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第六章 剣仙の皇子と窮奇の行方

六の参.

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「出没している妖虎はやはり窮奇きゅうきで九分九厘間違いないだろう」

 夏琴と情報交換をして刀夜は結論を出した。

「はい、最初の被害者が出たのは窮奇が姿を消した時期と一致しておりました」

 夏琴は一月程前、最初に襲われたまち人も訪ねて状況確認してきた。その報告に刀夜は頷く。

「それに被害者達の証言から浮かぶ姿形も窮奇としか思えぬ」
それがしの聞き込みでも皆一様に有翼の黒い妖虎だったと口にしておりました」

 特徴が完全に窮奇と一致する。
 夏琴も首肯して同意を示した。

妖魔あやかし使いについても同じでしたな」
「ああ、やはり十代前半の少女で、連れている妖魔は妖虎の他は黒い鳥、黒猫……」

 蘭華は二十前後の姑娘むすめ、使い魔も白い羽兎に白猫と赤い竜馬。比べるべくもなく別人である。

「ですが、それでもまちの者は誰もが蘭華を妖魔あやかし使いだと疑っております」
「これほど特徴が違うのにな」

 刀夜は呆れて溜め息を漏らす。

 施療院では治療してもらった患者でさえ蘭華に白い目を向けていた。

「月門で蘭華に悪意を抱いていなかったのは今のところ翠蓮と斉周くらいか……ああ、それから手当てを受けた朱明は蘭華を慕っていそうだったな」

 幼い目は曇り無く蘭華の真実を捉えているようだ。蘭華に笑顔を見せる素直な朱明の愛らしい姿を思い出して刀夜の顔が綻ぶ。

「確かに特徴は異なりますが、彼女は導士ですので何か幻惑の術を使ったとは考えられませんか?」

 夏琴の心証でも蘭華が凶事を為す人物とは思えない。だが、情に流されれば目が曇る。夏琴は敢えて刀夜に反論した。

「もっともな意見だ」

 頷き同意する刀夜もそんな夏琴の考えは理解している。実際、まち人達もそう考えているから未だに蘭華への疑念を捨てないのだろう。

「それでも蘭華は下手人ではないと俺は断定している」
「何か確証があるのですか?」
「当然だ」

 だからこそ刀夜は己の心証だけではなく、きちんとした証拠もしくは根拠を示さねばならない。そうでなければ刀夜が皇子の地位で無理矢理抑え込んでも邑人の感情は収まらないだろう。

 事実、門番の子雲には身分を明かしたが、表面で従っても彼の目が納得できないと訴えていた。

「これを見てくれ」

 刀夜は一巻きの絹布けんぷを取り出した。どうやら帛書はくしょ――文を記した絹地のようだ。

「地図?」

 刀夜が提示したのは月門周辺の帛地図はくちずであった。
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