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第五章 剣仙の皇子と魔女の由来

五の弐.

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「蘭華は神賜術かみのたまものを授かっていないのか?」

この事実は刀夜を驚愕させた。

神賜物は誰もが持って生まれるというのが常識だったからだ。だが、それだけに逆に納得もした。なるほど、国法に照らし合わせれば神賜術で等級を決めるのだから蘭華は爵位を授かれない。

(これは思った以上の悪法だったようだ)

人は様々な個性と才能を持って生まれてくる。神賜術など所詮しょせんは人の持つ能力の一部に過ぎない。実際、蘭華の力量は群を抜いているではないか。蘭華と同じような境遇の者が他にもいるとすれば日輪の国から人材が流出している可能性がある。

「だが、これだけまちに貢献していても無爵者位者を蔑むのなのか?」

蘭華は腕の良い導士で、邑人は医療でも結界でも世話になっている。しかも、その殆どを慈善で行なっている慈母の如き姑娘むすめだ。尊敬こそすれ忌み嫌ういわれはない。

「それだけこの国は爵位を重視しちまってるのさ」
「だが、爵位にそこまでの拘束力はないし、法はその上下で迫害を推奨はしていないぞ」
「それでも実際に貴族の間でも爵位による虐めはあるだろ?」
「それは……否定できんな」

刀夜も宮廷で嫌と言うほど見てきた。

「法を作ったモンが守らなきゃ誰もその法を信用しないんじゃないか?」
「なるほど」

つまり、為政者が率先して法を破れば、それは建前だとしか思われない。

「だが、それでも自分達に益となる蘭華を魔女となじるのは理解し難いが……」

幾ら差別対象としても現実として蘭華は邑人に大きな利益を齎している。嫌悪するのは何故なのか?

「一つは赤い目だな」

高位の貴族と対面する機会がない庶民にとって貴族の世界は完全に雲の上の話だ。紅三家の紅眼など知らない彼らは蘭華の紅い瞳を不気味に感じるらしい。

「人ってのは自分と違う者を受け入れ難いもんなのさ」

更に爵位も無い、神賜術も無い、人が当たり前に持っているものを持たない蘭華は異分子そのもの。

「しかも嬢ちゃんは優秀過ぎた」

 蘭華は国の庇護を失い神からも見放された存在だ。それが強大な力を持って上位である自分達が助けられている。

「それを受け入れられんのさ」
「安い自尊心が彼女を認められないか」
「そう言ってくれるな。人は弱い生き物なんだからよ」
「そうだな、確かにそうだ」

人は弱く、だから理解できない大きな力は恐怖の対象でしかない。

「しかも、嬢ちゃんはまちを出て森で暮らしてるだろ?」
「ああ……」

これには刀夜も言い返せない。彼もまた常陽で噂を聞いて常夜の森にいる蘭華を訪ねたのだから。

「そんで皆んな不気味がって『常夜の魔女』って呼ぶようになったのさ」

妖魔あやかし跋扈ばっこする森で、破屋あばらやに一人暮らす女……確かにまち人からは魔女としか思えないだろう。

だが、自分を忌み嫌う人々を治療する蘭華。

己の矜持を持って働く蘭華はとても凛々しい。心根も強く真っ直ぐで、それでいて優しくもある。刀夜には蘭華が魔女とは思えない。

それに……

美しい――刀夜は心の中で自然と呟いた。
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