紡子さんはいつも本の中にいる

古芭白あきら

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第18話 紡ぐ物語⑥「無能力者の物語・後編」

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「無い?……」

 私は意味が分からず、復唱するように聞き返しました。

「ですから僕は異能を持ってないんです」
「はぁ?」

 私は佐倉さんの言葉の意味を掴みかねて、たっぷり数十秒は考え込む。

 異能を持っていないなんてあり得るのかしら?

「異能は全ての人に生まれながら与えられるものでは?」
「でも、実際に僕は異能を使おうとしても何も思い浮かびません」

 基本的に異能は使おうと思えば自然と頭に使い方が浮かぶ。

 ただ、それには例外もあります。例えば私のように……

「私と同じ受動的異能パッシブアビリティなのではありませんか?」
「パッシブ? 何ですかそれ?」

 私の能力のように特定の条件下で自動的に発動する異能の場合がそれです。かなり稀な例で一千万人に一人くらいしかいないそうで、研究もほとんど進んでいないらしい。

 異能がパッシブの場合は条件発動なので念じても能力が発動しない。ただ、たいてい私の読書と同様に何かしら個人の嗜好、特性に沿った能力らしく、すぐに使い方は判明するのだけれど……

「そんなのがあるんですね」
「もしかして佐倉さんの異能は他者の異能に干渉するものなのかもしれません」
「他者の異能に?」

 数百年前に他者の異能に干渉して色んな能力を使った人がいたと何かの本で読んだ覚えがあります。ただ、かなり昔の出来事だし、あまりに荒唐無稽で作り話だろうと言われていました。

「異能なんて日常で使用することはほとんどありませんから、それで佐倉さんはご自分の異能を認識できなかったのではないでしょうか?」
「僕にも異能がある?」
「その可能性はあるかと」

 私の話を聞いて佐倉さんは少し呆けて、次に泣き出しそうにくしゃりと顔を歪ませた。

「僕にも……僕にも異能があるんだ……」
「佐倉さん……」

 もしかしたら佐倉さんは異能を持っていないせいで辛い思いをしてきたのかもしれません。

 泣きそうに、それでいて嬉しそうな彼の顔を見て私はなんとなくそう思ったのでした。
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