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第三章 常夜の魔女と月門の邑

三の伍.

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「そこまでだ」

 突然現れた刀夜は金青こんじょうの鋭い眼光で男達を射竦いすくめた。声も良く通り、無視できない貫禄もある。まち人達だけではなく蘭華も逆らい難い威厳を感じた。
  
 (思った通り、かなりの使い手ね)

 殆ど同時に蘭華へ迫る男達の槍を斬り飛ばし、更には子雲の剣も弾き飛ばす。それは怖ろしいまでの神速で、精密な剣さばきはまさに神技。

 蘭華は辛うじて刀夜の剣を捉えたが、門番達は何が起きたか理解できていないのだろう。子雲も彼の部下も切り飛ばされた自分の武器を呆然と眺めていた。

「武器を手に大勢で姑娘むすめを取り囲むのは穏やかではないな」
「だ、黙れ!」
「これは我らの問題だ」
他所よそ者は引っ込んでろ!」

 刀夜がやんわりたしなめたが、門番達は聞く耳を持たずにいきり立つ。

「そうはいかん。お前達は何の権限を持って蘭華に狼藉を働く?」
「俺達はまちを守る為に悪しき魔女を成敗しているのだ!」

 だが、門番達は意固地な態度を示し、刀夜の口から溜め息が漏れた。

「蘭華は無実だ」
「こいつは妖魔あやかしけしかけた魔女だ」
「そうだ、殺さねば俺達が殺される」

 青年の説得にも邑人は何処までもかたくなだ。
  
「俺にはお前達の方が一方的に仕掛けていたように見えたが?」
「うるせぇ!」
「どうせこいつは有罪なんだ」

 だが、男達は理性を欠き喚き散らす。

「我が国は私刑を認めていないぞ」
「お上の沙汰を待つまでもない」
「それに無爵位者なんて殺ってもバレやしねぇよ」

 最後の者の暴言に刀夜が不愉快そうに眉を顰めた。

「あの者達はアホウか?」

 やり取りを傍観していた牡丹が呆れ声で蘭華に囁く。
  
わらわでもあの若造が身分の高い貴人だと分かるぞ?」

 法を破ると宣言するのは政府を蔑ろにすると言っているのと同じ。刀夜は間違いなく法を遵守させる側の人間だ。彼がその気になれば最悪死罪もあり得る状況である。

「大事にならなければいいけど」

 蘭華は彼らの無法が人の弱さによるものと理解している。だから、自分を殺そうとした男達であっても心配してしまう。

「蘭華は優し過ぎる」

 そんな蘭華のお人好しに牡丹は呆れた。だが、そんな蘭華だからこそ牡丹は彼女と共にあろうと思ったのだ。

「だが、あの若造はアホウ共を許すつもりはなさそうじゃ」

 牡丹の視線の先を追えば青年の怒りの圧が凄まじく、まるで視認できるようであった。 
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