魔女の闇夜が白むとき

古芭白あきら

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第四章 常夜の魔女と新緑の少女

四の参.

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「蘭華さん!」

 刀夜と並んで施療院の前に到着した蘭華の胸に一人の少女が飛び込んできた。それは薄茶の髪に新緑の瞳で、顔立ちも愛らしい美少女。

翠蓮すいれん、久しぶりね」

 突然の事に驚いたが、正体を知って蘭華は相好そうごうを崩した。妖魔あやかしに襲われたところを助けて以来よく蘭華に懐いている少女である。

 蘭華を敵視する月門にあって、数少ない慕ってくれる味方だ。それに、とても愛らしく蘭華にとって癒し的存在であった。

「久しぶりって、もう!」

 翠蓮は頬を膨らませてプンプン怒る。

「蘭華さんがぜんぜんまちに来てくれないからじゃないですかぁ!」
「ごめんなさい」

 口を尖らせて怒る翠蓮が可愛いくて蘭華は彼女の頭を優しく撫でた。すると翠蓮は嬉しそうに蘭華の胸に自分の顔を擦り付けた。

「私も翠蓮には会いたいと思っているのよ」
「本当ですかぁ?」
「ほ、本当よ?」

 翠蓮が疑わし気に蘭華を見上げた。その翠蓮の胡乱うろんげな目に蘭華の紅い瞳を逸らした。

「それじゃ何で私の家とは違うところにいるんですか?」
「そ、それは……」

 むぅっと翠蓮がむくれる。

「蘭華さんは私より斉周先生クマがいいんですね」
「ぷっ、く、熊って」

 蘭華は思わず吹き出した。

 この邑唯一の医者である斉周は実際に熊のような大男なのである。蘭華は何とか顔を引き締め笑いを収めた。

「翠蓮、それは斉周先生に失礼よ」
「蘭華さんだって笑ったくせにぃ」

 とがめられた翠蓮は口を尖らせて抗議の声を上げた。

「わ、笑ってなんてないわよ?」

 翠蓮から疑いのジト目を向けられ、ちょっと後ろめたくなった蘭華の目が盛大に泳ぐ。そんな様子の蘭華に翠蓮は溜め息を漏らした。

「まあ、蘭華さんの事だから怪我人の話を聞きつけて来たんでしょうけど」
「あはは……」

 乾いた笑いの蘭華を見て翠蓮は更に大きく溜め息を吐いた。

「いつも蘭華さんをうとんじている人達なのに……蘭華さんはホントお人好し過ぎです」

 紅い瞳に哀しい色が浮かぶ。

「だけど放ってはおけないでしょ?」
「う~、そんな優しい蘭華さんは大好きなんだけどぉ」

 もどかしそうに呻く翠蓮の髪を優しく撫でて蘭華は微笑む。

「ふふふ、私も素直で可愛い翠蓮が大好きよ」
「えへへ、蘭華さんと相思相愛だぁ」

 再び蘭華の胸に翠蓮はぐりぐりと頭を擦り付けるのだった。
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