よ朱朱ちゃん」
「でも、血が……」

 蘭華の赤い血が流れるのを見て朱明の顔がくしゃっと歪む。そして、何を思ったか朱明はちっちゃな手を蘭華に差し出した。

「これ……痛いの無くなる?」
「あっ!」

 朱明が差し出してきたのは蘭華の薬。

 元は蘭華が朱明の為に調合したものである。当然、自分で用意できるのものだ。それでも朱明の心遣いが嬉しくて温かくて……

「ありがとう」

 だから、朱明の手を包むように握って薬を受け取った。

「これを飲んだら直ぐに治るわね」
「うん!」

 朱明が嬉しそうに破顔する。そんな陽だまりのような笑顔に蘭華もつられて笑みがこぼれた。

「お、俺こんなつもりじゃ……」

 声に蘭華が見上げれば、顔を青くした何進が狼狽うろたえていた。

 彼は悪い魔女を懲らしめ、みんなに謝らせ、そして尊敬を集める。そんな英雄譚を夢想していただけ。

 決して、誰かを傷つけて喜ぶような少年ではない。
 それが分かるから蘭華は何進に歩み寄ろうとした。

「大丈夫よ、あなたは……」
「貴様ら何をやっている!!」

 しかし、蘭華が何進に声を掛けようとした時、折悪くそこへ武器を手に子雲しうん達が駆け付けたのだった。
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