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第七章 新緑の少女と猿の妖魔
七の捌.
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「いつの間に!?」
「ふふふ、禹歩です」
気がつけば隣に導士らしき少女が立っていた。もう翠蓮は驚きっぱなしだ。
「特殊な歩法で方術の基礎にして秘奥です」
禹歩とは五帝が一の禹により伝えられた方術における歩法である。竜蛇である禹は治水の神であるが、呪術的意味合いの歩法を用いて様々な艱難辛苦を退けた事でも有名である。
もっとも、説明を受けても方術に疎い翠蓮にはちんぷんかんぷんだ。
「もし玃猿が心を読めるなら私の行動は全て阻止できていた筈ではありませんか?」
もし、玃猿の読心術が本物なら蘭華の方術や禹歩は通用しなかっただろう。
「でもさっき路干の剣を躱してたわ」
だが、それなら路干の剣が玃猿に通用しなかったのは何故だろう?
「玃猿は優れた観察力と直感力で動きを読んでいます。それはまるで心が読めるみたいに」
「それじゃあ、お姉さんの行動を読めなかったのは?」
「方術は動きを読んでも術は防げませんし、禹歩は相手の目を惑わせる効果もあるのです」
「凄い凄い!」
翠蓮は尊敬の眼差しで少女を見上げた。
今も玃猿は必死に襲い掛かっているが、翠蓮は全く目に入っていない。少女に対する翠蓮の胸の高鳴りが恐怖心を綺麗さっぱり消し飛ばしたのだ。
「そろそろ終わりにしましょう」
「亀ノヨウニ閉ジコモッテ何ガデキル!」
咆える玃猿にも少女は動じず左右の指を二本立てると、それで宙に何か描くように腕を振っていく。
「二の門神は神荼、鬱塁、桃木に立ち百鬼を除し悪鬼を祓う!」
「グッ、コレハ!?」
「二神は葦で縄を綯う!」
足元から急に葦が生えたかと思うと玃猿は動きを封じられた。
「聖なる葦索は悪業を縛る!」
「コンナ草ゴトキデ!」
玃猿は暴れたが葦を裂く事ができない。
「門神の使いは白き虎!」
「ヤ、ヤメロォ!」
玃猿の周囲に白い霧が生じて虎の姿を形成していく。
「二神の虎は悪鬼羅刹を喰らう!」
「ギャァァァ!!」
霧の虎が口の部分を大きく開けて玃猿に襲い掛かった。そして、瞬く間に喰らい尽くしたのだった。
「こちらも終わったようじゃの」
玃猿が霧に呑まれ消失すると時を同じくして赤い竜馬が現れた。その後ろからは路干を咥えた白い虎がのっそりと続く。
「ひっ!」
虎は無造作に翠蓮の近くに寄って、ぺっと路干を放り出した。ごろりと転がった路干は起き上がってこなかったが目立った外傷は見当たらない。気を失っているだけのようで翠蓮はほっと胸を撫で下ろした。
「だから玃猿如きに蘭華が遅れを取る訳がないと言っただろう」
「さっきまで心配してオロオロしておったくせに」
「なっ、出鱈目を言うな牡丹!」
赤い竜馬と白い虎の掛け合いに少女はクスッと笑い彼らの首筋を撫でた。
「二人ともありがとう」
「容易い事だ」
「蜪犬如き妾らの敵ではない」
(こんな強そうな霊獣達を使役しているんだ)
使役している霊獣や妖魔の格は導士の力量を現す。自分と差して歳の変わらない少女が一流の導士である証左に翠蓮は驚嘆した。
(凄い、素敵、格好良い!)
