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第八章 常夜の魔女と差別の壁
八の肆.
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「何進!」
「うへ~」
その乱入者に翠蓮の眉根が寄り、朱明は嫌そうに顔を歪めた。蘭華だけは目をぱちくりさせて小首を傾げた。
「誰?」
「何進っていう邑のガキ大将です」
なるほど何進の後ろには子分らしき小さな男の子が数人従っている。恐らく悪戯仲間なんだろう。
「朱明に気があっていつもちょっかい掛けてるの」
「むぅ、何進、乱暴だからキライ!」
どうやら好きな女の子が蘭華と仲良くしているのが許せないらしい。だが、当の本人からはあまり良く思われていないようだ。嫌いとはっきり告げられ何進は狼狽えた。
「ち、ちげぇし、誰がそんなブス!」
好きな子に嫌われ面子を潰されたと、慌てて暴言を吐く辺り何進はまだまだ子供である。
「お、俺は……そうだ、悪いヤツを追い払いに来たんだ!」
そして、子供は平気で他者を傷つけてしまう……
何進は蘭華へ顔を向けてビシッと指を差した。
「魔女は邑から出ていけ!」
「何進、あんた!」
その暴言に翠蓮が顔を険しくして怒鳴り声を上げた。
「な、何だよ」
「蘭華さんは尊敬すべき導士であって魔女なんかじゃないわ!」
「ふん、大人達が話してんの聞いて知ってるんだからな」
翠蓮に睨まれ少しおっかなびっくりながら何進は胸を逸らした。
「そいつは森に住んでる悪い魔女で妖魔を使ってみんなに迷惑かけてるって」
「そんな訳ないでしょ!」
翠蓮はキッと周囲を鋭く睨むと遠巻きに見ていた邑人達がさっと目を逸らしていく。こいつらは子供達に何を吹き込んでいるのかと。
「あんた達、恥を知りなさい!」
翠蓮はもう我慢の限界だった。
「蘭華さんは今まで施療院で患者を癒してくれた。この周辺の結界だって管理してくれている。妖魔を退治してくれたにだって一度や二度じゃない」
「翠蓮、落ち着いて」
「嫌よ!」
拳を振って怒り喚く翠蓮を蘭華が宥めようとしたが、翠蓮は首を振って拒否した。その拍子に翠の瞳からきらりと光が零れる。
「蘭華さんはいつだって邑の為に尽くしてくれた。それも殆ど対価も無しによ! あんた達はそれだけ恩を受けていながら蘭華さんを虐げ、あまつさえありもしない罪まででっち上げた」
蘭華への迫害に対し日頃から翠蓮は鬱憤の溜まっていた。そこへ今回の妖魔騒動である。無実の蘭華に罪を擦り付けられ翠蓮はぶち切れた。
「この恩知らず共!」
「良く言った小娘!」
足下の白猫が突如声を発した。刹那、ぐわっと大きくなり白く大きな塊が出現した。
「我ももはや我慢ならん!」
それは、芍薬の本性――白虎だった。
「うへ~」
その乱入者に翠蓮の眉根が寄り、朱明は嫌そうに顔を歪めた。蘭華だけは目をぱちくりさせて小首を傾げた。
「誰?」
「何進っていう邑のガキ大将です」
なるほど何進の後ろには子分らしき小さな男の子が数人従っている。恐らく悪戯仲間なんだろう。
「朱明に気があっていつもちょっかい掛けてるの」
「むぅ、何進、乱暴だからキライ!」
どうやら好きな女の子が蘭華と仲良くしているのが許せないらしい。だが、当の本人からはあまり良く思われていないようだ。嫌いとはっきり告げられ何進は狼狽えた。
「ち、ちげぇし、誰がそんなブス!」
好きな子に嫌われ面子を潰されたと、慌てて暴言を吐く辺り何進はまだまだ子供である。
「お、俺は……そうだ、悪いヤツを追い払いに来たんだ!」
そして、子供は平気で他者を傷つけてしまう……
何進は蘭華へ顔を向けてビシッと指を差した。
「魔女は邑から出ていけ!」
「何進、あんた!」
その暴言に翠蓮が顔を険しくして怒鳴り声を上げた。
「な、何だよ」
「蘭華さんは尊敬すべき導士であって魔女なんかじゃないわ!」
「ふん、大人達が話してんの聞いて知ってるんだからな」
翠蓮に睨まれ少しおっかなびっくりながら何進は胸を逸らした。
「そいつは森に住んでる悪い魔女で妖魔を使ってみんなに迷惑かけてるって」
「そんな訳ないでしょ!」
翠蓮はキッと周囲を鋭く睨むと遠巻きに見ていた邑人達がさっと目を逸らしていく。こいつらは子供達に何を吹き込んでいるのかと。
「あんた達、恥を知りなさい!」
翠蓮はもう我慢の限界だった。
「蘭華さんは今まで施療院で患者を癒してくれた。この周辺の結界だって管理してくれている。妖魔を退治してくれたにだって一度や二度じゃない」
「翠蓮、落ち着いて」
「嫌よ!」
拳を振って怒り喚く翠蓮を蘭華が宥めようとしたが、翠蓮は首を振って拒否した。その拍子に翠の瞳からきらりと光が零れる。
「蘭華さんはいつだって邑の為に尽くしてくれた。それも殆ど対価も無しによ! あんた達はそれだけ恩を受けていながら蘭華さんを虐げ、あまつさえありもしない罪まででっち上げた」
蘭華への迫害に対し日頃から翠蓮は鬱憤の溜まっていた。そこへ今回の妖魔騒動である。無実の蘭華に罪を擦り付けられ翠蓮はぶち切れた。
「この恩知らず共!」
「良く言った小娘!」
足下の白猫が突如声を発した。刹那、ぐわっと大きくなり白く大きな塊が出現した。
「我ももはや我慢ならん!」
それは、芍薬の本性――白虎だった。
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