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第一章 常夜の魔女と森の家
一の陸.
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「薬草茶しかお出しできず申し訳ございません」
自分の破屋に刀夜と夏琴を上げると、蘭華はなるべく綺麗な茶碗で自前の生薬を調合した茶を出した。
独特な匂いに夏琴は僅かに眉を寄せたが、刀夜は平然と何食わぬ顔で一口啜る。
「ふむ、薬草茶とは初めて飲むが悪くない」
「恐れ入ります」
刀夜は天絹を纏う程の身分だ。幾らでも旨い茶を嗜んでいるので世辞なのは丸わかりである。だが、そんな素振りを微塵も見せぬのは彼の人柄の良さなのかもしれない。
「先程は失礼した」
「いえ、私の方も意固地でした」
圧倒的に身分が上であろうに、さらりと詫びる刀夜に蘭華は好感を持った。もっとも、使い魔である羽兎の百合と白猫の芍薬はまだ警戒しているようで、蘭華の側から離れずに刀夜を睨んでいるが。
「それで、刀夜様は魔女をお探しとのことですが……」
「いや、魔女自体が目的ではないのだ」
最初に『常夜の魔女』を探している様子のようだったが、あっさり否定されて蘭華は首を傾げた。
「それでは何故に斯様な所まで危険を冒して訪ねられてこられたのでしょうか?」
常夜の森は手練れの武人でも命を落としかねない。そんな場所に物見遊山でもないだろう。
「ふむ……」
単刀直入に尋ねる蘭華に茶を啜りながら刀夜は考える素振りを見せた。
「俺達はとある事件の追って都邑より来たのだ」
日輪の国の都邑と言えば『常陽』である。
そこは帝が座すこの国の中枢だ。だとすると刀夜は事件の調査に来た役人だろうか?
(だけど、刀夜様の身形はとても役人には見えない)
役人がわざわざ危険な常夜の森を訪れるとは思えないし、刀夜の立ち振る舞いや身に付けている高価な衣服は高位の貴族としか見えない。
どうにも刀夜には謎が多い。
「その事件についてお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「構わない。どうせ噂になっている事だからな」
「噂……ですか」
「実は一ヶ月程前より妖虎が出没していて、幾人もの被害者が出ているのだ」
聞けば妖虎の他に猫と鳥の妖魔を連れた姑娘が人々に害をなしているらしい。幸い死者こそいないが、多くの怪我人が出ており無視できない状況なのだとか。
「それで常夜の森に住む蘭華の噂を聞いてな」
そこまで聞いて刀夜の目的を理解した。
月門の邑での蘭華の評判はすこぶる悪い。それは『常夜の魔女』などと蔑むくらいで、事件について彼らが蘭華を疑うのは十分にあり得た。
「つまり、その姑娘が私だとお疑いで?」
「巫山戯るな!」
それまで蘭華の膝の上で大人しくしていた芍薬が毛を逆立て怒りを露わにした。
「蘭華はそんな馬鹿な真似はせん!」
「なっ! 猫が喋った!?」
自分の破屋に刀夜と夏琴を上げると、蘭華はなるべく綺麗な茶碗で自前の生薬を調合した茶を出した。
独特な匂いに夏琴は僅かに眉を寄せたが、刀夜は平然と何食わぬ顔で一口啜る。
「ふむ、薬草茶とは初めて飲むが悪くない」
「恐れ入ります」
刀夜は天絹を纏う程の身分だ。幾らでも旨い茶を嗜んでいるので世辞なのは丸わかりである。だが、そんな素振りを微塵も見せぬのは彼の人柄の良さなのかもしれない。
「先程は失礼した」
「いえ、私の方も意固地でした」
圧倒的に身分が上であろうに、さらりと詫びる刀夜に蘭華は好感を持った。もっとも、使い魔である羽兎の百合と白猫の芍薬はまだ警戒しているようで、蘭華の側から離れずに刀夜を睨んでいるが。
「それで、刀夜様は魔女をお探しとのことですが……」
「いや、魔女自体が目的ではないのだ」
最初に『常夜の魔女』を探している様子のようだったが、あっさり否定されて蘭華は首を傾げた。
「それでは何故に斯様な所まで危険を冒して訪ねられてこられたのでしょうか?」
常夜の森は手練れの武人でも命を落としかねない。そんな場所に物見遊山でもないだろう。
「ふむ……」
単刀直入に尋ねる蘭華に茶を啜りながら刀夜は考える素振りを見せた。
「俺達はとある事件の追って都邑より来たのだ」
日輪の国の都邑と言えば『常陽』である。
そこは帝が座すこの国の中枢だ。だとすると刀夜は事件の調査に来た役人だろうか?
(だけど、刀夜様の身形はとても役人には見えない)
役人がわざわざ危険な常夜の森を訪れるとは思えないし、刀夜の立ち振る舞いや身に付けている高価な衣服は高位の貴族としか見えない。
どうにも刀夜には謎が多い。
「その事件についてお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「構わない。どうせ噂になっている事だからな」
「噂……ですか」
「実は一ヶ月程前より妖虎が出没していて、幾人もの被害者が出ているのだ」
聞けば妖虎の他に猫と鳥の妖魔を連れた姑娘が人々に害をなしているらしい。幸い死者こそいないが、多くの怪我人が出ており無視できない状況なのだとか。
「それで常夜の森に住む蘭華の噂を聞いてな」
そこまで聞いて刀夜の目的を理解した。
月門の邑での蘭華の評判はすこぶる悪い。それは『常夜の魔女』などと蔑むくらいで、事件について彼らが蘭華を疑うのは十分にあり得た。
「つまり、その姑娘が私だとお疑いで?」
「巫山戯るな!」
それまで蘭華の膝の上で大人しくしていた芍薬が毛を逆立て怒りを露わにした。
「蘭華はそんな馬鹿な真似はせん!」
「なっ! 猫が喋った!?」
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