翠蓮はこの少女に夢中になっていた。
「もう大丈夫よ」
少女の紅い瞳が自分に向けられ翠蓮は興奮した。
「助けて頂きありがとうございます! 私、翠蓮っていいます!」
「えっ?」
突然の自己紹介に少女は戸惑い目をぱちくりとさせた。
「そ、そう? 私は蘭華よ」
「蘭華さん……とっても素敵なお名前ですね!」
「あ、ありがとう」
翠蓮は蘭華の手を握って紅い瞳をじっと見詰めた。その翠の瞳は潤み、頬は上気して赤い。
(本当に綺麗……)
この蘭華との初めての出会いが翠蓮の初恋だった。
「ふふふ、禹歩です」
気がつけば隣に導士らしき少女が立っていた。もう翠蓮は驚きっぱなしだ。
「特殊な歩法で方術の基礎にして秘奥です」
禹歩とは五帝が一の禹により伝えられた方術における歩法である。竜蛇である禹は治水の神であるが、呪術的意味合いの歩法を用いて様々な艱難辛苦を退けた事でも有名である。
もっとも、説明を受けても方術に疎い翠蓮にはちんぷんかんぷんだ。
「もし玃猿が心を読めるなら私の行動は全て阻止できていた筈ではありませんか?」
もし、玃猿の読心術が本物なら蘭華の方術や禹歩は通用しなかっただろう。
「でもさっき路干の剣を躱してたわ」
だが、それなら路干の剣が玃猿に通用しなかったのは何故だろう?
「玃猿は優れた観察力と直感力で動きを読んでいます。それはまるで心が読めるみたいに」
「それじゃあ、お姉さんの行動を読めなかったのは?」
「方術は動きを読んでも術は防げませんし、禹歩は相手の目を惑わせる効果もあるのです」
「凄い凄い!」
翠蓮は尊敬の眼差しで少女を見上げた。
今も玃猿は必死に襲い掛かっているが、翠蓮は全く目に入っていない。少女に対する翠蓮の胸の高鳴りが恐怖心を綺麗さっぱり消し飛ばしたのだ。
「そろそろ終わりにしましょう」
「亀ノヨウニ閉ジコモッテ何ガデキル!」
咆える玃猿にも少女は動じず左右の指を二本立てると、それで宙に何か描くように腕を振っていく。
「二の門神は神荼、鬱塁、桃木に立ち百鬼を除し悪鬼を祓う!」
「グッ、コレハ!?」
「二神は葦で縄を綯う!」
足元から急に葦が生えたかと思うと玃猿は動きを封じられた。
「聖なる葦索は悪業を縛る!」
「コンナ草ゴトキデ!」
玃猿は暴れたが葦を裂く事ができない。
「門神の使いは白き虎!」
「ヤ、ヤメロォ!」
玃猿の周囲に白い霧が生じて虎の姿を形成していく。
「二神の虎は悪鬼羅刹を喰らう!」
「ギャァァァ!!」
霧の虎が口の部分を大きく開けて玃猿に襲い掛かった。そして、瞬く間に喰らい尽くしたのだった。
「こちらも終わったようじゃの」
玃猿が霧に呑まれ消失すると時を同じくして赤い竜馬が現れた。その後ろからは路干を咥えた白い虎がのっそりと続く。
「ひっ!」
虎は無造作に翠蓮の近くに寄って、ぺっと路干を放り出した。ごろりと転がった路干は起き上がってこなかったが目立った外傷は見当たらない。気を失っているだけのようで翠蓮はほっと胸を撫で下ろした。
「だから玃猿如きに蘭華が遅れを取る訳がないと言っただろう」
「さっきまで心配してオロオロしておったくせに」
「なっ、出鱈目を言うな牡丹!」
赤い竜馬と白い虎の掛け合いに少女はクスッと笑い彼らの首筋を撫でた。
「二人ともありがとう」
「容易い事だ」
「蜪犬如き妾らの敵ではない」
(こんな強そうな霊獣達を使役しているんだ)
使役している霊獣や妖魔の格は導士の力量を現す。自分と差して歳の変わらない少女が一流の導士である証左に翠蓮は驚嘆した。
(凄い、素敵、格好良い!)
翠蓮はこの少女に夢中になっていた。
「もう大丈夫よ」
少女の紅い瞳が自分に向けられ翠蓮は興奮した。
「助けて頂きありがとうございます! 私、翠蓮っていいます!」
「えっ?」
突然の自己紹介に少女は戸惑い目をぱちくりとさせた。
「そ、そう? 私は蘭華よ」
「蘭華さん……とっても素敵なお名前ですね!」
「あ、ありがとう」
翠蓮は蘭華の手を握って紅い瞳をじっと見詰めた。その翠の瞳は潤み、頬は上気して赤い。
(本当に綺麗……)
この蘭華との初めての出会いが翠蓮の初恋だった。
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