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第七章 新緑の少女と猿の妖魔
七の弐.
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「だけど、そのせいで翠蓮が嫌われて婚期を逃してしまったら……」
明るく気立ての良い翠蓮は容姿も愛らしい人気者だ。邑の有力者である丹頼の孫娘とあって求婚者は後を絶たない。
だが、蘭華に肩入れをすれば翠蓮はきっと月門の邑で孤立してしまう。蘭華は自分のせいで翠蓮が肩身の狭い思いをするのは耐えられない。
「いいですよそんなの」
そんな心配をする蘭華に翠蓮は手をヒラヒラと振る。
「あんな薄情な男共なんてこっちから願い下げです」
翠蓮からすれば蘭華に恩がありながら仇で返す者達など眼中にないらしい。
「蘭華さんにお世話になっていいながら礼の一つもできない奴らなんですから」
「それでも一生一人身ってわけにもいかないでしょ?」
途端に翠蓮の顔が大きく歪む。
「路干みたいな最低男と結婚させられるくらいなら一生独身で構いません」
「路干?」
その名を聞いて蘭華も眉間に皺を寄せた。
「彼との縁談があるの?」
「あいつ恥知らずにも私に結婚を申し入れてきたんですよ」
路干は庶民では珍しく強力な神賜術『勇武之達』を授かった青年だ。これは身体能力を上げ磨けばどんな武器も一流に使い熟せるようになる凡そ戦いに関しては非常に有益な賜術だ。
それ故に路干が月門で最強であるのは間違いない。だが、それに驕り性格に難があった。
「三年前にあんだけやらかしといて、面の皮が厚いったらありゃしない」
「彼は相変わらずなのね」
「助けてもらった恩も忘れて、神賜術を持たないって理由で蘭華さんを馬鹿にする真正のアホウのままですよ」
ぷんすかと怒る翠蓮の路干への愚痴は止まらない。
「あいつ、今なら蘭華さんより強いとかほざいてるんですよ。蘭華さんがあんな馬鹿に負けるわけないのに」
「彼の神賜術が強力なのは本当よ」
神賜術偏重の思想は有力な賜術を持っている者ほど強い。実際、路干は月門では敵無しなのだ。
「それでも絶対に路干なんてお断りです!」
「本当に彼が嫌いなのね」
無理もないと蘭華も思う。
「蘭華さんだって知ってるでしょ。あいつ自分可愛さに私を妖魔に売り渡したんですよ!」
「そんな事もあったわね」
三年前、翠蓮達と初めて出会った時の事を蘭華は思い出していた。
明るく気立ての良い翠蓮は容姿も愛らしい人気者だ。邑の有力者である丹頼の孫娘とあって求婚者は後を絶たない。
だが、蘭華に肩入れをすれば翠蓮はきっと月門の邑で孤立してしまう。蘭華は自分のせいで翠蓮が肩身の狭い思いをするのは耐えられない。
「いいですよそんなの」
そんな心配をする蘭華に翠蓮は手をヒラヒラと振る。
「あんな薄情な男共なんてこっちから願い下げです」
翠蓮からすれば蘭華に恩がありながら仇で返す者達など眼中にないらしい。
「蘭華さんにお世話になっていいながら礼の一つもできない奴らなんですから」
「それでも一生一人身ってわけにもいかないでしょ?」
途端に翠蓮の顔が大きく歪む。
「路干みたいな最低男と結婚させられるくらいなら一生独身で構いません」
「路干?」
その名を聞いて蘭華も眉間に皺を寄せた。
「彼との縁談があるの?」
「あいつ恥知らずにも私に結婚を申し入れてきたんですよ」
路干は庶民では珍しく強力な神賜術『勇武之達』を授かった青年だ。これは身体能力を上げ磨けばどんな武器も一流に使い熟せるようになる凡そ戦いに関しては非常に有益な賜術だ。
それ故に路干が月門で最強であるのは間違いない。だが、それに驕り性格に難があった。
「三年前にあんだけやらかしといて、面の皮が厚いったらありゃしない」
「彼は相変わらずなのね」
「助けてもらった恩も忘れて、神賜術を持たないって理由で蘭華さんを馬鹿にする真正のアホウのままですよ」
ぷんすかと怒る翠蓮の路干への愚痴は止まらない。
「あいつ、今なら蘭華さんより強いとかほざいてるんですよ。蘭華さんがあんな馬鹿に負けるわけないのに」
「彼の神賜術が強力なのは本当よ」
神賜術偏重の思想は有力な賜術を持っている者ほど強い。実際、路干は月門では敵無しなのだ。
「それでも絶対に路干なんてお断りです!」
「本当に彼が嫌いなのね」
無理もないと蘭華も思う。
「蘭華さんだって知ってるでしょ。あいつ自分可愛さに私を妖魔に売り渡したんですよ!」
「そんな事もあったわね」
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