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第六章 剣仙の皇子と窮奇の行方

六の壱.

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「えへへ、蘭華さんと逢引きデートだぁ」
「お主は相変わらず愉快な姑娘むすめよのぉ」

 蘭華は腕に嬉しそうに絡み付く翠蓮に引っ張られて外へ出ると牡丹の呆れ声が出迎えた。彼女の背には鞍が付けられ、幾つも麻袋や壺を括り付けている。

「ごめんね牡丹、こんな大荷物を担がせて」

 彼女をいたわるように蘭華が首筋を撫でると、触れる蘭華の手に牡丹が気持ち良さそうに目を細めた。

「米袋四つで一石(約30kg)程度、他の荷を合わせても一石半にもならぬ。駄馬でも楽々運べる駄荷だにじゃ」

 何でもないと牡丹は言うが、蘭華の眉根は申し訳なさそうに下がる。

「これからまだ反物が増えるみたいだけど」
「軽い軽い」

 申し訳なさそうにする蘭華に問題ないと牡丹がからからと笑った。

「もう、早く早く!」
「あんまり引っ張らないで」
「まったく、退屈せぬ姑娘よ」

 痺れを切らせた翠蓮に急かされ仕方ないと諦める蘭華。その後ろから牡丹が笑いながら着いてくる。その背にはいつの間にかちゃっかり百合と芍薬が鎮座していた。

 そして、更に後ろには刀夜の姿も――

「刀夜様もいらっしゃるのですか?」

 それを見咎めた翠蓮が言葉こそ丁寧だが棘を含む言葉を投げ掛けた。

「まだ蘭華に用があるからな」
「せっかくの蘭華さんとの逢引きデートなのにぃ」

 ぶつぶつ文句を言いながら翠蓮は刀夜をにらみ、蘭華の腕に絡めた両腕に力を篭めた。

「蘭華さんは私のですからあげませんよぉだ」
「本当に物怖じせぬ姑娘むすめだ」

 いーっと歯を見せ威嚇する翠蓮に刀夜は苦笑いした。

「もう、刀夜様に失礼よ」

 さすがに蘭華も見かねて翠蓮をたしなめた。

「むぅ、蘭華さんは私より刀夜様が良いんですね」
「どうしてそんな話になるの!?」

 翠蓮に可愛いくとがめられ蘭華は狼狽うろたえる。

 今の翠蓮との会話をどう取られたか不安になり、蘭華はちらりと刀夜を盗み見たのだが翠蓮はそれを見咎めた。

「やっぱり刀夜様が良いんだぁ!」
「ち、違……」

 翠蓮の非難に蘭華はたじたじの態だ。

「強そうだし、なんてったって格好良いですもんね」
「別に私は刀夜様の事なんて……」

 強くは否定できず蘭華の声は尻すぼみとなったが、その声を刀夜の耳はしっかりと捉えていた。

 何となく面白くない気分に刀夜は少しばかり悪戯心が湧く。蘭華の背後から顔を近づけ、その可愛らしい耳に口を寄せた。

「なんだ俺は蘭華の好みではなかったか?」
「ひっ!」

 いきなり背後から耳元に囁かれ蘭華はびくっと跳ねた。
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