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第八章 常夜の魔女と差別の壁

八の参.

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大姐おねえちゃん!」

 それは嬉しそうに弾んだ幼い少女の呼び声。
 蘭華が振り向けば栗色の頭が視界に入った。

 その大きなクリクリの目をキラキラ輝かせて、トタトタと走ってくる可愛い姑娘しょうじょ――

「朱朱ちゃん!」

 その少女が蘭華の胸に矢のように飛び込んで来た。その勢いが思いのほか凄く、蘭華は全身で受け止めた。お陰でほっぽり出された翠蓮は不満顔である。

「どうしたの?」
「あのね、あのね」

 抱き止めた朱明を地に降ろし屈んで目を合わせると、朱明は後ろ手にモジモジとはにかむ。

「これ、ちゃんと飲めたの!」

 蘭華の眼前に朱明が両手を突き出した。ちっちゃな手に握られていたのは蘭華が渡した薬包紙。折り方が独特だから間違いない。

「そう、偉いわ朱朱ちゃん」
「えへへへ」

 栗色の頭を撫でれば朱明は嬉しそうに破顔した。それがとても可愛くて蘭華は思わず微笑んだ。

「くっ、またしても強力な恋敵ライバルが!」

 とても微笑ましい光景なのだが、蘭華の心を愛らしい幼女に奪われて翠蓮の嫉妬の炎が燃え上がる。
  
「ただでさえ刀夜様っていう反則級の大丈夫おとこまえが現れたってのに、何よこの超反則級は!」

 しかも、相手は恋敵と知りながら翠蓮も頭撫で撫でしたくなる超絶可愛い小さな女の子。蘭華も即堕ちしてデレデレなのが丸分かりである。

「それでね、それでね、もう痛くないの!」
「ふふふ、お薬には痛み止めも含んでいるのよ。でもね、痣はまだ残ってるから薬はきちんと飲んでね」
「はーい」

 朱明と接して蘭華が朗らかに笑うと翠蓮は諦めとも安堵ともつかない溜め息を漏らした。

「だけど……まあいっか」

 彼女としては蘭華が笑顔になってくれるのは喜ばしい。それが自分の力でないのが何とも複雑な気分だったが。

 愛らしい朱明に蘭華と翠蓮の目尻も下がり、ほのぼのとした主人の様子を三体の霊獣が見守る。

「朱朱から離れろ!」

 そんな和やかな空気を少年の声が打ち破った。見れば朱明より少し歳上っぽい少年が口を引き結び顔を怒らせ睨んでいた。

「この悪い魔女め!」
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