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第三章 常夜の魔女と月門の邑

三の参.

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 月門つきもんゆうへと続く道を蘭華と霊獣達が和やかに進む。

 遠くからは小さく見えた城郭だったが、側までくれば見上げるほど大きい。およそ十丈(約16m)はあるだろう。

 鉄扉でできた郭門も大きく立派で、夜間は閉じられ妖魔あやかしの侵入を許さない。今は開かれているが、通行人を検問する門番によって守られている。

 平素よりこの城郭と郭門、門番達によって月門の平穏が守られているのだ。

「来たな常夜の魔女!」

 ところが、その門番達が蘭華を見るなり騒ぎ出し、まちの中から剣や槍で武装した十人程の男達が飛び出してきた。
  
「よくものこのこ姿を現せたものだな」
「貴様の悪事もここまでだ」

 しかも、あろう事か彼らは蘭華を囲んで矛先を向けてきた。
  
「ま、待ってください」

 予想外の事態に蘭華は狼狽ろうばいした。

「私は何も恨まれるような真似をした覚えはありません」

 日頃から月門つきもん邑人まちびと達から良い印象を持たれていないのは蘭華自身も知っている。それでも刃を向けられるほど憎まれているとは思わなかった。

「黙れ卑しい無爵位者!」
「神妙にしろ魔女め!」

 蘭華の弁明に男達はまるで聞く耳を持たない。

 神賜術かみのたまものを持たない蘭華への偏見は根強い。神から良く思われていない不心得者とみなされるからだ。
  
 だから、蘭華にはまちの居心地は悪かった。それでもここまで剥き出しの敵意を向けられたのは初めてである。

「最初から貴様は信用ならなかったんだ」

 壮年の男が剣の切っ先を蘭華に向けてえた。

 庶民の衣服である襦褲じゅこを着ているが、他の若者が白い布で緇撮しさつにしているのに対して彼は黒の布でまげにしていた。

 名は子雲しうんだったと蘭華は記憶している。門番を仕切っている男で何かと蘭華を目の敵にしていた男だ。
  
「この妖魔あやかし使いめ!」
「百合達は妖魔ではありません!」

 いつもは温厚な蘭華が思わず声を荒げた。百合達をおとしめられて黙っていられなかったのだ。

「この子達は吉祥をもたらす霊獣です。人の血肉をすする妖魔と同列にしないでください!」

 霊獣と同様に妖魔も魔力を宿しているが、聖なる霊格を持たず、人を襲い喰らう。しかも、人の善意に報いる霊獣とは違い妖魔は悪意を以て人をもてあそぶ。
  
「馬鹿を言うな。お前のような小娘に霊獣が御せるものか」
「だいたい人を襲っておいて何が霊獣だ」
「この子達はそんな事はしません!」

 百合達をかばう蘭華の叫びは、しかし男達には届かなかった。
  
「ここの所、妖魔あやかしが頻繁に出没しているのだ」
「いくら何でも被害が多過ぎる!」 

 確かに結界の張られた森から妖魔は簡単には出られない。頻繁に被害が出るなら近郊の森のどこかに結界に綻びがあるか、妖魔使いが手引きしたかのどちらかと考えるのが妥当である。

「誤解です。私は何もしていません!」

 必死に弁明する蘭華であったが、門番達の目は敵意が篭ったままだった。
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