魔女の闇夜が白むとき

古芭白あきら

文字の大きさ
上 下
23 / 84
第四章 常夜の魔女と新緑の少女

四の伍.

しおりを挟む
 ――ガララ!

 その時、施療院の扉が乱暴に開けられ大きな悲鳴をあげ、三人の会話が妨げられた。

「診療中だぞ、表で何を騒いでやがる!」

 そして、じゅうぶん大人の男性が通れる扉を潜るようにして、熊のように大きな影がぬっと出てきたのだ。

「きゃっ、斉周先生くま!?」
「「ぷっ!」」

 思わず翠蓮が本音を漏らしたが、出てきた男が本物の熊のような大男で蘭華と刀夜が釣られて吹き出してしまった。

 本当に斉周は熊のような外見なのだ。医者と言うより動物の毛皮を被った山賊と言われた方が納得しそうなのである。

「誰が熊だ、この軽浮姑娘おてんばむすめめ!」
「きゃあ!」

 斉周は拳を振り上げ怒り、翠蓮が頭を抱えてきゃあきゃあと逃げる。が、翠蓮はどこか楽しげに笑っている。翠蓮は斉周が見掛けによらず優しい男だと知っており、本当に殴らるつもりはないと分かっているのだ。

「やーん、蘭華さん助けてぇ」

 翠蓮が蘭華の背に隠れると、代わりに蘭華が頭を下げた。

「ごめんなさい斉周先生」
「おう、なんだ蘭華の嬢ちゃんじゃねぇか」

 しかし、斉周は翠蓮の事などもう忘れて、むんずと蘭華の腕を掴んだ。

「ちょうど良いとこに来たぜ」
「えっ、斉周先生!?」
「患者がいっぱいなんだ手伝ってくれ」
「ちょっ、引っ張らなくても最初からそのつもりですから!」

 あっと言う間に蘭華は施療院の中へと引きずり込まれてしまった。

「あの医者、相変わらずだねぇ」
「本当に患者の事しか頭に無い奴だ」

 やれやれと百合と芍薬が呆れながら後に続いて入って行く。

「ああ、俺も此処ここに用があったんだったな」

 被害者の聞き取り調査に来訪した刀夜も続いて施療院の中へと消えた。

 翠蓮だけが一人ぽつんと残された。

「あっ、それじゃ私も……」
「お主は施療院に用事はなかろう?」

 翠蓮はそそくさと蘭華の後を追おうとしたが、その行手にぬっと赤い竜馬が立ち塞がる。

「翠蓮はわらわと買い物へ行くのじゃ」
「ぼ、牡丹!?」

 そして、襟首を咥え持ち上げられ、翠蓮が短い悲鳴を上げた。

「私だけ除け者ぉ~~~~~」

 ぶらんぶらんと揺られながら翠蓮は連行されてしまったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

処理中です...