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第23話 綴る世界⑧「綴の選択する世界・後編」
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――カチャッ
その時、背後で石を蹴る音がした。
「どうして……」
振り返れば舞踏会で見た黒いドレス姿の書院さんが苦しげに僕を見つめていた。
「このままじゃ物語が終わらず世界が消滅してしまうわ。そうなれば佐倉さんだって消えちゃうのよ!」
書院さんは僕に詰め寄り胸ぐらを掴んだ。
「どのみち私は助からないわ」
ストーリーを再現すれば書院さんは僕に殺される。それを回避すれば僕と書院さんは世界とともに消滅するかもしれない。
「でも、試したことはないでしょ?」
もしかしたら問題なく現実世界へ戻れるかもしれないし、この世界だって消滅しないかもしれない。
「だけど危険な賭けだわ。それよりも小説に沿ってラストシーンまで行けば佐倉さんだけは確実に戻れるのよ」
僕の胸元を握る書院さんの手が小刻みに震えている。その手を僕は優しく包み込んだ。
「どのみち僕がコデットに告白したって呪いは解けません」
「どうして?」
「だって僕は彼女を愛していませんし、彼女も僕を愛していません」
当たり前のことなのだ。
僕は佐倉綴であって『黒鳥の湖』のジークじゃない。コデットの方も僕に対して恋慕の情など抱いていないのは一目瞭然だ。
「うわべだけ取り繕って呪いが解けるならコデットはとっくに人の姿に戻っていますよ」
「だけど原作ではジークがコデットと最後に結ばれるんです」
書院さんは小説の筋書きにこだわってしまっている。
「それはジークだから、物語の主人公はジークだから……」
だけど僕がジークになってしまった段階でそれは破綻してしまっている。
「だけど、ここにいる僕はジークじゃない……佐倉綴なんです」
「でも、私が死なないと……佐倉さんが帰れない……」
「それは物語のコニールの役目です……僕がジークじゃないのと同じで、あなたはコニールじゃない、書院紡子さんなんです」
「ですが、それでも物語のラストシーンさえ迎えれば佐倉さんは現実世界に帰れるはずです」
「それでも僕はコデットに嘘の告白をするつもりはありません」
「命がかかっているのにどうして――あっ!?」
僕は書院さんを強引に引き寄せ抱き締めた。
「僕が好きなのは書院さん……書院紡子さんだけだから」
その時、背後で石を蹴る音がした。
「どうして……」
振り返れば舞踏会で見た黒いドレス姿の書院さんが苦しげに僕を見つめていた。
「このままじゃ物語が終わらず世界が消滅してしまうわ。そうなれば佐倉さんだって消えちゃうのよ!」
書院さんは僕に詰め寄り胸ぐらを掴んだ。
「どのみち私は助からないわ」
ストーリーを再現すれば書院さんは僕に殺される。それを回避すれば僕と書院さんは世界とともに消滅するかもしれない。
「でも、試したことはないでしょ?」
もしかしたら問題なく現実世界へ戻れるかもしれないし、この世界だって消滅しないかもしれない。
「だけど危険な賭けだわ。それよりも小説に沿ってラストシーンまで行けば佐倉さんだけは確実に戻れるのよ」
僕の胸元を握る書院さんの手が小刻みに震えている。その手を僕は優しく包み込んだ。
「どのみち僕がコデットに告白したって呪いは解けません」
「どうして?」
「だって僕は彼女を愛していませんし、彼女も僕を愛していません」
当たり前のことなのだ。
僕は佐倉綴であって『黒鳥の湖』のジークじゃない。コデットの方も僕に対して恋慕の情など抱いていないのは一目瞭然だ。
「うわべだけ取り繕って呪いが解けるならコデットはとっくに人の姿に戻っていますよ」
「だけど原作ではジークがコデットと最後に結ばれるんです」
書院さんは小説の筋書きにこだわってしまっている。
「それはジークだから、物語の主人公はジークだから……」
だけど僕がジークになってしまった段階でそれは破綻してしまっている。
「だけど、ここにいる僕はジークじゃない……佐倉綴なんです」
「でも、私が死なないと……佐倉さんが帰れない……」
「それは物語のコニールの役目です……僕がジークじゃないのと同じで、あなたはコニールじゃない、書院紡子さんなんです」
「ですが、それでも物語のラストシーンさえ迎えれば佐倉さんは現実世界に帰れるはずです」
「それでも僕はコデットに嘘の告白をするつもりはありません」
「命がかかっているのにどうして――あっ!?」
僕は書院さんを強引に引き寄せ抱き締めた。
「僕が好きなのは書院さん……書院紡子さんだけだから」
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