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第五章 剣仙の皇子と魔女の由来
五の肆.
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「でも、今はおくすり要らないでしょ?」
薬を飲みたくない朱明はちょっと上目遣いで蘭華の袖をちょんと摘まんだ。
(か、可愛い!?)
その愛らしさに蘭華は頭をがんと殴られたような衝撃を受けた。朱明の可愛さは蘭華の心をぎゅうっと鷲掴みにしたのだ。
心中ででれでれになった蘭華は思わず朱明のお願いを何でも聞いてあげたくなる。だが、医療人として心を鬼にしなければならない。
「うーん、でもね、朱朱ちゃんもお顔に傷や痣が残ったら嫌でしょ?」
「むぅ」
「私は朱朱ちゃんの可愛い顔に跡が残ったら悲しいわ」
「むぅ」
「この薬は大丈夫だから」
「むぅ」
袖をギュッと掴んだまま抵抗を続ける朱明の頭を蘭華は再び撫でた。
「ふふ、それじゃあ取って置きの魔法を見せて上げる」
「魔法!?」
朱明の瞳がキラキラ光る。
不思議で素敵な単語は幼女の心をばっちり掴んだようだ。その様子にクスリと笑い、蘭華は小袋を取り出した。
「ええ、この魔法の粉を入れるとね、苦~いお薬も甘~くなるのよ」
「ホント?」
蘭華は頷き朱明の薬に粉を混ぜ合わせる。
「ホントホント」
「むぅ、騙してない?」
どうやら斉周の薬はよっぽど苦かったらしい。その経験から朱明も疑り深くなっているようだ。
「それじゃあ私と一緒に味見してみる?」
「味見?」
「そう、まずちょっと舐めてみて嫌だったら飲まなくてもいいから」
「大姐も一緒に飲むの?」
「ええ、まず私が味見するわ」
言うが早いか蘭華は薬を一摘みしてぺろりと舐めた。
「うん、甘いわ」
頬に手を添えて蘭華がにこりと笑うので朱明は目をぱちくり瞬かせた。
「あまいの?」
「ええ、とっても!」
朱明はにこにこ顔の蘭華と手に持つ薬を交互に幾度も見比べる。そして、薬を摘むと恐る恐る口に運んだ。
口に入れた瞬間、クリクリした目が更に大きく見開いた。
「あまぁい!」
「ふふふ、これなら飲めそう?」
「うん!」
朱明は元気に頷くと薬を手にタタタッと走り施療院から出る直前で振り返った。
「大姐ありがとう!」
手を振る朱明の明るさに蘭華の心が和む。
「朱朱ちゃん、気を付けて帰るのよ」
「はーい」
去って行く朱明を見詰める蘭華の紅い瞳が優しい。
「おいおい、いったいどんな魔法なんだ?」
斉周は苦も無く朱明に服薬を促した蘭華の手際に舌を巻いた。子供に薬を飲ませるのは非常に難しいのだ。
「あれは甘草です」
甘草は文字通り甘味の成分を含んだ生薬である。矯味だけではなく、鎮咳去痰、抗炎症鎮痛作用など幅広い効能もあって薬の処方に広く使われている。
「だが、甘草はあんまり飲むと……」
「脱力感や痺れ、浮腫など色んな副作用の原因になりますね」
「分かってるんなら何故?」
「あれは大丈夫です。こんな時の為に副作用が出難いよう甘草を修治してあるんです」
修治とは作用の増減や副作用の軽減などを目的に生薬を加工する事である。
「でも、あまり褒められた手段ではありませんね」
「ちょっと甘やかし過ぎだとは思うが嬢ちゃんはそれで良いんじゃねぇか?」
薬をお菓子感覚で摂取させると、後々子供が甘味欲しさに薬を強請るようになる例もある。朱明の可愛いさについ甘やかしてしまった己の不明を恥じた。
そんな蘭華を後ろから見詰める刀夜の目に熱が篭る。
「素敵だ……」
薬を飲みたくない朱明はちょっと上目遣いで蘭華の袖をちょんと摘まんだ。
(か、可愛い!?)
