魔女の闇夜が白むとき

古芭白あきら

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第五章 剣仙の皇子と魔女の由来

五の漆.

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金子きんすの心配なら要らないぞ」
「えっ!?」

 引き下がる気配のない翠蓮に蘭華が困っていると、横から突然刀夜が会話に割って入ってきた。

「その支払いは俺が持つ」
「で、ですが、それこそ刀夜様から頂戴するいわれは……」

 翠蓮の押し付け以上に刀夜からの申し出に蘭華は困惑した。
 反物はほいほい気軽に人に贈れるような安い代物ではない。

「いや、これは方士院の不手際だからな」
「どういう意味でしょうか?」

 方士院は蘭華ももちろん知っている。

 だが、同じ方術使いでも方士と蘭華のような導士とでは接点はあまり無く、どうして彼らが槍玉に上がったのか蘭華には理解できなかった。

「蘭華に工資ちんぎんが適正に払われていない疑義がある」

 反物一つ買うのに困窮しているところを見るに、先程の斉周から聞いた話は本当らしい。刀夜は額に手を当てて溜め息を漏らした。

月門つきもんでの医療や周辺の森の結界を無私で行う蘭華は尊い。だが、国としては正当な対価を払っていないというのは宜しくない」
「いえ、お金はきちんと貰っておりますよ?」
「それが適正な金額なら服を買うのに困ったりはせん!」

 キョトンとする蘭華はどうやら金銭面に無頓着らしい。

「ですが、たとえそれが本当であっても、刀夜様に服を買って頂くのは話が違います」
「確かに俺個人から贈り物をするのは筋違いではあるが、工資は調査が終わるまで渡せない。だから、その支払いは償いと思って受け取ってくれ」
「そんな……受け取れません」
「いや、受け取って欲しいのだ」
「しかし……」

 蘭華と刀夜は払う受け取れぬの押し問答の繰り返し。すると二人は自然と顔が触れ合う程近づき刀夜はいつの間にか蘭華の手を握っていた。

「はいそこまで!」

 バシッと手刀で二人の握る手を両断し、翠蓮は両腕を蘭華の右腕に絡めた。

「まったく油断も隙もあったももんじゃないわ!」
「ちょ、ちょっと翠蓮」

 蘭華は慌てた。身分を明かしていないが、刀夜は高位貴族であるのは間違いない。無礼打ちされないとも限らないのだ。

「物怖じせぬ姑娘むすめだ」

 もっとも、刀夜は苦笑いするだけで、特に翠蓮を咎めるつもりは無さそうだが。

「反物は買わないといけない。でも蘭華さんに持ち合わせは無い。それなら爺爺おじいちゃんか刀夜様にお金を工面して貰わないといけないのは同じでしょ」
「それはそうかもしれないけど……」
「だったら早く行きましょ」
「あっ、翠蓮!?」

 翠蓮は腕を引いて蘭華を強引に外へと連れ出したのだった。
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