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第六章 剣仙の皇子と窮奇の行方

六の弐.

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「い、いえ、刀夜様はとても素敵な殿方ですよ」

 蘭華は慌てて取りつくろう。

「ふふ、そうか、蘭華のように美しい姑娘むすめに嫌われていなくて安心した」
「う、美し……って、刀夜様!?」

 今まで迫害対象であった蘭華は男性から褒め慣れていない。しかも、刀夜のように眉目秀麗な青年から迫られるように囁かれ、蘭華の顔は一気に上気した。血が上りすぎて頭がくらくらする。

「むぅ、やっぱり蘭華さんは私より刀夜様がいいのね!」
「待って待って、本当に違うから!」
「なんだ蘭華は俺の事が嫌いか?」

 翠蓮に言い訳するが、そこへ刀夜が意地悪く問いかける。顔を見れば揶揄からかうようににやっと笑っているのだが、蘭華はそれに気づく心の余裕がない。

「き、嫌いだなんて……そんな……」
「だそうだぞ翠蓮」

 蘭華の言質を取って刀夜は勝ち誇った顔を翠蓮に向けた。

「わぁん! 刀夜様に蘭華さんられたぁ!」
「やれやれ、ほんに退屈せぬ奴らじゃ」

 翠蓮が泣き、蘭華がオロオロし、刀夜は何やらニヤニヤ笑う。それを横目に牡丹は呆れながらも楽しげだ。

 相変わらず蘭華に向けられる周囲の目は厳しい。蘭華は強い娘だが、決してこの状況が堪えていないわけではない。翠蓮や刀夜が明るい陽射しとなって蘭華を照らしてくれる事を牡丹は願わずにはいられない。

「ここにおられましたか」

 そんな陽だまりのような談笑に夏琴の大きな声が割って入った。

まちの聞き込みを終えましたが……お取り込み中でしたか?」

 別れて行っていたまちの聞き込みを終えて刀夜を探していたようだ。

「いや、差し支えはない」
「そ、それでは私はこれで」

 夏琴が現れたのを幸いに蘭華は逃げるように刀夜の前を辞した。その顔は耳まで真っ赤で恥ずかしさに居た堪れなくなったのだろう。

「あっ、蘭華さん私も行く!」

 その後を翠蓮が慌てて追った。

「あっ、待て蘭華!」
「刀夜様はどうぞお仕事に励まれてください」

 刀夜も慌てて蘭華を止めたが反応したのは翠蓮の方だった。振り返った翠蓮はにべも無く刀夜を拒否してべーっと舌を出す。

 そんな翠蓮の可愛い嫉妬に刀夜は苦笑いを漏らした。

「やはりお取り込み中でしたか?」
「いや、そうではない……そうではないが……」

 自分から逃げるように去る蘭華達の後ろ姿を見送りながら刀夜は頭を掻いた。

「少しばかり揶揄からかい過ぎた……かな?」
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