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第三章 常夜の魔女と月門の邑

三の弐.

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「あっ、見えてきたよ~」

 蘭華達が和気藹々わきあいあいと大道を歩いていると程なくして大きな城郭が見えてきた。

 森は広大で国土全てに結界を張るのは不可能だ。加えて強引に結界を越えてくる妖魔あやかしもいる。だから、どうしても妖魔の被害を完全には抑えられない。

 実際、年に数件ほど妖魔あやかしによる被害が報告されている。
  
 その為、みかどの座す都邑みやこや主だった大邑とかいだけではなく、その大小に関わらずまちは城郭で守られていた。
  
 蘭華達が向かっている月門つきもんゆうも日輪の国から月の国へ伸びる大道の入り口にある交通の要所。人口千人程のまちで田舎にしては大きく、城郭もかなり高く頑丈に造られていた。
  
「相変わらず物々しい所よ」
「人は妖魔あやかしに対して無力だもの」

 普通の人は蘭華のように強力な魔術を使えなければ強大な霊獣に守られてもいない。

「城郭で守られていない場所では生きていけないのよ」
「それなら何故こんな場所に国を築いたのか、全く我には理解不能だ」

 数百年前、外敵の脅威に晒されていた民がいた。この亡国の危機に一人の若者が常夜の森を切り拓き、民を導いて森を防波堤に外敵を退けた。その後、この地に国を興したというのが日輪の国の建国神話だ。

 ちなみに、この若者こそが初代の帝『日帝にってい』であり、彼の血脈は今に至るまで綿々と続いている。

「だから、この国に生きる人々にとって、この地は聖地であり心の拠り所なの」
「やはり良く分からん」

 霊獣である芍薬には人間の心情は不可解だ。

「それは何百年も前の話であろう。既に外敵もないのだから別の土地へ移れば良いのに」
「土地に根ざした人間はそう簡単に移動できないものなのよ」
「一度は移り住んだではないか。一度も二度も変わるまい?」

 芍薬はどうにも納得してくれない。

「人とは何とも理屈に合わぬ不合理な生き物よ」
ふくろうのように獣にも縄張りを一度決めたら一生移動せぬものもいよう」

 頑なな芍薬に困惑する蘭華を見かねて牡丹が口を出す。

「種により都合はあるものじゃ。己の狭い理屈だけで判断するでない」
「むぅ」

 少し不満げな様子を見せながらも芍薬は耳を横に垂れて引き下がった。どうやら芍薬は牡丹に頭が上がらないらしい。

 実は霊格では芍薬の方が上なのだが、彼は牡丹を何処か怖れている所がある。

 そんな二人の関係に蘭華は可笑おかしみを感じてくすりと笑ったのだった。
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