その愛らしさに蘭華は頭をがんと殴られたような衝撃を受けた。朱明の可愛さは蘭華の心をぎゅうっと鷲掴みにしたのだ。
心中ででれでれになった蘭華は思わず朱明のお願いを何でも聞いてあげたくなる。だが、医療人として心を鬼にしなければならない。
「うーん、でもね、朱朱ちゃんもお顔に傷や痣が残ったら嫌でしょ?」
「むぅ」
「私は朱朱ちゃんの可愛い顔に跡が残ったら悲しいわ」
「むぅ」
「この薬は大丈夫だから」
「むぅ」
袖をギュッと掴んだまま抵抗を続ける朱明の頭を蘭華は再び撫でた。
「ふふ、それじゃあ取って置きの魔法を見せて上げる」
「魔法!?」
朱明の瞳がキラキラ光る。
不思議で素敵な単語は幼女の心をばっちり掴んだようだ。その様子にクスリと笑い、蘭華は小袋を取り出した。
「ええ、この魔法の粉を入れるとね、苦~いお薬も甘~くなるのよ」
「ホント?」
蘭華は頷き朱明の薬に粉を混ぜ合わせる。
「ホントホント」
「むぅ、騙してない?」
どうやら斉周の薬はよっぽど苦かったらしい。その経験から朱明も疑り深くなっているようだ。
「それじゃあ私と一緒に味見してみる?」
「味見?」
「そう、まずちょっと舐めてみて嫌だったら飲まなくてもいいから」
「大姐も一緒に飲むの?」
「ええ、まず私が味見するわ」
言うが早いか蘭華は薬を一摘みしてぺろりと舐めた。
「うん、甘いわ」
頬に手を添えて蘭華がにこりと笑うので朱明は目をぱちくり瞬かせた。
「あまいの?」
「ええ、とっても!」
朱明はにこにこ顔の蘭華と手に持つ薬を交互に幾度も見比べる。そして、薬を摘むと恐る恐る口に運んだ。
口に入れた瞬間、クリクリした目が更に大きく見開いた。
「あまぁい!」
「ふふふ、これなら飲めそう?」
「うん!」
朱明は元気に頷くと薬を手にタタタッと走り施療院から出る直前で振り返った。
「大姐ありがとう!」
手を振る朱明の明るさに蘭華の心が和む。
「朱朱ちゃん、気を付けて帰るのよ」
「はーい」
去って行く朱明を見詰める蘭華の紅い瞳が優しい。
「おいおい、いったいどんな魔法なんだ?」
斉周は苦も無く朱明に服薬を促した蘭華の手際に舌を巻いた。子供に薬を飲ませるのは非常に難しいのだ。
「あれは甘草です」
甘草は文字通り甘味の成分を含んだ生薬である。矯味だけではなく、鎮咳去痰、抗炎症鎮痛作用など幅広い効能もあって薬の処方に広く使われている。
「だが、甘草はあんまり飲むと……」
「脱力感や痺れ、浮腫など色んな副作用の原因になりますね」
「分かってるんなら何故?」
「あれは大丈夫です。こんな時の為に副作用が出難いよう甘草を修治してあるんです」
修治とは作用の増減や副作用の軽減などを目的に生薬を加工する事である。
「でも、あまり褒められた手段ではありませんね」
「ちょっと甘やかし過ぎだとは思うが嬢ちゃんはそれで良いんじゃねぇか?」
薬をお菓子感覚で摂取させると、後々子供が甘味欲しさに薬を強請るようになる例もある。朱明の可愛いさについ甘やかしてしまった己の不明を恥じた。
そんな蘭華を後ろから見詰める刀夜の目に熱が篭る。
「素敵だ……」
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