21 / 84
第四章 常夜の魔女と新緑の少女
四の参.
しおりを挟む
「蘭華さん!」
刀夜と並んで施療院の前に到着した蘭華の胸に一人の少女が飛び込んできた。それは薄茶の髪に新緑の瞳で、顔立ちも愛らしい美少女。
「翠蓮、久しぶりね」
突然の事に驚いたが、正体を知って蘭華は相好を崩した。妖魔に襲われたところを助けて以来よく蘭華に懐いている少女である。
蘭華を敵視する月門にあって、数少ない慕ってくれる味方だ。それに、とても愛らしく蘭華にとって癒し的存在であった。
「久しぶりって、もう!」
翠蓮は頬を膨らませてプンプン怒る。
「蘭華さんがぜんぜん邑に来てくれないからじゃないですかぁ!」
「ごめんなさい」
口を尖らせて怒る翠蓮が可愛いくて蘭華は彼女の頭を優しく撫でた。すると翠蓮は嬉しそうに蘭華の胸に自分の顔を擦り付けた。
「私も翠蓮には会いたいと思っているのよ」
「本当ですかぁ?」
「ほ、本当よ?」
翠蓮が疑わし気に蘭華を見上げた。その翠蓮の胡乱げな目に蘭華の紅い瞳を逸らした。
「それじゃ何で私の家とは違うところにいるんですか?」
「そ、それは……」
むぅっと翠蓮がむくれる。
「蘭華さんは私より斉周先生がいいんですね」
「ぷっ、く、熊って」
蘭華は思わず吹き出した。
この邑唯一の医者である斉周は実際に熊のような大男なのである。蘭華は何とか顔を引き締め笑いを収めた。
「翠蓮、それは斉周先生に失礼よ」
「蘭華さんだって笑ったくせにぃ」
咎められた翠蓮は口を尖らせて抗議の声を上げた。
「わ、笑ってなんてないわよ?」
翠蓮から疑いの目を向けられ、ちょっと後ろめたくなった蘭華の目が盛大に泳ぐ。そんな様子の蘭華に翠蓮は溜め息を漏らした。
「まあ、蘭華さんの事だから怪我人の話を聞きつけて来たんでしょうけど」
「あはは……」
乾いた笑いの蘭華を見て翠蓮は更に大きく溜め息を吐いた。
「いつも蘭華さんを疎んじている人達なのに……蘭華さんはホントお人好し過ぎです」
紅い瞳に哀しい色が浮かぶ。
「だけど放ってはおけないでしょ?」
「う~、そんな優しい蘭華さんは大好きなんだけどぉ」
もどかしそうに呻く翠蓮の髪を優しく撫でて蘭華は微笑む。
「ふふふ、私も素直で可愛い翠蓮が大好きよ」
「えへへ、蘭華さんと相思相愛だぁ」
再び蘭華の胸に翠蓮はぐりぐりと頭を擦り付けるのだった。
刀夜と並んで施療院の前に到着した蘭華の胸に一人の少女が飛び込んできた。それは薄茶の髪に新緑の瞳で、顔立ちも愛らしい美少女。
「翠蓮、久しぶりね」
突然の事に驚いたが、正体を知って蘭華は相好を崩した。妖魔に襲われたところを助けて以来よく蘭華に懐いている少女である。
蘭華を敵視する月門にあって、数少ない慕ってくれる味方だ。それに、とても愛らしく蘭華にとって癒し的存在であった。
「久しぶりって、もう!」
翠蓮は頬を膨らませてプンプン怒る。
「蘭華さんがぜんぜん邑に来てくれないからじゃないですかぁ!」
「ごめんなさい」
口を尖らせて怒る翠蓮が可愛いくて蘭華は彼女の頭を優しく撫でた。すると翠蓮は嬉しそうに蘭華の胸に自分の顔を擦り付けた。
「私も翠蓮には会いたいと思っているのよ」
「本当ですかぁ?」
「ほ、本当よ?」
翠蓮が疑わし気に蘭華を見上げた。その翠蓮の胡乱げな目に蘭華の紅い瞳を逸らした。
「それじゃ何で私の家とは違うところにいるんですか?」
「そ、それは……」
むぅっと翠蓮がむくれる。
「蘭華さんは私より斉周先生がいいんですね」
「ぷっ、く、熊って」
蘭華は思わず吹き出した。
この邑唯一の医者である斉周は実際に熊のような大男なのである。蘭華は何とか顔を引き締め笑いを収めた。
「翠蓮、それは斉周先生に失礼よ」
「蘭華さんだって笑ったくせにぃ」
咎められた翠蓮は口を尖らせて抗議の声を上げた。
「わ、笑ってなんてないわよ?」
翠蓮から疑いの目を向けられ、ちょっと後ろめたくなった蘭華の目が盛大に泳ぐ。そんな様子の蘭華に翠蓮は溜め息を漏らした。
「まあ、蘭華さんの事だから怪我人の話を聞きつけて来たんでしょうけど」
「あはは……」
乾いた笑いの蘭華を見て翠蓮は更に大きく溜め息を吐いた。
「いつも蘭華さんを疎んじている人達なのに……蘭華さんはホントお人好し過ぎです」
紅い瞳に哀しい色が浮かぶ。
「だけど放ってはおけないでしょ?」
「う~、そんな優しい蘭華さんは大好きなんだけどぉ」
もどかしそうに呻く翠蓮の髪を優しく撫でて蘭華は微笑む。
「ふふふ、私も素直で可愛い翠蓮が大好きよ」
「えへへ、蘭華さんと相思相愛だぁ」
再び蘭華の胸に翠蓮はぐりぐりと頭を擦り付けるのだった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷
くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。
怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。
最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。
その要因は手に持つ箱。
ゲーム、Anotherfantasia
体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。
「このゲームがなんぼのもんよ!!!」
怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。
「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」
ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。
それは、翠の想像を上回った。
「これが………ゲーム………?」
現実離れした世界観。
でも、確かに感じるのは現実だった。
初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。
楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。
【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】
翠は、柔らかく笑うのだった。
真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~
椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」
仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。
料亭『吉浪』に働いて六年。
挫折し、料理を作れなくなってしまった――
結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。
祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて――
初出:2024.5.10~
※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる