紡子さんはいつも本の中にいる

古芭白あきら

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第13話 紡ぐ物語⑤「白鳥と悪魔の物語・前編」

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「姫様お下がりください!」
「この悪魔の女め!」

 黒衣の私を見咎めた侍女たちが警戒を露わにしたが無理もない。彼女たちにとって私は仕える主人に呪いをかけた側なのだから。

 本当はコデットを救うためであったが、悪魔として呪いをかけるにあたり人助けなどという理由は他の悪魔の手前許されない。

 この事が後にコニールとロッドバロンの悲劇に繋がるのだが。

「ふふふ、来るんじゃないかって思っていたわ」

 だけど、憎しみの目を向ける侍女たちと異なり、コデットは姿を現した私を見て微笑んだ。その笑貌はどこか小悪魔的で、小説では清純なはずのコデットとの違いに私は戸惑いを隠せないでいた。

「あなた、コデットよね?」
「ええ、あなたの親友のコデットよ」
「今でも私を親友と思っているの?」
「あなたは違うの?」

 なんだろう?

 小説では親友コニールに裏切られたと嘆き悲しんでいたのに、目の前のコデットにはなんだか余裕がある。

「さっき、この国の王子が来ていたみたいだったけど?」

 だけど今はそれよりジークがコデットを夜会に誘ったかの方が重要事項だ。

「何を話していたの?」
「あら、気になる、コニール?」

 意味深に笑うコデットは、やはり原作とは違って見える。まあ、顔が私ってだけでイメージがかけ離れてしまっているけど。

「ちょっと素敵な方でしたものね」
「べ、別に私は……」
「あら、本当に?」
「ほ、本当に私は……」
「俺は気になるな」

 ――バサバサッ!

 その時、翼を羽ばたかせ私たちの目の前に大きなふくろうが降り立った。と思った瞬間、梟は大きく膨れ上がり三十半ばくらいの男性に姿を変える。

 まったき黒髪を綺麗に整え、青い瞳は涼やかで、黒一色の服装ながら洗練された洒落者の美中年。

「お父様……」
「ロッドバロン様!」

 この人物こそコニールの父にして偉大なる大悪魔――ロッドバロンその人である。
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