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第七章 新緑の少女と猿の妖魔
七の肆.
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――びゅんっ!
路干の棍が鋭く風を切って、狙い違わずそれに叩きつけられた。
「ぎゃん!」
犬のような悲鳴を上げて地に転がる物体を見て路干は鼻で笑った。
「なんだ耳鼠かよ」
兎の如き頭、鹿のような広い耳のその獣は耳鼠という鼠の妖魔である。ふさふさの尻尾で宙を飛ぶすばしっこい妖魔だが単体ではさして強くはない。
路干は腰の剣を抜くと何の躊躇いも無く耳鼠に突き刺した。血が飛び散り耳鼠のぎゃぁあっという大きな悲鳴が森に響き渡る。
翠蓮は顔を背けて眉根を寄せた。
「ちょっと、何も殺さなくても追い払うだけで良かったじゃない!」
「妖魔に情けはいらねぇのさ」
路干は気障ったらしく笑った。翠蓮が耳鼠に同情したと勘違いして格好つけたようである。これで翠蓮も俺様に惚れるだろうと路干は確信した。
「馬鹿なの!」
だが、翠蓮は路干の愚行に呆れただけだった。
「より強い妖魔が血の臭いを嗅ぎ付けて来るでしょ!」
妖魔、特に妖獣は血の臭いに敏感で、常夜の森での流血沙汰は自殺行為に等しい。腕試しや武者修行の武人でもなければ常夜の森での戦闘はなるべく避けるのが常識である。
「望むところだ。見てろ俺様がどんな妖魔もぶっ倒してやる」
「馬鹿言ってないで早くこの場から離れるわよ!」
翠蓮は来た道を引き返そうと踵を返したが、路干に腕を掴まれ止められてしまった。
「離してよ!」
「まあ待てって」
「そんなに死にたいなら、あんた一人で死んで!」
常夜の森に入って刻はそれ程過ぎていない。今なら走って戻ればまだ助かる可能性が高い。
「妖魔なんて俺様が軽く倒してやるから大丈夫だって」
「大丈夫な訳ないでしょ!」
それなのに路干は根拠の無い自信を振り撒き余裕綽々で、翠蓮は焦りと苛立ちから大声で叫んでしまった。
「邑で一番強いって自惚れたって都邑に行けば路干より強い人なんて五万といるのよ。その人達だって常夜の森を怖れて――ッ!?」
感情を爆発させていた翠蓮が途中で凍り付いた。とんでもないものが彼女の翠色の瞳に入ったのだ。
「う、嘘……か、玃猿!?」
それは恐ろしい猿の姿をした妖魔であった。
路干の棍が鋭く風を切って、狙い違わずそれに叩きつけられた。
「ぎゃん!」
犬のような悲鳴を上げて地に転がる物体を見て路干は鼻で笑った。
「なんだ耳鼠かよ」
兎の如き頭、鹿のような広い耳のその獣は耳鼠という鼠の妖魔である。ふさふさの尻尾で宙を飛ぶすばしっこい妖魔だが単体ではさして強くはない。
路干は腰の剣を抜くと何の躊躇いも無く耳鼠に突き刺した。血が飛び散り耳鼠のぎゃぁあっという大きな悲鳴が森に響き渡る。
翠蓮は顔を背けて眉根を寄せた。
「ちょっと、何も殺さなくても追い払うだけで良かったじゃない!」
「妖魔に情けはいらねぇのさ」
路干は気障ったらしく笑った。翠蓮が耳鼠に同情したと勘違いして格好つけたようである。これで翠蓮も俺様に惚れるだろうと路干は確信した。
「馬鹿なの!」
だが、翠蓮は路干の愚行に呆れただけだった。
「より強い妖魔が血の臭いを嗅ぎ付けて来るでしょ!」
妖魔、特に妖獣は血の臭いに敏感で、常夜の森での流血沙汰は自殺行為に等しい。腕試しや武者修行の武人でもなければ常夜の森での戦闘はなるべく避けるのが常識である。
「望むところだ。見てろ俺様がどんな妖魔もぶっ倒してやる」
「馬鹿言ってないで早くこの場から離れるわよ!」
翠蓮は来た道を引き返そうと踵を返したが、路干に腕を掴まれ止められてしまった。
「離してよ!」
「まあ待てって」
「そんなに死にたいなら、あんた一人で死んで!」
常夜の森に入って刻はそれ程過ぎていない。今なら走って戻ればまだ助かる可能性が高い。
「妖魔なんて俺様が軽く倒してやるから大丈夫だって」
「大丈夫な訳ないでしょ!」
それなのに路干は根拠の無い自信を振り撒き余裕綽々で、翠蓮は焦りと苛立ちから大声で叫んでしまった。
「邑で一番強いって自惚れたって都邑に行けば路干より強い人なんて五万といるのよ。その人達だって常夜の森を怖れて――ッ!?」
感情を爆発させていた翠蓮が途中で凍り付いた。とんでもないものが彼女の翠色の瞳に入ったのだ。
「う、嘘……か、玃猿!?」
それは恐ろしい猿の姿をした妖魔であった。
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