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第19話 綴る世界⑦「二人の結ばれぬ世界・前編」
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――僕にも異能があるかもしれない。
それが僕にとってどれほど衝撃的な事実か。しかも、それを教えてくれたのは書院紡子さん。
書院さんはホントに僕に取って運命の女性なのかもしれない。
だけど、今はそれどころじゃない。
書院さんの説明によれば今いる世界は本の中。元の世界に戻るには物語のラストを迎えないといけないらしい。
だけど、ここは『黒鳥の湖』という某有名なバレエの演目を小説にしたもの。その中で僕は主人公の一人ジークに書院さんはライバル役のコニールになっている。僕の方は問題ないけど書院さんは最後に殺されてしまう。
つまり、物語を終わらせるためには書院さんが殺され僕がコデットと結ばれる必要がある。しかしながら、書院さんの異能は物語での出来事を現実のものとしてしまうらしいから、コニールの死は書院さんの死を意味するとのこと。
「途中で能力を解除できないのですね?」
「今まで途中で物語を放棄できたことはありません」
「別の結末を迎えるのではダメなんですか?」
例えば書院さんとロッドバロンとの対決をすっ飛ばし、僕がこのまま湖へ行ってコデットに愛を誓って呪いを解くとか……
「ラストを変更した時、元の世界に戻れる保証がありません」
だったら死んだフリで誤魔化すとか……
「原典と異なり『黒鳥の湖』ではコニールの死が明確に描写されているんです」
だけど、僕の提案に書院さんは首を横に振った。
「ですが、他にどうしようもないでしょう?」
「私の責任ですから、いよいよの時には佐倉さんだけでも元の世界にお戻りください」
それって僕が書院さんを殺すってこと!?
「そんなのできっこありません!」
「ですが他に方法が……」
だけど、僕がいなければ書院さんは他の方法をダメ元で試せたはずなんだ。僕にせいで書院さんが死を選ぶなんて絶対に嫌だ!
「まだ諦めるのは早いと思います」
「下手をすると現実世界に戻れなくなるかもしれないんですよ?」
確かに帰れなくなるのも嫌だけど……
「でも、書院さんだって死にたいわけじゃないでしょ?」
「それは……私だって死にたくはありません」
「だったら!」
「きゃっ!」
僕は気が昂って書院さんの細い両肩を掴んで引き寄せた。
「僕だって元の世界に戻りたい……でも、それ以上に書院さんが死ぬのは嫌です」
「ど、どうして……そこまで……」
「それは……僕が……」
「それは?」
書院さんの瞳が不安に揺らぐのを見て僕は言い淀む。心臓がバクバクと鼓動して爆発しそうだ。
だけど、これから告白する機会はもうこないかもしれない。
だから――
「僕が書院さんを好きだからです」
それが僕にとってどれほど衝撃的な事実か。しかも、それを教えてくれたのは書院紡子さん。
書院さんはホントに僕に取って運命の女性なのかもしれない。
だけど、今はそれどころじゃない。
書院さんの説明によれば今いる世界は本の中。元の世界に戻るには物語のラストを迎えないといけないらしい。
だけど、ここは『黒鳥の湖』という某有名なバレエの演目を小説にしたもの。その中で僕は主人公の一人ジークに書院さんはライバル役のコニールになっている。僕の方は問題ないけど書院さんは最後に殺されてしまう。
つまり、物語を終わらせるためには書院さんが殺され僕がコデットと結ばれる必要がある。しかしながら、書院さんの異能は物語での出来事を現実のものとしてしまうらしいから、コニールの死は書院さんの死を意味するとのこと。
「途中で能力を解除できないのですね?」
「今まで途中で物語を放棄できたことはありません」
「別の結末を迎えるのではダメなんですか?」
例えば書院さんとロッドバロンとの対決をすっ飛ばし、僕がこのまま湖へ行ってコデットに愛を誓って呪いを解くとか……
「ラストを変更した時、元の世界に戻れる保証がありません」
だったら死んだフリで誤魔化すとか……
「原典と異なり『黒鳥の湖』ではコニールの死が明確に描写されているんです」
だけど、僕の提案に書院さんは首を横に振った。
「ですが、他にどうしようもないでしょう?」
「私の責任ですから、いよいよの時には佐倉さんだけでも元の世界にお戻りください」
それって僕が書院さんを殺すってこと!?
「そんなのできっこありません!」
「ですが他に方法が……」
だけど、僕がいなければ書院さんは他の方法をダメ元で試せたはずなんだ。僕にせいで書院さんが死を選ぶなんて絶対に嫌だ!
「まだ諦めるのは早いと思います」
「下手をすると現実世界に戻れなくなるかもしれないんですよ?」
確かに帰れなくなるのも嫌だけど……
「でも、書院さんだって死にたいわけじゃないでしょ?」
「それは……私だって死にたくはありません」
「だったら!」
「きゃっ!」
僕は気が昂って書院さんの細い両肩を掴んで引き寄せた。
「僕だって元の世界に戻りたい……でも、それ以上に書院さんが死ぬのは嫌です」
「ど、どうして……そこまで……」
「それは……僕が……」
「それは?」
書院さんの瞳が不安に揺らぐのを見て僕は言い淀む。心臓がバクバクと鼓動して爆発しそうだ。
だけど、これから告白する機会はもうこないかもしれない。
だから――
「僕が書院さんを好きだからです」
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