18 / 84
第三章 常夜の魔女と月門の邑
三の陸.
しおりを挟む
「それが貴様らの考えか」
刀夜の声は今までより低かったが、それだけに怒気を孕み威圧感は相当なものだった。直接向けられていない蘭華の背中にも冷や汗が流れる。
門番達も刀夜の気迫に飲まれたようで、まるで金縛りにあったように動けない。
「だ、だから何だってんだ!」
その中で子雲だけは辛うじて虚勢を張った。
「あまり権力を振り翳すのは好まぬが……」
刀夜は懐から円形の鉄板を取り出し子雲にだけ見せた。恐らく円環符(円形の金属板でできた身分証明書)だろうと思われたが、蘭華の位置からでははっきり見えない。
だが、子雲はみるみる顔を青くした。
「あ、あなた様は!?」
「この事は他言無用だ」
鋭く釘を刺され子雲は慌てて手で口を塞いだ。
「この件は俺達が調査する。軽々な行動は慎め」
「で、ですが、この女は……」
「あまり彼女を粗略に扱うのは感心しないぞ」
「あの女は邑に災厄を齎す魔女です」
「彼女は魔女ではなく導士であろう」
頑なに蘭華を否定する子雲の態度に刀夜の口から溜息が漏れる。
「自らの手でせっかくの瑞兆を失うのは愚かだぞ」
「それはどういう……」
意味深な言葉に子雲は不思議そうな顔で尋ねたが、刀夜はそれ以上は何も語らなかった。
「蘭華は俺が預かる」
「お待ちください!」
子雲が尚も言い募ろうとしたが、話はそれまでと刀夜は相手にしなかった。
「蘭華は月門に用事があるのだろう?」
「えっ、あっ、はい」
「ならば共に行こう」
そのまま刀夜は有無を言わさず蘭華を連れて邑内の方へと去って行った。それを黙って見送る門番達は戸惑い、互いに顔を見合わせた。
「どうするんだよ?」
「どうするって言ってもよぉ」
彼らに結論を出せる筈もなく、自然と全員の視線が門番の長たる子雲に集まる。
「なあ子雲、あの御仁はお偉いさんなんだろ?」
「ああ、かなりな……」
口止めされているので子雲は刀夜の身分を明かせず口を濁した。それでも門番達も雰囲気で逆らうのが拙い相手だとは理解できる。
「だからって魔女を放置したままにできっかよ!」
ムッと顔を顰めて利成が吠えた。よっぽど芍薬に引っ掻かれたのが腹に据えかねたようだ。顔に残る三本の爪の痕が痛々しい。
「このままじゃ俺達の邑が魔女に荒らされちまうぞ!」
「だけどよ、あの御仁は貴族だろ?」
「逆らうわけには……」
「いや、利成の言う通りだ」
日和る青年達の声を子雲が遮った。皆の視線が子雲へと集まる。子雲の顔は怒気に歪んでいた。
「魔女は許しちゃならん」
そして、憎しみとも思える炎が宿し、子雲は門を潜る蘭華の背を睨みつけた。
「絶対に許しちゃならんのだ……」
刀夜の声は今までより低かったが、それだけに怒気を孕み威圧感は相当なものだった。直接向けられていない蘭華の背中にも冷や汗が流れる。
門番達も刀夜の気迫に飲まれたようで、まるで金縛りにあったように動けない。
「だ、だから何だってんだ!」
その中で子雲だけは辛うじて虚勢を張った。
「あまり権力を振り翳すのは好まぬが……」
刀夜は懐から円形の鉄板を取り出し子雲にだけ見せた。恐らく円環符(円形の金属板でできた身分証明書)だろうと思われたが、蘭華の位置からでははっきり見えない。
だが、子雲はみるみる顔を青くした。
「あ、あなた様は!?」
「この事は他言無用だ」
鋭く釘を刺され子雲は慌てて手で口を塞いだ。
「この件は俺達が調査する。軽々な行動は慎め」
「で、ですが、この女は……」
「あまり彼女を粗略に扱うのは感心しないぞ」
「あの女は邑に災厄を齎す魔女です」
「彼女は魔女ではなく導士であろう」
頑なに蘭華を否定する子雲の態度に刀夜の口から溜息が漏れる。
「自らの手でせっかくの瑞兆を失うのは愚かだぞ」
「それはどういう……」
意味深な言葉に子雲は不思議そうな顔で尋ねたが、刀夜はそれ以上は何も語らなかった。
「蘭華は俺が預かる」
「お待ちください!」
子雲が尚も言い募ろうとしたが、話はそれまでと刀夜は相手にしなかった。
「蘭華は月門に用事があるのだろう?」
「えっ、あっ、はい」
「ならば共に行こう」
そのまま刀夜は有無を言わさず蘭華を連れて邑内の方へと去って行った。それを黙って見送る門番達は戸惑い、互いに顔を見合わせた。
「どうするんだよ?」
「どうするって言ってもよぉ」
彼らに結論を出せる筈もなく、自然と全員の視線が門番の長たる子雲に集まる。
「なあ子雲、あの御仁はお偉いさんなんだろ?」
「ああ、かなりな……」
口止めされているので子雲は刀夜の身分を明かせず口を濁した。それでも門番達も雰囲気で逆らうのが拙い相手だとは理解できる。
「だからって魔女を放置したままにできっかよ!」
ムッと顔を顰めて利成が吠えた。よっぽど芍薬に引っ掻かれたのが腹に据えかねたようだ。顔に残る三本の爪の痕が痛々しい。
「このままじゃ俺達の邑が魔女に荒らされちまうぞ!」
「だけどよ、あの御仁は貴族だろ?」
「逆らうわけには……」
「いや、利成の言う通りだ」
日和る青年達の声を子雲が遮った。皆の視線が子雲へと集まる。子雲の顔は怒気に歪んでいた。
「魔女は許しちゃならん」
そして、憎しみとも思える炎が宿し、子雲は門を潜る蘭華の背を睨みつけた。
「絶対に許しちゃならんのだ……」
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる