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第六章 剣仙の皇子と窮奇の行方
六の漆.
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――ピーッピッピッ、ピーッ
刀夜の口笛が響く。
すると突然、真っ白な鳥が目の前に出現し刀夜の肩へと止まった。それは長い尾羽が特徴的で白い野鶏を思わせる外見をしている。
――『白翰鳥』
遥か西方の高山に棲息するとされる鳥の霊獣の一種である。
霊獣と言っても多少覚えがあれば方術を体得していなくとも使役できる為、貴族や軍での連絡手段として重宝されている。
因みに『翰』は羽の事で、白く長い尾羽が名前の由来となっている。だが、それと同時に『翰』は手紙の意もあり白翰鳥は別名『白き翰鳥』とも呼ばれている。
「この手紙を儀藍へ届けてくれ」
「クェンクェン」
僅かに胸を張って鳴くと刀夜の手にする文を飲み込んでしまった。実は白翰鳥は手紙を取り込み尾羽とする事ができる。その羽は指定者に届けられると手紙に戻るのだ。
「ケーン!」
一際高く鳴いた白翰鳥はバサバサと汚れのない真っ白な翼を羽ばたかせ、都邑の方へとあっという間に飛び去った。
「さて、我らは窮奇の探索を再開ですな」
「いや……」
さっそくと夏琴が捜索に戻ろうとしたが、刀夜が手を上げて止めた、
「もう既にそれについては目星をつけている」
「真ですか!?」
「先程の地図を襲撃された順に追ってみろ」
「順にですか……あっ!?」
刀夜の指摘で再び地図に目を落とした夏琴は目を見張った。刀夜が既に『一、二……』と数字を振っており、それが見事に時計回りになっていたのだ。
「無意識のうちに規則的に場所を選定してしまったのだろうな」
「なんとも律儀な下手人ですな」
「それとも襲撃犯はもしかして……」
夏琴は不思議そうに刀夜を覗き込んだが、判断できる情報が少な過ぎる。刀夜は言葉を飲み込んで首を横に振った。
「いや、何でもない。それより、順番に従えば次の襲撃は恐らくこの辺り……」
「近くに田単の邑《ゆう》がありますな」
刀夜が指差す帛地図の辺りには小邑が一つだけ。
「早速出向いて不埒な輩をひっ捕えましょう」
「まあ待て」
逸る夏琴の手綱を締めて刀夜は蘭華が去った方へと目を向けた。
「それよりも先に蘭華の方だ」
「工資の件でございますか?」
夏琴は首を捻った。
今のところ差し迫った案件ではない。寧ろ窮奇の方は泰然の進退に関わるので一刻の猶予も無い筈だ。
「いや、確かにそれもあるのだが……」
眉が寄って刀夜の綺麗に整った顔が僅かに歪む。
「どうも嫌な胸騒ぎがする」
刀夜の口笛が響く。
すると突然、真っ白な鳥が目の前に出現し刀夜の肩へと止まった。それは長い尾羽が特徴的で白い野鶏を思わせる外見をしている。
――『白翰鳥』
遥か西方の高山に棲息するとされる鳥の霊獣の一種である。
霊獣と言っても多少覚えがあれば方術を体得していなくとも使役できる為、貴族や軍での連絡手段として重宝されている。
因みに『翰』は羽の事で、白く長い尾羽が名前の由来となっている。だが、それと同時に『翰』は手紙の意もあり白翰鳥は別名『白き翰鳥』とも呼ばれている。
「この手紙を儀藍へ届けてくれ」
「クェンクェン」
僅かに胸を張って鳴くと刀夜の手にする文を飲み込んでしまった。実は白翰鳥は手紙を取り込み尾羽とする事ができる。その羽は指定者に届けられると手紙に戻るのだ。
「ケーン!」
一際高く鳴いた白翰鳥はバサバサと汚れのない真っ白な翼を羽ばたかせ、都邑の方へとあっという間に飛び去った。
「さて、我らは窮奇の探索を再開ですな」
「いや……」
さっそくと夏琴が捜索に戻ろうとしたが、刀夜が手を上げて止めた、
「もう既にそれについては目星をつけている」
「真ですか!?」
「先程の地図を襲撃された順に追ってみろ」
「順にですか……あっ!?」
刀夜の指摘で再び地図に目を落とした夏琴は目を見張った。刀夜が既に『一、二……』と数字を振っており、それが見事に時計回りになっていたのだ。
「無意識のうちに規則的に場所を選定してしまったのだろうな」
「なんとも律儀な下手人ですな」
「それとも襲撃犯はもしかして……」
夏琴は不思議そうに刀夜を覗き込んだが、判断できる情報が少な過ぎる。刀夜は言葉を飲み込んで首を横に振った。
「いや、何でもない。それより、順番に従えば次の襲撃は恐らくこの辺り……」
「近くに田単の邑《ゆう》がありますな」
刀夜が指差す帛地図の辺りには小邑が一つだけ。
「早速出向いて不埒な輩をひっ捕えましょう」
「まあ待て」
逸る夏琴の手綱を締めて刀夜は蘭華が去った方へと目を向けた。
「それよりも先に蘭華の方だ」
「工資の件でございますか?」
夏琴は首を捻った。
今のところ差し迫った案件ではない。寧ろ窮奇の方は泰然の進退に関わるので一刻の猶予も無い筈だ。
「いや、確かにそれもあるのだが……」
眉が寄って刀夜の綺麗に整った顔が僅かに歪む。
「どうも嫌な胸騒ぎがする」
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